「28位という結果を見た時は、ちょっと動揺してしまいました」 立教大の上野裕一郎監督は箱根予選会を終え、そう語った。 10月17日、箱根予選会は46校が参加し、各大学12名の選手がハーフマラソンを走り、上位10名のタイムをカウントし、総合タ…
「28位という結果を見た時は、ちょっと動揺してしまいました」
立教大の上野裕一郎監督は箱根予選会を終え、そう語った。
10月17日、箱根予選会は46校が参加し、各大学12名の選手がハーフマラソンを走り、上位10名のタイムをカウントし、総合タイムの上位10校が出場権を得る。
上野監督にとって2度目の予選会。昨年は「現有戦力でどれだけやれるかというレースでした」と語り、総合順位は23位。その結果が今年の基準になった。
46大学が参加し、箱根駅伝の出場権をかけた熾烈な戦いが繰り広げられた
今回は上野監督がスカウティングしてきた1年生が入学。コロナ禍の影響で満足に練習できなかったが、夏合宿でみっちり鍛えた。予選会のエントリーでは1年生が8名入り、エースの斎藤俊輔(3年)らの上級生が彼らを支える。ある程度、戦える手応えを得て、予選会に挑んだ。目標は、総合19位以内、10時間54分、選手の平均タイムは65分24秒に定めた。
予選会は気温11度、雨が降るなかでスタートした。1周約2.6キロの自衛隊立川駐屯地の滑走路を周回するコースだ。レースは各大学の留学生たちがハイペースで引っ張り、吉居大和(中央大1年)ら日本人数名の第2集団、そのうしろに大きな集団が続く展開となった。
テレビに映る大きな集団のなかに立教大の選手が見当たらず、上野監督は序盤からハイペースで動いたレース展開に「これは厳しいな」と感じたという。
留学生を含めて13名が61分台を記録し、トップ通過を果たした順天堂大は10時間23分34秒という驚きのタイムを出した。10位の専修大も10時間33分59秒で、昨年トップ通過を果たした東京国際大(10時間47分29秒)より13分30秒も早く、まさにハイスピードな予選会となった。そして、立教大のタイムは10時間54分12秒だった。
90位:中山凜斗(1年)/63:13
129位:斎藤俊輔(3年)/63:38
234位:岸本健太郎(1年)/64:48
254位:加藤駆(1年)/65:08
262位:内田賢利(1年)/65:13
283位:増井大介(4年)/65:32
326位:白瀬賢也(1年)/66:19
344位:ミラー千本真章(2年)/66:37
353位:石鍋拓海(3年)/66:42
362位:忠内侑士(1年)/67:02
チームが掲げた目標タイムはクリアした。だが順位は、上野監督が予想したよりもはるかに下だった。
「目標タイムはクリアしてくれたし、個々のタイムも忠内と金城快(369位/67:11)がちょっとブレーキになった以外、ほかの選手はほぼ予定どおりでした。1年生がこれだけ走れば十分だし、自分たちは進歩したなと思ったんです。でも、他大学の選手が自分たち以上に進歩し、速く、レース運びも上手でした。選手のコンディション、展開、他大学の状況など、読み切れなかった僕の責任です。指導力を身につけていかないと上位には勝てない。あらためて指導者の難しさを感じました」
上野監督は沈痛な表情でそう語った。
昨年は気温が上がり、後半にペースが落ちて最後はスタミナ勝負になった。だが今回は、雨のなか気温も低く、多くの大学が攻めの姿勢でレースに臨み、最後まで粘りきった大学が箱根本戦の切符をつかんだ。
「ウチはある程度、決まったペースで行かせようと計画していました。中山も本来は62分台で走れる力があったんですが、走る前『3分切るぐらいのペースでいけるところまでいこう』と制限をかけてしまったんです。突っ込ませたらどうなっていたか......そこも読み切れなかった悔しさがあります」
レース後、上野監督は「もっと速いペースでいけばよかったかな」と中山に問うと、「自分で選択したので問題ありません」と語ったという。ただ、一番悔しそうな表情を見せていたのが中山だった。他大学の1年生が好走し、61分台や62分台の結果を残しているのを知ると、表情がくもった。また、目標のひとつにしていた学生連合入りも10番目までのタイムなら箱根を走れる可能性が大きくなるが、12番目だと知ると、さらに厳しい表情になった
「中山はいつもニコニコしているけど、今回はレースが終わって、ミーティング中もずっと険しい表情のままでした。入学してからここまで自分なりにやれている感があったと思うので、そのショックもあったと思います。斎藤も25秒差で中山に負け、かなり悔しがっていました。チームでそうした競争や悔しさをあらわにするのは大事なこと。そういうところがウチに足りなかった部分だったので、それをどれだけ選手が共有できるか。それが来年に向けて重要なことだと思います」
エントリーされながら首痛で出走を取りやめた関口絢太(1年)は「自分が走ったら4分ぐらい縮められた。来年は絶対に走ります」と上野監督に誓った。期待されながらエントリーメンバーに入れなかった服部凱杏(1年)や市川大輝(1年)も同じことを伝えてきたという。
今回の予選会の悔しさは1年生の意識を変え、「来年こそは!」と奮い立たせる点火剤となった。上野監督も何が足りないのか、どうすべきかをあらためて考えさせられたという。
「中山や斎藤レベルの選手をあと2、3人は育成していかないといけない。あとは中間層のレベルアップですね。その底上げをしないと来年も厳しい戦いになると思います」
その言葉どおり、来年に向け、より高みを目指してハードな練習をこなし、個々がさらに成長していかなければ予選会突破は見えてこない。
ただ順位は下がったが、個々のタイムを見ると今年の立教大のやり方が間違っていたとは思わない。大事なことは、個々の選手がタイムを出し、しっかり成長していることを見逃してはいけないということだ。もちろん総合順位は重要だが、そればかりを見ていて選手の成長を評価できなければ次につながらない。
「昨年よりも順位(23位→28位)が落ちたといわれるとたしかにそうですが、選手のタイムは確実に進歩のあとが見られました。とはいえ、順位という結果も大事なので、来年はそこと選手の進歩をうまくつり合えるようにしていきたいと思っています」
上野監督は、早速いろいろと考えているようだ。
「来年の予選会が、今年のような周回コースで、雨がなく、さらに気温が17度ぐらいだと超ハイスピードのレースになります。それに対応し、総合順位を上げるためには、従来の練習法を考えざるを得ないですね。今年の夏合宿は各自ジョグが少し多すぎたかなと思うし、もっと目的を明確にしたほうがいいかなと思うこともありました。
来年は、たとえば各自ジョグをなくして距離を踏むとか、目的をはっきりして選手とコミュニケーションを取りながらやっていきたい。今年はこの練習をやらなかったので、このタイム、この順位になった。その反省を踏まえて、来年新たな練習に取り組めば、タイムも順位もよくなると思います」
厳しい練習を軍隊式に課せば強くなるかもしれない。だが、そうなると個人で考えて強くなる"立教らしさ"が失われてしまう。そのことについて、上野監督は予選会後のミーティングで選手たちにあらためて話したという。
「ウチは自由な環境で自ら考えて競技をすることにこだわっています。でも、楽しくやるだけじゃなく、結果を得るための厳しさも必要です。ミーティングでは『個を大事にすることは変えないけど、求められるレベルが上がってくるので、上を目指してやっていこう』という話をしました」
今の1年生は上野監督がやりたいことをやれる環境であることを明言し、スカウティングしてきた。来年の新入生も同じだ。だが、今回の結果で、おそらく1年生を含めた多くの選手たちが予選会の練習に傾倒し、個人種目にかける時間が減少することを覚悟しただろう。とはいえ、トラックシーズンでは個々の活動に集中することに変わりはないと、上野監督は選手たちに伝えた。
ただ、夏合宿からは予選会モードにガラリを切り替える。そこは今年以上に厳しくなるだろう。第100回大会までに箱根駅伝に出場するチャンスは、あと3回しかないのだ。
そしてチームは、予選会終了後に新体制が発表された。新キャプテンには、上野監督が「頑張り屋」と評価する石鍋拓海(3年)が就任し、副キャプテンには加藤大輔(3年)が就いた。エースの斎藤は選手として、競技に集中するために役職には就かないことになった。主務には、豊田桃華(2年)が就き、立教大初の女性主務が誕生した。上野監督の片腕となり、動いていた「早田(光佑)主務の卒業は痛い」と上野監督は苦笑するが、このスタッフで2021年新シーズン、そして箱根予選会に挑むことになる──。