2016年シーズン最多勝、ベストナインに選ばれた広島の野村祐輔投手や、セ・リーグ新人王を獲得した阪神、高山俊外野手など多くのプロ選手を輩出している明治大学野球部。その名門野球部を率いるのは善波達也監督(54)だ。明治大学を卒業後、東京ガスな…

2016年シーズン最多勝、ベストナインに選ばれた広島の野村祐輔投手や、セ・リーグ新人王を獲得した阪神、高山俊外野手など多くのプロ選手を輩出している明治大学野球部。その名門野球部を率いるのは善波達也監督(54)だ。明治大学を卒業後、東京ガスなどを経て2004年から明治大学野球部コーチ、2008年から監督を務め、今年で9年目となる。その善波監督に、指導方法で気を付けていることやプロで活躍する卒業生、部員たちへの想いなどを聞いた。

■「今シーズンはやるな」―、教え子の躍進を予感

 2016年シーズン最多勝、ベストナインに選ばれた広島の野村祐輔投手や、セ・リーグ新人王を獲得した阪神、高山俊外野手など多くのプロ選手を輩出している明治大学野球部。今年のドラフトでも柳裕也投手が中日から1位指名、星知弥投手がヤクルトから2位指名を受けるなど計4名がプロ入りした。

 その名門野球部を率いるのは善波達也監督(54)だ。明治大学を卒業後、東京ガスなどを経て2004年から明治大学野球部コーチ、2008年から監督を務め、今年で9年目となる。その善波監督に、指導方法で気を付けていることやプロで活躍する卒業生、部員たちへの想いなどを聞いた。

 今シーズン最多勝となる16勝を挙げた野村は、毎年母校のグラウンドで自主トレを行う。今年初め、その教え子の自主トレを見た善波監督は「今シーズンはやるな」と感じたという。

「真っ直ぐの質が良くなっていました。『今年は14勝いけるぞ。それを目標に頑張れ』と言ったんですが、それを超えて16勝しましたね」

 新人王を獲得した高山については「新人の中で一番注目された選手だと思います。それでもよく結果を残してくれた」と話す。また、昨年のドラフト2位で高山と同じく阪神に入団し、今シーズン28試合に出場した坂本誠志郎捕手は大学でもキャプテンを務めた存在だった。

■シーズンを終えて訪れた高山にかけた言葉

「誠志郎は本当にしっかりしています。気遣いが出来て観察力がある。社会人として、キャッチャーとして、球団の役に立つ存在になると思います」。善波監督はそう期待を寄せる。

 プロで活躍する選手を育てるためには、どのような指導を行っているか――。返ってきた答えは意外にも技術的なものではなかった。

「生活面やちょっとした気遣い、明治の野球部員として寮を出て行った時のマナーなど、すぐに社会に出ることになる4年生には特にうるさく言っています。そういうところがしっかりできていれば、練習に取り組む姿勢が良くなるので、伸びる子は自然と伸びると思います」

 シーズンが終わってすぐにあいさつに来た高山にも、周りの人への気遣いの大切さを伝えたという。

「新人王を取っても、チームの裏方の人やお世話になっている人に感謝するように話しました。これから野球を続けて成果を出すには、周りの人に『高山に打ってほしいな。上手くなって欲しいな』と思いながらノックをしてもらったり、ボールを拾ってもらうことが必要です。お世話になっている人は周りにたくさんいる。そういう人たちに気遣いが出来るよう、声をかけるのが私の役目です」

■技術以上に重視するモノとは…

 2013年から3年間、侍ジャパン大学代表の監督も務めた善波監督。代表チームは短期間でチームとして結束することが必要なため、人選には技術面以上に選手同士のコミュニケーションを重視した。その結束力が実を結び、2015年のユニバーシアード大会で金メダルを獲得している。

「代表に選ばれて満足してしまっている選手もいましたが、そこから先が大事です。各チームからの子なので、故障させてはいけないと気を遣いましたが、準備をしっかりして、故障しないように取り組んでくれと伝えました。代表のユニフォームを着ているというプライド持って、選手たちは力を発揮してくれました」

 そう話す善波監督は1週間のほとんどを寮で過ごし、部員と寝泊りを共にしている。

「部員たちは自分の子ども以上の存在ですね。人の家のお子さんを預かっているわけですから。大学は社会に直結します。『明治に入れてよかったな』と選手のご家族にも思ってもらえたら嬉しいですね」

 プロの世界に進めるのは、多くの部員たちの中で一握りにすぎない。卒業後に野球続けられない部員もたくさんいるが、それぞれが与えられた場所で力を発揮している。

■プロに入ることが最終目標ではない―

「野球界とは違うところで活躍していたり、社会の役に立っているという話を風の便りに聞くとありがたいですね。最近はグラウンドに直接あいさつに来てくれたり、神宮に応援に来てくれる子もたくさんいます」

 善波監督は嬉しそうに話す。プロで活躍する卒業生たちには「プロに入るのが最終目標ではない。そこで成果を出し、周りの人に応援してもらって、球団の役に立つことが大事」とエールを送る。

「プレーの成績はいい時、悪い時と波があるでしょうが、人としての気遣いや、練習に一生懸命取り組むことでチームのためになれることがある。そこがしっかりしていれば、成績の波もなくなってくるのではないでしょうか」

 善波監督が大切にする「周りへの気遣いや練習に取り組む姿勢」。その教えを胸に刻み、プロの世界で活躍する選手たちの今後に注目だ。

篠崎有理枝●文 text by Yurie Shinozaki