女子バレー稀代のオールラウンダー新鍋理沙が歩んだ道(5) 元女子バレー日本代表・新鍋理沙のバレー人生を、本人の言葉と共に辿る短期連載。第5回は、ロンドン五輪後の代表辞退と、中田ジャパンでの復帰について聞いた。今年の6月に現役引退を発表した新…

女子バレー稀代のオールラウンダー
新鍋理沙が歩んだ道(5)

 元女子バレー日本代表・新鍋理沙のバレー人生を、本人の言葉と共に辿る短期連載。第5回は、ロンドン五輪後の代表辞退と、中田ジャパンでの復帰について聞いた。


今年の6月に現役引退を発表した新鍋

  photo by Kimura Masashi

 ロンドン五輪後のVリーグで、新鍋理沙が所属していた久光スプリングス(旧久光製薬スプリングス)は、就任1年目の中田久美監督のもとで6シーズンぶりにリーグ優勝を果たした。さらにチームは天皇杯・皇后杯、黒鷲旗全大会も制して「三冠」を達成するなど、五輪で銅メダルを獲得した代表活動を含め、新鍋にとっていいことづくめのシーズンだった。

「優勝は何度か経験しましたけど、チームとして優勝したのは(学生時代も含めて)そのシーズンが初めてだったので、特にうれしかった記憶があります。リーグだけじゃなくて三冠も獲れましたし、いいことばかりでした」

 翌シーズンも久光はリーグを制覇し、新鍋はベスト6、サーブレシーブ賞、そしてMVPを受賞した。それを聞かされた時のことを、「もちろん嬉しいですけど、『え、私?』って思いました(笑)」と振り返った。

 その後、2014年度の代表では、当時の眞鍋政義監督が「MB1」「ハイブリッド6」という新戦術を次々と採用し、メディアを賑わせた。MB1は、従来ならコート上に2人いるMB(ミドルブロッカー)をひとりにして、サイドアタッカーを増やすという戦術だ。

 ハイブリッド6はそのMB1をさらに複雑にした形で、ミドルブロッカーが0人、もしくは2人になる場合もあった。通常ミドルブロッカーが担うセンターブロックを、当時のセッター・宮下遥が跳ぶこともあった。選手が複数のポジションでプレーするようになり、慣れない動きに苦労した選手も多かったようだが、新鍋は「面白い」と思っていたという。

「勝つために、いろんな新しい戦術を考えながらやっていたから、すごく新鮮でした。セッターの遥がセンターブロックをやっていたのも、高身長(177cm)でブロックが強い遥だからできたこと。戸惑いもありましたけど、『こんなバレーもできるんだ』と思っていました」

 しかし、同年の世界選手権でのプレーが「個人的に全然ダメで、気持ちが折れた」という新鍋は、「全日本はそんな状態の選手がいていいチームではない」という理由から、しばらく代表から遠ざかることになる。2015年度の代表を辞退し、翌年のリオ五輪にも出場しなかった。

 再び代表でプレーすることになったのは、久光スプリングスで指揮を執っていた中田久美が、2017年度の代表監督に就任してからだ。それが発表されたのは2016年10月。2016-17シーズン中の試合後の記者会見で、「中田久美さんが代表監督になったので、代表に復帰されるんですか?」と質問された際には、微笑を浮かべながらも何も答えられなかった。

 だが、2017年5月に行なわれた代表の始動記者会見で話を聞いた際には、「久美さんが代表監督になられたから、また代表で頑張ろうという気持ちになりました。久美さんでなければ、現役を引退しようかと思っていました」と涙ぐんだ。


中田久美が監督就任した2017年に代表に復帰した

 photo by Sakamoto Kiyoshi

 再び日の丸をつけることになった新鍋は「中途半端じゃいけない」と奮起。中田監督がもっとも重要視していた8月のアジア選手権で、チームを10年ぶりの優勝に導く活躍を見せて大会MVPを受賞した。

 だが、翌月のグランドチャンピオンズカップ、さらに2018年の世界選手権でも、チームは表彰台を逃す。その原因について、「チーム全体のバックアタックが少なすぎるのではないか」と指摘するメディアもあった。新鍋はそれほど高身長ではなく、プレースタイルも守備型であるため、バックアタックに入ることは少ない。それに対して「新鍋もバックアタックを打つべき」という声もあったようだが、当時を次のように振り返る。

「私がバックアタックを打ってどれだけ効果があるのかな、と思っていましたね。当時のチームには必要だったのかもしれませんが、打つか、打たないか、どっちが勝つためにプラスなのかはずっと考えていました」

 トスが上がってから移動する相手のリードブロックに対抗するには、セッター以外の選手がなるべく多く攻撃に入ることが、相手の始動を遅らせる上で有効ではある。しかし新鍋は、「スパイクを打ったあとのフォローも必要なのではないか」と考えていた。

「たとえば、前衛の選手がワンレグ(片足踏み切りでの移動攻撃)で走った時などに、フォローは誰がするのか、という問題もありますよね。スパイカーとしては、少なくとも私は後ろに誰かいてくれたほうが思い切ってスパイクを打てるんです。攻撃の選手がみんな助走に入って、そのフォローがいなくなってしまうのはどうなのかな、とも思いました」

 チームの最高の形を模索し続ける"中田ジャパン"は、昨年に行なわれたワールドカップバレーでも5位。目標に掲げていた「金メダル獲得」に暗雲が立ち込めた。

 2019-20シーズンでVリーグ3連覇を狙った久光も苦しい戦いを強いられ、7位と低迷。この頃、長く代表やVリーグで戦い続けてきた新鍋の体は悲鳴を上げていた。それでも代表には選出されたが、最大の目標だった東京五輪が延期されたことで、新鍋は決断を下すことになる。

(第6回につづく)