東日本選手権フリー演技の本田真凜 本田真凜にとってシニアで全日本選手権の出場権を争うのは初めての経験だった。2017年にシニアに上がってからはGP(グランプリ)シリーズ出場により予選を免除されていたからだ。11月6、7両日の東日本選手権女子…



東日本選手権フリー演技の本田真凜

 本田真凜にとってシニアで全日本選手権の出場権を争うのは初めての経験だった。2017年にシニアに上がってからはGP(グランプリ)シリーズ出場により予選を免除されていたからだ。11月6、7両日の東日本選手権女子シングルで10位となり、出場権を獲得した本田は「とりあえずホッとしています。本当にそれだけ」と安堵の表情を見せた。

 出場権を得る条件は、シード権を持っている2人(樋口新葉、川畑和愛)を除いた選手中上位9人というもので、本田は8番目。ギリギリで滑り込んだ厳しい戦いだった。

 右肩脱臼の影響もあって精彩を欠き、140.95点の7位だった東京選手権から約1カ月。「ブロック大会(東京選手権)後は肩の痛みもなくなり、ここ2週間くらいはいつもどおりの練習ができるようになっている」と本田が話すように、氷上での動き自体はしなやかさや動きの大きさが出ていて体のキレもよかった。

 だが6日のショート・プログラム(SP)は苦しい滑り出しになった。最初の連続ジャンプでは、3回転ループが4分の1回転足りずに「q」マークの出来だった。その後に付けた2回転トーループはさらに回転が足りないアンダーローテーション。単発の3回転フリップは両足着氷でダウングレードと判定され、最後のダブルアクセルも「q」が示された。

 スピンふたつはレベル4とし、ステップはレベル2ながら持ち前の表情豊かな滑りを見せたが、得点は50.41点。技術点は全体24位だったが、28.24点を出した演技構成点を伸ばして8位。ただ、不安を感じさせる発進になった。

「最近は気持ちが沈んでいましたが、特にショートの後はすごく落ち込んで......。スケートって難しいな、とかいろいろ考えて泣き続けていました」



不本意な出来に終わったSPの本田

 これまでは予選免除で、出場するすべてが大きな大会だった。だが、今回予選を経験し、全日本が特別な大会だと感じた。

「(ジュニア時代から)連続6回(の全日本出場)を途切れさせたくないと思いましたが、全日本に出られるか出られないかというレベルのスケートをしていて、もし今回出場できなかったら何のためにスケートをやっているのかを考えなくてはいけないと考えて......。自分で自分を追い詰めて、覚悟を持って試合をしなければいけないと思いました」

 本田武史コーチは、「全日本の予選は久しぶりなので緊張感もあったと思うが、全体的にスピード感がなかった。フリーへ向けてもショートで回転不足を取られたのが不安要素のひとつだったし、(フリー当日の)朝の練習で降り方を気にしていました」と話す。

 そうした状況で臨んだ7日のフリーでも、ジャンプを改善できない苦しい試合になった。最初の3回転フリップはアンダーローテーションとなって連続ジャンプにできず、次の3回転フリップも両足着氷のダウングレード。さらに3回転サルコウもアンダーローテーションと、ミスが続く滑り始めだった。

 4本目の3回転トーループ+2回転トーループは成功したが、連続ジャンプ2本を含む後半3本のジャンプはすべてアンダーローテーションと判定された。それでも、3回のスピンはいずれもレベル4とした。

「自分が全日本に出られるか、出られないかと不安になっているのが許せない感情になっていました。いつもだったら最初のジャンプを失敗したら引きずってしまうけれど、もう今日で最後と思って滑った気がします」

 この思いが、本田を支えた。

 ただ、得点は93.70点と、使用する提出曲を間違えてエキシビション曲で滑るというミスがあった東京選手権を0.04点上回るだけだった。SPとの合計は144.11点。フリーは12位でSPの順位を10位まで下げる結果となった。全日本の出場権獲得できたことが唯一の収穫といえる戦いになった。

「今は本調子でなくジャンプの難易度を落としているけれど、明日からまたジャンプの構成を昨シーズンのものに戻して、いい演技ができるように練習したい。これまでは何も考えずにのびのび滑れるアイスショーのほうが、自分のスケートの好きなところが出せると考えていましたが、今日滑っていて自分を追い詰め、プレッシャーをかけて緊張感を持って、というのも楽しいなと感じました。最初にジャンプをふたつ失敗した時のスリルもいい感じがした。失敗したいわけではないけれど、これからも頑張りたいと思います」

 そういって本田は笑顔を見せた。

 本田の全日本の目標は、今季で引退する兄の太一に得点で勝つことだ。今の自分のモチベーションになっているという。スケートを始めて以来、兄が新しいジャンプを跳べるようになれば、自分もできるようになりたいと思い、ライバル意識をむき出しにしてきた。兄の最後の試合は、採点基準こそ違うが、その目標を達成する気持ちを持って臨みたい、と。

 太一は近畿選手権で180.58点、西日本選手権では177.17点を出した。本田の昨シーズンのベストスコアは、全日本選手権の181.34点。まずは、その得点まで持っていきたいというところだろう。ただ、以前の構成に戻すとなれば、今季はまだ跳んでいない3回転ルッツや、ダブルアクセル+3回転トーループなど難度の高い技が入ってくるだけに、今の構成でほとんどのジャンプが回転不足になっている現状を、どのように修正していくかが大きな課題になる。

 本田コーチは「ひとつひとつのジャンプに関してはすごくいい状態に上がってきているので、プログラムの中でパズルのようにつなぎ合わせていき作品にする作業をしなければいけないと思います。最初のフリップは悪いところが出てしまったのは明らかだったのでどんどん修正していくことと、プログラム全体の流れで滑り込ませて自信をつけることを優先していきたい」と話した。

 新型コロナウイルスの蔓延が収まれば、アメリカのラファエル・アルトゥニアンコーチの下に行って練習する予定もあるという。

 試合で委縮してミスをしているジャンプを一本でも多く成功させて自信を取り戻すことが重要になってくるだろう。本田には全日本に駒を進めた安堵感だけではなく、SP後に感じた悔しさも心の中にしっかりとどめておいてほしい。全日本の先にあるものも意識し、それを目指していく気持ちになることでまた、新たな一歩を踏み出せるはずだ。