14年ぶりに行なわれたイモラの予選で、ホンダ製パワーユニットを搭載する4台はすべてトップ8に入る速さを見せた。 レッドブル勢だけでなく、本拠地ファエンツァから目と鼻の先の地元レースを戦うアルファタウリ勢もフリー走行から快走を見せ、ピエール…

 14年ぶりに行なわれたイモラの予選で、ホンダ製パワーユニットを搭載する4台はすべてトップ8に入る速さを見せた。

 レッドブル勢だけでなく、本拠地ファエンツァから目と鼻の先の地元レースを戦うアルファタウリ勢もフリー走行から快走を見せ、ピエール・ガスリーが予選で4位に飛び込む大健闘を見せた。



予選では速さを見せたレッドブル・ホンダだったが...

「あいかわらずメルセデスAMGが速いなかで、とくにマックス(・フェルスタッペン)とガスリーはチームが持っているパフォーマンスを最大限に引き出して走ってくれたと思います。しかし、Q2が始まったところでマックスのパワーユニットにトラブルが発生したこともあり、ホンダとしては予選結果だけを素直に喜べない複雑な心境ではあります」

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう振り返った。

 Q2の最中、フェルスタッペン車のパワーユニットに問題が発生し、タイムアタックを中断してピットに戻りパーツの交換作業を行なわなければならなかった。ただ、レッドブルとホンダのメカニックの驚異的な交換作業で再びコースへ送り出し、無事にQ2を突破することができた。

「各パーツ交換にかかる標準的な時間は事前に把握して(トータルの)作業時間を算出しているんですが、それよりもはるかに速い時間で作業を完了してくれました。レッドブルのメカニックがカウルを開け、ホンダのメカニックがパーツを交換し、またレッドブルのメカニックがカウルを閉めるという作業でしたが、双方ともに想定以上の速さでした」(田辺テクニカルディレクター)

 エンジニアがすぐにテレメトリー上で問題パーツを特定し、メカニックがハンガリーGPのスターティンググリッド上でも見せた迅速かつ正確な作業を行なったことで、Q2突破を実現させたのだ。

 しかし、本来ならQ2の2回目にソフトタイヤを履いて行なうはずのQ3アタックの確認はできなかった。そのため、アウトラップのタイヤの温め方やアタック中の攻め方が突き詰められなかったと、フェルスタッペンは悔しがった。

「あまりいい予選ではなくて、ちょっと散らかったセッションだったね。Q2の2本目のアタックをミディアムで走らなければならなかったから、Q3に向けたリファレンスがしっかりと掴めなかったんだ。

 Q3最後のアタックも結局最後までリズムは掴みきれず、フィーリングとしては限界を引き出せたという感じでもなかった。個人的にはもう少しメルセデスAMG勢に近づけるかと思っていたし、もう少し戦えると思っていたんだけどね」

 逆に言えば、それだけマシンの仕上がりがよかったということでもある。0.567秒というメルセデスAMGとのギャップは、実際にはもっと小さかったということだ。

 決勝でも、その速さは十分に発揮された。

 スタートでルイス・ハミルトンの前に出ると、首位バルテリ・ボッタスに引き離されることなくついていった。後ろの中団グループではなく、メルセデスAMG勢のペースや動向を気にしながらレースをするのは久しぶりのことだ。彼らに対抗するために、パワーユニットのモード変更(ERSの発電と放電に関するもの)もいつも以上に頻繁に行なわれていた。

 しかし、2対1の戦いには限界もある。18周目に先にピットインしてアンダーカットを仕掛けるが、ボッタスには翌周ピットインされてきっちりと前を抑え込まれ、30周目まで走り続けたハミルトンにはオーバーカットを許して逆転されてしまった。

 その背景には、ボッタスが他車のパーツを左側フロアに拾って大幅にダウンフォースを失っていたことがあった。ペースが振るわないボッタスに抑え込まれ、その間にハイペースで飛ばしたハミルトンに前に行かれた。

 もしボッタスが問題を抱えていると知っていたら、レッドブルはピットストップを遅らせただろう。だが、ピットストップを終えるまでそのことをボッタスにすら知らせなかったメルセデスAMGは、1枚も2枚も上手だった。

 それでも、フェルスタッペンは手負いのボッタスにプレッシャーをかけてミスを誘い、42周目の最終コーナーで訪れたチャンスを見逃さず、一撃で仕留めた。

 そこから首位ハミルトンと同等のペースで走り、ボッタスを引き離しながら2位をキープしていた。だが、51周目に突然右リアタイヤがバーストしてリタイアを強いられてしまった。

「今日はとてもいい形で2位を獲得できたはずだったのに、すごく残念だよ。ただ、メルセデスAMG勢とバトルができたし、すごくいいレースだったと思う」

 フェルスタッペンはリタイアを悔しがりながらも、マシンのパフォーマンスとフィーリングのよさには手応えを感じていた。

 一方のガスリーは、スタートでハミルトンに並びかける勢いを見せるも、ブロックされてスロットルを戻した間にダニエル・リカルドに先行を許して5位に落ちた。それでも「リカルドよりは速い」という手応えがあり、中団トップに立っていたことは間違いない。

 ガスリー車はスターティンググリッドに向かう時から、冷却水の水圧低下の症状が出ていた。原因が究明できないままレースに突入し、やはり数周で症状が悪化してリタイアを余儀なくされた。原因は、極めて単純なパーツの不具合による水漏れだったという。

 リカルドが表彰台に立っただけに、ガスリーとアルファタウリにとっても地元で表彰台を獲得する大きなチャンスを逃した形になった。

「今週末はずっとマシンがものすごく速かったから、ダニエルの後ろで走っていても彼より少し速さがあるなと感じていた。間違いなく中団トップ争いができたはずだよ。地元レースでこういう結果になってしまったのは本当につらいけど、これがモータースポーツというものだからね」(ガスリー)

 メルセデスAMGとのギャップを縮めたように見えたエミリア・ロマーニャGPだったが、ホンダの田辺テクニカルディレクターは慎重な見方をしている。

「手負いのボッタスにはああやって仕掛けて前に行けたとはいえ、ハミルトンにはスイスイとリードされているわけですから、実力はあまり変わっていないと思います」



メルセデスAMGは今季11勝目をマーク

 レッドブルがノーポイントに終わったことで、5戦を残してメルセデスAMGがコンストラクターズタイトルの獲得を決めた。2014年から数えて7年連続の制覇であり、フェラーリ黄金期の記録を上回る史上最多連続記録。つまり、マクラーレンやウイリアムズ、フェラーリ、レッドブルなど、どの時代の覇者よりも強く長い覇者であり続けてきたということだ。

 この事実に対して、ひとり勝ちで退屈だという意見は的外れだ。ライバルとして戦っているからこそ、彼らのすごさは誰よりもよくわかると、田辺テクニカルディレクターは語る。

「実際に戦っている我々は『みんないつかは抜いてやろう』と思って知恵を絞り、必死に努力して開発しているんです。そういう戦いがここでは繰り広げられています。そのなかでこれだけ長い期間、何の緩みもなく、勝ち星を落とすことなく、勝ち続けるということは並大抵のことではないと思います。

 メルセデスAMGばかりが勝ってつまらないという方もいらっしゃいますが、彼らだってたくさん努力をして、もがいてこの座を守ってきている。我々挑戦する側は、それ以上に身を粉にして開発しなければ追いつけません。来年は我々もそこに戦いを挑んでいけるよう、準備していきたいと思います」

 レッドブル・ホンダが来季、最後の挑戦として目指す山は高い。しかし、彼らはその高さを知っている。だからこそ真摯に、そして懸命に戦いを挑んでいくのだ。