最終戦ポルトガルGPで優勝したミゲル・オリベイラ 予測不能の20年を象徴する、ドラマチックなレースだった。 シーズン最終戦ポルトガルGPを制したのは、同国出身のミゲル・オリベイラ(レッドブル KTM Tech3)。土曜午後の予選では、Mot…



最終戦ポルトガルGPで優勝したミゲル・オリベイラ

 予測不能の20年を象徴する、ドラマチックなレースだった。

 シーズン最終戦ポルトガルGPを制したのは、同国出身のミゲル・オリベイラ(レッドブル KTM Tech3)。土曜午後の予選では、MotoGP2年目で自身初となるポールポジションを獲得し、日曜の決勝はホールショットを奪うとそのまま後続を一方的に引き離す展開で圧勝を飾った。

 レースのスタート後は誰にも一度も前を譲らず、あっという間に2番手以下を引き離して、3周目には2秒の差を築き上げた。その後も着々とリードを広げ続けて、独走でチェッカーフラッグ。今季2勝目を達成して、1年間の戦いを締めくくった。

 オリベイラがMotoGP初優勝を飾ったのは、シーズン5戦目のスティリアGPだった。このときは、最終ラップまでトップ争いのバトルが続き、最終コーナーで前2台の隙を巧みに突いて大逆転の優勝。いわば頭脳プレイと技術で勝ち取った初勝利だったが、今回の場合は、母国大会の意地を見せて、圧倒的な力で全員をねじ伏せた。地元コースでこれほどまでに力強い勝利を達成すれば、自分自身はもちろんのこと、母国のファンや所属チームにとっても感無量だろう。

「スティリアGPのときは、ラストラップのバトルだった。今回は(地元開催だったので)かなり気合いが入っていて、最初から最後まで一度もバトルにならなかった。全周回を通じて自分の気持ちをコントロールすることとの戦いだったので、こういう勝ち方ができて本当に格別な気分だ」

 母国大会で地元出身ライダーが圧倒的な強さを見せて勝つレースは、それがどこの国で、どのライダーであろうとも、やはりいつ見ても気分がいいものだ。オリベイラの上記の言葉も、世界中の多くの人々からおおいに好感を持って受け止められたことだろう。

 ところで、今回のシーズン最終戦はいくつかの記録がかかったレースでもあった。

 ひとつは、ライダーたちのランキング2位以下を巡る争い。

 2020年のチャンピオンは、すでに前戦のバレンシアGPでジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)が獲得している。だが、2位以下の順位は僅差でひしめいており、今回の結果次第ではランキング上位につけていた選手も最終結果を年間10位で終える可能性がある、という混戦だった。

 特に熾烈を極めていたのが、バレンシアGP終了段階でランキング2番手につけるフランコ・モルビデッリ(ペトロナス・ヤマハ SRT)と、それを4点の僅差で追う3番手のアレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)のポイント争いだ。モルビデッリとしては、最終戦でも好成績を収めて2番手の位置を死守したい。一方のリンスは、モルビデッリよりも上位の成績で終えてランキングを逆転し、2位に浮上したい。それが、最終戦を控えた彼らそれぞれの状況だった。

 土曜の予選を終えた段階で、モルビデッリがフロントロー2番手を獲得したことに対して、リンスは4列目10番グリッド。このスタート位置関係なら、一見したところ、モルビデッリが有利に見える。だが、スズキはレース中盤から後半の追い上げを得意としている。リンス自身も、カタルーニャGPでは13番スタートから3位表彰台に上り、アラゴンGPでは10番手スタートから優勝も達成している。しかも、リンスがランキング2位で終われば、スズキはミルとリンスで年間ランキングの1ー2を飾ることができる。

 だからこそ、リンスとしては、なんとしてもモルビデッリよりも上位でレースを終えたいところだった。が、結果はモルビデッリが3位でゴール。リンスは15位で終えてしまったため、ランキング2位はモルビデッリの手に渡り、リンスは年間3位で一年を終えることになった。

 また、リンスのこのリザルトにより、スズキはもうひとつの重要な結果を取り逃すことにもなった。

 上記のとおり、スズキは前戦バレンシアGPでミルが年間チャンピオンを確定させ、さらにその前にチームタイトルも手中に収めていた。残るコンストラクターズタイトルは、バレンシアGP終了段階でスズキとドゥカティが同点で並び、その2メーカーをヤマハが13点差で追いかけていた。ドゥカティとスズキのこの争いは、最終戦を上位で終えたメーカーが勝利することになる。

 20年ぶりにライダーズタイトルを獲得したスズキが、はたしてその勢いを駆って史上初の三冠を達成するのかどうか。それが、今回のレースの大きな見どころのひとつでもあった。結果は、ジャック・ミラー(プラマック・レーシング/ドゥカティ)がレースを2位で終えたことにより、この部門の栄冠はドゥカティの手に渡ることになった。

 ちなみに、新チャンピオンのミルは、電子制御系のトラブルにより今回の決勝レースでリタイアを喫したため、スズキに加算されたコンストラクターポイントは15位でフィニッシュしたリンスの1点。ドゥカティはミラーの2位で20ポイントを獲得。また、ヤマハはモルビデッリが3位フィニッシュを果たして16ポイントを加算したため、ヤマハはスズキとの間にあった13点差を逆転し、ランキング2位へ浮上した。その結果、コンストラクター部門で、スズキはドゥカティとヤマハに次ぐ3位に転落してしまった。

 シーズン全体のマシンパフォーマンスでは、全方向的にそつのないまとまりで他陣営を凌駕してきたものの、最終戦のリザルトであっさりとひっくり返されて、スズキの三冠達成は来年へお預けになってしまった格好だ。チーム関係者やメーカー開発陣にとっては残念極まりない結果だが、そんなところもファンにはひょっとしたら憎めない愛嬌のひとつに映っているかもしれない。

 さらに、最終戦レースリザルトは、もうひとつの珍しい記録を樹立することにもなった。

 優勝したオリベイラ、2位のミラー、3位のモルビデッリはいずれもサテライトチームの所属だが、前回にサテライト勢が表彰台を独占したレースは、実は04年まで遡る。

 04年第13戦カタールGPの際に、セテ・ジベルナウ(優勝/ホンダ)、コーリン・エドワーズ(2位/ホンダ)、ルーベン・チャウス(3位/ドゥカティ)が表彰台を占めて以来16年ぶり、レース数にして275戦ぶりだ。このサテライトチーム表彰台独占は、新型コロナウイルス感染症という人類史に残るほどの災厄に見舞われたシーズンを象徴する出来事のひとつという見方も、もちろんできるだろう。だが、サテライト勢は総じて、チーム体制や運営資金などでファクトリーチームにどうしても劣るため、この健闘はまちがいなく快挙といっていい。

 意表を突く出来事が続いた20年シーズンは、最後の決着もまた、皆の予想を大きく凌駕するような結果で落着をした。各陣営や選手間の力が拮抗し、レース内容やシーズン展開が想像しなかった方向へ大きく転がっていくのは、ファンにとっては歓迎すべきことで、大きな愉しみの要素ではあるだろう。だが、新型コロナウイルス感染症の蔓延が続いてレース開催やシーズンの推移に大きな影響を及ぼす今年のような状態は、誰も歓迎しない。21年シーズンは、今季と同様かそれ以上の激戦が、今季以前のように落ち着いた世情のもとで行なわれるようになっていることを願いたい。