11月10日に閉幕した女子ワールドカップに続き、「男子ワールドカップ」<11月13~15日/中国威海>が幕を下ろした。

8カ月ぶりの国際大会に臨んだ東京五輪代表の張本智和(木下グループ)と丹羽孝希(スヴェンソン)は、17歳の張本が銅メダルを獲得。昨年の銀メダルには及ばなかったものの、2年連続最年少出場にして表彰台に上がる活躍を見せた。

 一方、4年連続出場で初メダルを狙った丹羽は初戦で韓国のエース、チャンウジン(韓国)と対戦。ゲームカウント3-1でリードし勝利に王手をかけたが、そこから逆転を許し、まさかの初戦敗退に終わった。

試合後、ゲームカウント3-2で迎えた第6ゲームを振り返り、「(自分の)3-0リードで相手がタイムアウトを取って、そこで流れが変わってしまった」と言う丹羽。「最後まで得点パターンが見つからなかった感じ」と話す一方で、得意のカウンターや相手の動きの逆をつくフォアハンドなど随所に光る攻撃もあり、「8カ月前と変わらないプレーができた」「韓国のエースとゲームオールジュースまで行けたので、自分のプレーは悪くはなかったと思う」と、久しぶりの国際試合で手応えも得た様子だった。

 金メダルは世界ランク1位の樊振東(中国)。大会3連覇とともに通算4回目の金メダルに輝いた。銀メダルは五輪金メダリストの馬龍(中国)。準決勝では昨年負けた張本に勝利し借りを返した。

男子W杯 1位 樊振東:2位 馬龍:3位 張本智和 PHOTO:@ITTFWorld


家族団らんで英気を養った張本

 試合のなかったこの8カ月でまた少し身長が伸びただろうか。体つきが明らかにたくましくなって、表彰台に並ぶ姿は体格のいい樊振東や長身の馬龍に引けを取らない。ただでさえ成長期にある高校2年生は新型コロナウイルス感染拡大による自主期間中もトレーニングにボクシングを取り入れるなどして体づくりを怠らなかった。

 だが今大会、印象的だったのは表情だ。国際大会が無期限中断に入る以前は険しかった顔つきが嘘のように穏やかになっている。

初出場にして日本のエースとして臨む東京五輪を夏に控え、当時の張本は何とかプレッシャーに耐えていた。何と言ってもまだティーンエイジャーなのだ。本人も精神的に余裕がなかったことを認めており、東京五輪が1年延期になったときには「東京オリンピックに向けて準備しなければいけない課題がまだまだあると焦っていたので、準備の時間が出来た」と正直な胸の内を打ち明けた。

 背景にはこの8カ月間、普段は神奈川県川崎市でともに暮らす父と宮城県仙台市の実家に戻り、母と妹と家族4人で過ごした日々がある。中学生になると同時に実家を離れた張本にとって、久しぶりの一家団らんは何よりもの心の栄養になったはずだ。

そのことは今大会を通して落ち着いた試合運びを見せた張本が、自身の精神面の成長について語った、「特に何をしたっていうわけじゃないんですけど、日々、試合のない中で落ち着いた生活をして学ぶことができたのかなと思います」という言葉に表れている。

張本智和 PHOTO:@ITTFWorld


新しい技術を試したことで課題も浮き彫りに

 もちろん技術面での成長にも目を見張った。試合のない期間を利用して特に得意のバックハンドに磨きをかけてきた張本は、手首のスナップを利かせてコンパクトなスイングで鋭いコースを突くバックハンドを身につけてきた。

実戦でもその成果は出ていたようだが、本人は準決勝と3位決定戦を戦った最終日、「今日、バックハンドの調子が良くなかったので、バックをカバーする意味でもサーブ、レシーブだったり、フォアハンドでカバーできるようになった」と話している。

 張本が言うようにサーブ、レシーブで主導権を握る場面は多かった。中でも準々決勝で、ゲームカウント4-1で下した世界卓球2019ハンガリー銀メダルのファルク(スウェーデン)に対し、武器であるチキータよりもストップを多用した試合はレシーブの良さが際立った。

「とても回転があるサーブで(レシーブが)難しいんですけど、そこをストップしないことには始まらないので、頑張ってストップして、チャンスボールを打つという作戦で4ゲーム取れたと思います」

 その一方で、ゲームカウント3-1から逆転負けした馬龍との準決勝は、相手が後半に徹底して出してきたハイトスサーブに翻弄された。勝敗の分かれ目にもなった相手の戦術について張本はこう振り返っている。

「2ゲーム目から4ゲーム目まではずっと自分のペースで試合が進んで、5ゲーム目がちょっともったいなかった。4-1で勝ちきれば最後で逆転されることはなかったと思うので、相手に流れが行く前に勝ちきることができなかったのが敗因だと思います」

「5ゲーム目のタイムアウトから相手がサーブを変えてきて、高い(ハイトス)サーブになってからちょっと自分のリズムが崩されました。少しは克服できたんですけど、やっぱり最後まで相手のペースで自分のペースにできなかった」

 昨年の同大会ではその馬龍に勝って決勝に進んだことを思うと悔しい敗戦ではある。しかし、「負けた直後はがっかりしましたけど、この大会で一番いいプレーができた」と充実した表情の張本。

強化したバックハンドについても一度実戦で使ったことで、「練習プラス試合感で、もっと良くなると思う」と期待を口にし、「ラリーの中で連続で打つこと、粘ることができたと思う。でも、それだけのプレーではまだまだ不安定なので、来週のファイナルズまでに調整して、もっと攻撃的なプレーを取り戻したいですね」と11月19日に開幕する大一番への意気込みで締めくくった。


(文=高樹ミナ)