ヨーロッパとアジアが交錯すると言われるイスタンブールに、F1が9年ぶりに戻って来た。 新型コロナウイルスの感染拡大でカレンダーが大幅に変更されるなか、かつて2005年から7度グランプリが開催されていたトルコに白羽の矢が立てられた。ふたつの…

 ヨーロッパとアジアが交錯すると言われるイスタンブールに、F1が9年ぶりに戻って来た。

 新型コロナウイルスの感染拡大でカレンダーが大幅に変更されるなか、かつて2005年から7度グランプリが開催されていたトルコに白羽の矢が立てられた。ふたつの大陸を分けるボスポラス海峡を渡ってクルマで1時間ほどの距離にあるイスタンブールパーク・サーキットは、大きなアップダウンと4つのエイペックスを持つ高速の複合コーナー"ターン8"が有名だ。



初めてのトルコGPに臨むフェルスタッペン

 現役ドライバーのなかで、トルコGPでレースを経験したことがあるのは4人(ルイス・ハミルトン、セバスチャン・ベッテル、キミ・ライコネン、セルジオ・ペレス)だけ。バルテリ・ボッタスはGP3時代、ダニエル・リカルドはウエットコンディションのFP1に出走したことがある。下位カテゴリーのレースもほとんど開催されていないとあって、まったくの初体験というドライバーも少なくない。

 マックス・フェルスタッペンも、そのひとりだ。

「昔F1ゲームですごくクールなサーキットだなと思って、このサーキットを走りまくっていたのを思い出したよ。だから実際にここを走るのがとても楽しみだ。

 シミュレーターで走ったけど、高速でサーキット全体がすごく楽しい。ストレートが多くてコーナーも幅広でいろんなライン取りができるから、オーバーテイクもしやすいだろう。もちろん、オーバーテイクがたくさん必要な状況にはならないことを願っているけどね(笑)。でも、走ったことがあるドライバーもあまりに昔過ぎてアドバンテージにはならないと思う」

 ターン8は当時のF1マシンでも十分にエキサイティングなセクションだったが、史上最速と言われる今のF1マシンで走ればどうなるのか。右方向に3G以上の激しい横Gが6秒も続くことになり、ドライバーの首にはかつてない負荷がかかる。

 ヘッドレストに首を支えるパッドをつけるかどうか? 木曜のパドックではそんな質問がひとつのトピックになった。

「僕はつけないよ。初めてF3のテストをした時、1日走ったあとに首を真っ直ぐ支えられなくなってパッドをつけたんだけど、それを父に笑われてしまったからね。それ以来、僕はパッドを絶対につけないようにしているんだ。

 パッドをつけるくらいなら、首が取れたほうがマシだ。だから今週末もつけない。ターン8は全開でそれほど難しいコーナーではないと思う。ただ、あれだけ長い時間にわたって身体に高いGフォースがかかり続けるわけだから、すごくクールだよ」(フェルスタッペン)

 イスタンブールパークはバラエティに富んだキャラクターで人気が高い。それはマシンパッケージとしての総合力が求められるわけで、そういう意味ではメルセデスAMGの牙城は揺るぎそうにない。

 多彩なバトルが可能なサーキットとはいえ、過去7回の勝者のすべてがフロントロウからのスタートで、そのうち5回はポールポジションから優勝している。つまり総合力が問われるだけに、予選から決勝へと結果は動きにくいということだ。

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう説明する。

「高速コーナーもあるし、中速コーナーあるし、シケインもある。ある意味、全部が揃っているサーキットですね。ストレートや低速に偏っているわけでもなく、低中高速コーナーが散りばめられた標準的なサーキットだと思います」

 さらに気になるのは、路面コンディションだ。

 ポルトガルGPの舞台となったアルガルベと同じように、直前に再舗装が行なわれており、路面にはオイルがにじみ出ている。アルガルベでは極めてグリップレベルが低く、週末を通して路面コンディションはほとんど改善しなかった。

 木曜にコースを歩いたアレクサンダー・アルボンも、その点を心配している。

「トラックウォークをしたかぎりでは、路面がすごく汚れていてポルティマオ(ポルトガルGP)を思い出したよ。あの時も新舗装で、走るうちにコンディションは落ち着くだろうと思ったけど、みんなすごくグリップが低いと不満を述べていたよね。

 僕らがここに来る前に、今回はいくらか走行をするという話だった。だけど、あの路面を見るかぎりだと、実際にそうしたのかどうかはわからない。セーフティカーが走っているのを見たけど、かなりスリッパリーな様子だったね」

 タイヤに大きな負荷がかかるターン8があることもあって、今週末は最も硬いC1/C2/C3のコンパウンドが持ち込まれた。タイヤアロケーションも「C1が3セット」というポルトガルGPと同様となっている。

 さらにはポルトガルGPよりも低温のコンディションとなるため、よりいっそうタイヤを機能させるのが難しくなると予想される。F1マシン本来のパフォーマンスを引き出し切れないくらい、低グリップ環境下でのレースを強いられる可能性も高い。

 現実問題として、今のレッドブル・ホンダがメルセデスAMGに対抗することは難しいだろう。普通のレースなら3位というのが最大限の結果になる。

 それにフラストレーションを募らせるのではなく、自分たちにやれることをやるしかない。1位・2位が無理だから、ただ淡々と3位を手にしてレースを終えるのではなく、同じ3位でも中身のある3位であるべきだとフェルスタッペンは言う。

「今シーズンはメルセデスAMGが速すぎるし、僕らにとって最も現実的なポジションはほぼいつも3位だ。だけど、実現不可能な結果に目を向けてフラストレーションを募らせたってしょうがない。

 僕は自分自身をプッシュして、このクルマで実現可能なかぎりの結果を手にすべく努力するだけ。ディナーに行って足手まといな奴のような立ち位置になるのは嫌だ。(トップ2から大きく離された)完全な3位で表彰台に立つのではなくて、どうせなら素敵なロマンチックなディナーがいい」

 このイスタンブールパークで最後に行なわれた2011年のトルコGPは、レッドブルがワンツーフィニッシュを果たしている。おそらくこれが最後の開催となるであろう2020年のトルコGPは、どんな内容、そしてどんな結果になるだろうか。