負けたら連覇の可能性がなくなる......という大一番で、紫紺のFW陣が奮闘した。 一昨年度は22年ぶりに大学王者に輝き、昨年度は関東大学ラグビー対抗戦で全勝優勝。明治大は2連覇を目指して今シーズンの対抗戦に臨んだ。しかし、11月1日に行…

 負けたら連覇の可能性がなくなる......という大一番で、紫紺のFW陣が奮闘した。

 一昨年度は22年ぶりに大学王者に輝き、昨年度は関東大学ラグビー対抗戦で全勝優勝。明治大は2連覇を目指して今シーズンの対抗戦に臨んだ。しかし、11月1日に行なわれた慶應義塾大戦では接点勝負で後手を踏み、惜しくも12−13と敗戦。大事な試合で苦杯を舐める結果となった。



FW陣の奮闘ぶりが光っていた明治大

 そうして迎えた3週間後の11月22日。もう黒星は許されない背水の陣で、明治大は1敗同士のライバル帝京大と激突する。

 序盤は帝京大のペース。明治大は前半30分までに4トライを許し、一時は7−23と大きくリードされてしまう。しかし、そこから巻き返して得点を積み重ね、さらにはFW陣の奮闘によってその後は相手に1点も許さず、39−23の逆転勝利を収めた。

「前半は試合に入り込んでいけなかったが、スクラムやモールといった"明治らしさ"が勝利につながった」

 試合後に田中澄憲監督がそう話したように、FW陣がスクラムでプレッシャーをかけ、ラインアウトを安定させたことが大きな勝因となった。

 なかでも明治大に流れを呼び込んだのは、後半8分のシーンだろう。明治大不変のスローガン「前へ」を象徴するスクラムからだった。

 相手ボールのスクラムだったものの、3番のPR(プロップ)村上慎(3年)の側から押し込み、相手の反則を誘った。その瞬間、フォワード8人の笑顔が弾けた。

 そのペナルティから得たタッチキックで敵陣奥深くに攻め込み、ラインアウトからのモールではトライこそ奪えなかったが、相手が再びオフサイドの反則。そこで明治大はPGも狙えるなか、あえてゴール前10メートルでスクラムを選択する。

 コロナ禍で声援が禁じられるなか、7000人の観客からは自然発生的に拍手が沸き起こる。それがFW陣をさらに奮い立たせた。ジワッとスクラムを押し込むと、No.8(ナンバーエイト)箸本龍雅(4年)が自らスクラムからボールを持ち出して突破。いわゆる「8単」と言われるプレーでトライを奪取した。

 前半はリードを許しつつも、明治大は最初からスクラムにこだわっていた。

 前半7分と前半9分、相手の反則後に定石ではPGを狙うところも、あえてスクラムを選択。得点に結びつくことはなかったが、力強いスクラムで相手FW陣の体力を奪ったのは間違いない。帝京大のペナルティ数が14個と多くなったのも(明治大は4個)スクラムで体力を削られた影響はあるだろう。

 明治大のFW第一列を託された選手たちは、練習以外にもプライベートの時間で集まってスクラムについて話し合ってきたという。スクラムの最後方から見ていた箸本キャプテンも「前半を通していろんなチャレンジをしながら、いいスクラムを組んでいた。後半は(FWの最前列の)1番から3番が自信を持っていたので『いける!』と確信した」と振り返った。

 そのFWの強さは数字に表れている。マイボールスクラムは7分の7、マイボールラインアウトは14分の14。ともに100%の成功率を記録した。

 大学ラグビーは今年、コロナ禍の影響でどのチームも実戦経験を積むことができていない。そんな状況において、田中監督は「今年の明治大は若い」ということを何度も強調していた。

 それもそのはず、今年のFW陣で昨年度主力の選手はキャプテン箸本、副キャプテンLO(ロック)片倉康瑛、FL(フランカー)繁松哲大の3人のみ(いずれも今年4年生)。とくにFW第1列は3人とも昨年度4年生だったため、今シーズンは総入れ替えになった。帝京大戦のFW第1列は、左PR中村公星(2年)、右PR村上(3年)、HO田森海音(3年)という布陣。

 また、FW陣と同じくBK陣も若く、後方をまとめる副キャプテンのSO(スタンドオフ)山沢京平(4年)はケガの影響で今季ほぼ絶望。帝京大戦では12番にCTB(センター)廣瀬雄也(1年)を初先発させ、齊藤誉哉(2年)も途中から起用していた。

「いい意味でも悪い意味でも(今年は)選手を固定できていない状態です。そのなかでいろんなことを試しながら、若い選手を成長させながら戦っている。今年はいいパフォーマンスをすれば、試合に出場できるチャンスがある」

 田中監督は選手たちに競争力を植えつけることで、チーム力のさらなる向上を目指した。

 日本体育大のラグビー部員に新型コロナウィルス陽性者が出たことで11月7日の試合は不戦勝となり、明治大は帝京大戦まで3週間の時間ができた。その期間、田中監督はフルコンタクトの練習を重ねて、選手たちをさらに鍛えたという。

「試合よりもきつい練習をしていました。普段の積み重ねがゲームにつながると思いますし、それが明治の強み」(田中監督)

 激しい練習を重ねてきた自信があったからこそ、帝京大相手に序盤で負けていても「焦りはなかった」(箸本)と言えたのだろう。慶應大との敗戦をきっかけに、チームがさらに強くなったのは間違いない。

 これで明治大は5勝1敗となり、対抗戦は残り1試合。12月6日にライバルの早稲田大との対戦で勝利すれば、明治大の対抗戦2連覇は成し遂げられる。

 強固なFWを武器に、相手を崩して勝利を掴む----。伝統のスタイルを取り戻した明治大が大学日本一奪還に向けて、自信を取り戻した試合となった。