F1グランプリサーカスは24年ぶりにポルトガルの国境を越え、南端の街ポルティマオへとやって来た。 新型コロナウイルスの感染拡大によって多くのグランプリが中止を余儀なくされた結果、アルガルベ・インターナショナル・サーキットでの開催(第12戦…

 F1グランプリサーカスは24年ぶりにポルトガルの国境を越え、南端の街ポルティマオへとやって来た。

 新型コロナウイルスの感染拡大によって多くのグランプリが中止を余儀なくされた結果、アルガルベ・インターナショナル・サーキットでの開催(第12戦ポルトガルGP)が実現することになった。



起伏のあるコースに期待を寄せるフェルスタッペン

 このサーキットは2008年にF1開催を目指して建設されながらも、F1の公式テストとGP2のレースが行なわれただけで、グランプリ開催を果たせないまま10年以上の歳月が過ぎていた。そのアルガルベに、ようやく白羽の矢が立ったのだ。

 女子サッカーの国際大会で有名な地域だが、そのサッカー場があるファロから50kmほど離れたポルティマオは地中海に面したビーチのあるリゾート地。こぢんまりとしたポルトガルの田舎町という風情だ。

 丘陵地帯にあるサーキットは大きなアップダウンがあることで知られ、GP2やユーロF3で走行経験のあるドライバーたちは、まずその高低差の変化を口にする。

「最初に圧倒されるのは、サーキットのあちこちにある高低差のすごさだね。どのドライバーもそれを口にすると思うけど、200km/h以上のスピードでコーナーが見えないところに飛び込んでいくのは普通じゃない。いろんなキャラクターのコーナーがあって、とてもクールなサーキットだ」

 2015年のユーロF3でポールポジションを獲った経験のあるアレクサンダー・アルボンは、アルガルベをそう形容した。

「坂を駆け上がってブラインドで抜けて行くようなところ(ターン8出口)では、クルマがテイクオフしそうな感じになる。そして突然下って、また上って、完全にブラインドのコーナー(ターン10〜11)に入っていく。ブレーキングをしてターンインしていくんだけど、自分がどこに向かっているのか把握できなくて、そして右にコーナーが現われたかと思うと、また急激に下っていくんだ」(アルボン)

 マックス・フェルスタッペンは、たまたま今年1月にこのアルガルベに来て、GTマシンでトレーニングを兼ねたテストドライブをしていた。

 GTマシンでのドライブは楽しかったらしいが、F1マシンにとってはほとんどが中低速のコーナーになってしまう。実質7箇所しかないコーナーの大半は退屈なものになってしまうかもしれない。

 一方、アップダウンの激しさはドライバーのドライビングに影響を与えるものの、マシンのセットアップという技術面においてはそれほど大きな影響は及ぼさないという。

「高低差変化がすごく多くて、レイアウトはとてもクールだよ。ちょっとテクニカルだけど、全体的に速度域の高いサーキットだし、F1マシンで走るのを楽しみにしている」

 大きく見える高低差もせいぜい30メートルほどで、それ自体はスパ・フランコルシャンのオールージュやサーキット・オブ・ジ・アメリカズのターン1と、それほど大きな違いはない。ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう語る。

「ある意味、標準的なサーキットかと思います。起伏に富んでいて、アップダウンがコースに折り込まれている感じですね。上がったり下がったりが何度か繰り返されていますけど、一番高低差があるところで30メートルほどですから、そんなに急激に上り下りがあるという感じでもありません」

 パワーユニットのセッティングとしては、前回のニュルブルクリンク(第11戦アイフェルGP)ではわずか1時間のフリー走行で仕上げることができてしまったため、アルガルベが初開催といってもそれほど心配はなさそうだ。

 気温は20度を超え、路面温度は30度以上と、この時期のヨーロッパにしては格別の気候。日曜には雨の恐れもあるが、「人生いろいろと従うしかないことばかりですけど(苦笑)、天気はとくにしょうがないですからね」と、田辺テクニカルディレクターも運を天に任せる。

 かつてのアルガルベは、バンピーな路面で知られていた。だが、このグランプリ開催に先立って路面は再舗装され、グリップレベルが上がっている。

 そもそも全開で走る最終コーナーや高速のターン1などタイヤにかかる負荷は大きい。さらにはアップダウンのせいで、横方向だけでなく縦方向にも大きな負荷がかかる。

 ピレリは未知のグランプリに対してコンサバティブなアプローチで最も固いタイヤを持ち込んでいるが、これをうまく使いこなすことが今週末のカギを握ることになるかもしれない。

 レッドブルは極寒のニュルブルクリンクで好走を見せた。中低速コーナーが連続するセクター1で速く、同じようなコーナーが多いアルガルベでも好走が期待される。

 ニュルブルクリンクにはフロントウイング、ミラーやHALO周辺の整流フィン、リアサスペンションなど細かなアップデートを投入し、ロシアGPで試したコンパクトなサイドポッドと合わせて、マシン挙動はかなり改善されたようだった。

 予選で0.293秒差に迫ったフェルスタッペン曰く、マシンのフロントとリアがバラバラの動きをすることはなくなり、マシンバランスが向上したという。シーズン序盤にコーナーの入口で苦しみ続けた突発的なマシン挙動の元凶が、ようやく改善されてきたのだ。

「マシンの(前後バランスの)一体感が増したように感じられた。ニュルブルクリンクではいい週末を過ごすことができ、マシンも一歩前進できてメルセデスAMGとのギャップを縮めることができたと思う。今週末どこまでやれるか、また新しいサーキットで走るのが楽しみだよ」

 メルセデスAMGはすでに今季型W11の開発を終了して2021年型マシンに目を向けているというが、レッドブルは今季型の改良作業を継続している。というのも2021年は、今年のマシンをベースに大きな変更を加えることなく戦うレギュレーションになっているからだ。

 つまり、現行マシンの改良作業は、そのまま来年にも生きてくる。むしろ、現行マシンに問題を抱えているなら、今のうちに原因の究明と対策を済ませておく必要がある。

「このクルマに対する理解を深め続けることのほうが重要だ。今このマシンの開発を進めて理解を深めることは、来年にとってもいいこと。メルセデスAMGが何をやっていたとしても、それが僕らにとっても同じようにうまく機能するとは限らない。だから、僕らは僕らのやり方でプッシュし続けていくだけだ」(フェルスタッペン)

 目の前のレースで少しでもいい結果を残すことは、もちろん大切だ。しかし、現実に目を向ければ、2020年のタイトル争いは事実上不可能といっても構わないだろう。

 だが、2021年にはまだ無限の可能性がある。ホンダも2017年以来初の骨格変更を伴う大幅刷新型パワーユニットを投入する。そこに向けて、残された6戦は実戦テストのように戦う。それがレッドブル・ホンダの戦いだ。

 その中で、ほぼ初開催のニュルブルクリンクがあの結果に終わったことを思えば、初開催のアルガルベでもメルセデスAMGに肉薄するチャンスは通常のグランプリサーキット以上にある。風光明媚なアルガルベでの走りと結果、そして2021年の逆襲に向けたさらなる奮戦に期待だ。