いわば我慢の勝利である。大学王者の早大が我慢強く守り、我慢強く攻め続けた。新型コロナウイルスの影響下で行なわれた伝統の早慶戦。組織力と個の才能がかみあい、慶大に22-11で競り勝った。対抗戦で節目の70勝目(20敗7分け)をあげ、唯一全勝…

 いわば我慢の勝利である。大学王者の早大が我慢強く守り、我慢強く攻め続けた。新型コロナウイルスの影響下で行なわれた伝統の早慶戦。組織力と個の才能がかみあい、慶大に22-11で競り勝った。対抗戦で節目の70勝目(20敗7分け)をあげ、唯一全勝をキープした。



早稲田大学が慶應義塾大学に22-11で勝利

 23日の東京・秩父宮ラグビー場。試合後のグラウンドでの主将インタビューだった。マスク姿の9531人の拍手の中、早大のナンバー8、丸尾崇真主将が声を張り上げる。

「コロナ禍の状況の中で、伝統の早慶戦を迎えられて、非常にうれしく思います」。荒い息遣い、体が自然に揺れている。勝因を聞かれると、こう言葉を足した。

「慶応義塾大学よりも、仕掛けの部分を大事にし、自分たちから"行くんだ"という気持ちを見せて戦ったところと、ディフェンスの部分で我慢し続けられたところが勝利につながったと思います」

 この日の早大のゲームテーマは、「仕掛け続けること」だった。人気漫画『鬼滅の刃』のセリフを借りると、「全集中」で先に仕掛け続けた。狙いは、大相撲に例えれば、相手十分の形にさせないこと。

 慶大に敗れた明大のごとく、慶大の鋭く低いタックルをまともに食らうとペースを失う。だから、接点では先に前に出た。アタックでは相手のタックルポイントをずらし、二人目がはやく寄る。テンポに緩急をつけ、ディフェンスの的を絞らせなかった。

 突き押し相撲が得意な力士に対し、前に出させないようなものだった。ディフェンスでは、早大が逆に相手に鋭いタックルで刺さる。機を見ては、ジャッカル(相手ボールの奪取)を狙った。

 地味なビッグプレーは、前半終了間際の丸尾のそれだった。慶大ナンバー8の髙武俊輔がスクラムから右サイドに持ち出して、早大ゴールライン目前に迫った。タックル。髙武が倒れた瞬間、丸尾がボールにジャッカルをしかけた。

 相手はボールを離せず、ノット・リリース・ザ・ボールの反則を犯した。ピンチを脱した。顔から遮二無二突っ込んだからだろう、丸尾のアゴからは血が流れていた。勝敗の流れをつくったブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)の攻防。丸尾主将はこう、振り返った。

「相手の(ブレイクダウンでの)プレッシャーも強かったですが、(優勢だったのは)負けじと戦った結果だと思います。アタックの部分では、とくに二人目の寄りのスピード、強さにこだわろうと言い続けました」

 早大はいつになくハイパントキックを多用した。これは自陣で慶大得意のジャッカルやラインアウトを避けるためだった。敵陣勝負。慶大1年生のフルバック(FB)山田響がハイパントキックの処理に戸惑うところを突き、ターンオーバーから最後は右に回してウイング(WTB)槇瑛人のトライにつなげた。

 丸尾や槇だけではない。早大の図抜けた個性も光り輝いた。右プロップ(PR)の巨漢、小林賢太は鋭いチャージから好機を演出したほか、時にはラックの芯となり、時にはバックスもどきの巧みなパスも披露した。

 勝負どころでは、スタンドオフ(SO)吉村紘の柔らかいランがさえた。前半21分、わずかなスキを突いて逆転トライを挙げた。

 加えてフルバック(FB)の河瀬諒介だった。後半26分。早大は粘り強くつなぎ、正確な連続攻撃は18回におよんだ。最後はラックから右に回し、河瀬が力強いランで相手をかわして右中間に飛び込んだ。ダメ押しのトライ。

 そして、大物ルーキーの伊藤大祐だ。後半33分、交代出場がアナウンスされると、スタンドから大きな拍手が巻き起こった。昨季の全国高校ラグビー大会で、神奈川・桐蔭学園を主将として優勝に導いた逸材。

 小学生時代、九州の柔道チャンピオンになったこともあるというから、足腰、体幹もつよいのだろう。キックを捕球すると、相手タックルを外し、右サイドライン際を数十メートル快走した。

 1年生とは思えない大きなプレーだった。シーズン前の太もも肉離れで大学デビューがこの日となったが、わずか8分間のプレーでも大器の片りんは垣間見えた。試合後のオンライン会見。大学デビューの感想を聞かれると、伊藤はマスク下の顔を少しゆがめた。

「点数を付けるとしたら、50点ぐらいの感じで...。もっと正確にプレーをできたところもありました。もっと大胆にチャレンジできれば、点数は上がっていくのかなと思います」

 異例の大学シーズン。開幕戦(10月4日)の青学大戦では精度と連携不足で苦戦のスタートを切った早大だが、1戦ごとに課題を修正し、チーム力を上げてきた。コロナの影響による活動自粛期間でも学生たちにはオンラインなどで「つながる」ことを意識させてきた。

 加えて、秋に入っては、学生が自主的に小グループごとの話し合いも頻繁に実施してきた。映像をみては一緒に考える。結果、個々のゲーム理解力、対応力が高まっている。シーズンに入って一番成長したところを聞かれると、早大の相良南海夫監督は言った。

「しっかりゲームの中で修正する力がついたというところと、一戦一戦、自分たちがやってきたことをゲームで自信を持ってできるようになってきたことかなと思います」

 もちろん、昨季の大学日本一の経験値もある。チーム作りのノウハウもある。また、相良監督ほかフルタイムコーチが3人、週末コーチも3人など、充実したスタッフ陣がチームを支える。いわば総合力。

 ただ、順調すぎるとコワくなる。好事魔多し、油断大敵だ。とくに学生は心の持ち様でチーム力がガラリと変わる。

 次は、対抗戦の優勝がかかる12月6日の明大戦(秩父宮)。相良監督は「まだまだ成長過程」と漏らした。

「1日1日、いい準備をして、明治に持てる力をぶつけたいと思います」

激闘は必至だろう。鍛錬と修正。緊張と我慢の時間は、もうしばらく続くのである。