10月17日、2020-21シーズンのV.LEAGUEが開幕した(女子のV2リーグは10月31日から)。今年は新型コロナウイルスの影響もあり、例年とは違う形で試合が行なわれる。 各会場の入場者数はキャパシティーの50%以下。さらに男子のV…

 10月17日、2020-21シーズンのV.LEAGUEが開幕した(女子のV2リーグは10月31日から)。今年は新型コロナウイルスの影響もあり、例年とは違う形で試合が行なわれる。

 各会場の入場者数はキャパシティーの50%以下。さらに男子のV1リーグは、これまで別チームと戦ってきた週末の2試合が「同一カード2連戦」になった。これはVリーグ機構が推し進めてきたホーム&アウェー方式を定着させる試みの一環で、女子のリーグへの導入も検討していくという。

 そんな今季に大きな注目を集めるのが、ドイツやポーランドを経て古巣のサントリーサンバーズに復帰した、日本代表の主将・柳田将洋だ。昨シーズンに負ったケガの心配もなく、4季ぶりのVリーグで大活躍する姿を心待ちにしていたファンも多いだろう。



4季ぶりに古巣のサントリーでプレーする柳田

 だた、チームには不測の事態も。コロナ禍による就労ビザの問題で外国人の選手やスタッフの合流が遅れるチームもあったが、サントリーもそうだった。2シーズン前からプレーする、ロンドン五輪金メダリストのロシア代表、ドミトリー・ムセルスキーが開幕戦には姿を見せず。一方で相手のウルフドッグス名古屋(旧豊田合成トレフェルサ)は、今季からプレーするポーランド代表のオポジット、バルトシュ・クレクが開幕直前に間に合った。

 2018年の世界選手権MVPでもあるクレクは、第1セットはベンチスタート。対するサントリーは、ムセルスキーのポジションに入った栗山雅史が気を吐き、古巣復帰の1戦目でスタメン起用された柳田も攻守で活躍。終始リードを保って先制した。

 第2セットも序盤からサントリーが先行するが、6-2となったところで名古屋がクレクを投入した。最初こそ体が温まっていない印象があったクレクだが、終盤の21-18とリードされたところから驚異の5連続サービスエースを決めて逆転。その後、サントリーはデュースに持ち込んだものの、一進一退の攻防の末に32-34でセットを取り返された。

 第3セットも均衡した展開となったが、ここから柳田の存在感が光った。

 クレクに負けじと連続サービスエースを決め、栗山らと共にバックアタックなどで得点を重ねてこのセットを奪う。続く第4セットも、フェイクトス(ツーアタックを打つと見せかけてトスを上げ、ノーブロックにしたスパイカーに決めさせるプレー)や、クレクを1枚ブロックで止めるなどして流れを引き寄せた。そのまま第4セットを制したサントリーが、セットカウント3-1で開幕戦白星を飾った。

 勝利後の記者会見は、密を避けるためにコート上で行なわれた。筆者はこれまで20年以上バレーの取材をしてきたが、日本でこういった形の会見に出るのは初めて。そのなかで柳田は、久しぶりのVリーグでのプレーについて「代表でも日本でプレーはしてきたので、そこまで特別な感情はなかったです」と述べつつ、開幕戦について次のように振り返った。

「最初はやはり、自分も含めてみんなに硬さがありました。第2セットは、個人的には自分のせいで落としたと思っています。ただ、そこで諦めずに第3セットを取り返し、第4セットも連取できたのは、チームの力だと思います。

 お客さんがいる状態での久しぶりの試合は、とてもやりがいがありました。この状況で、有観客での開催を実現してくださった関係者の方々、足を運んでいただいたファンの方々、会場までは来られずとも動画配信で見てくださった方々に、あらためて感謝したいです」

 ローテーションの関係でマッチアップする場面が多かった、現在の世界トップクラスの選手であるクレクへの対応については、「コンディションはまだまだでしょうし、今後はもっと調子を上げてくるはずですが、負けないように準備をしたい。彼の強烈なサーブは未知の体験でした。でも、みんなで声を掛け合ってしっかり"面"を作り、弾き飛ばされないよう試合中に修正できた」と手ごたえを語った。

 今季からサントリーの指揮を執る元日本代表の山村宏太監督は、困難な状況で初陣を飾ったことに「あんまり言うと泣いちゃいそう」と感慨深げだった。そして柳田の復帰がチームに与えた影響について、「マサ(柳田の愛称)のサーブや攻撃力は、もちろんチームにとってプラスです。でも、それ以上に影響があったのはマインドの部分です」と評価した。

 実際に今季のチームは、柳田やキャプテンの大宅真樹が中心となって、意見の交換会などを積極的に行なうようになったという。さらに柳田は、自らの"背中"でチームメイトを鼓舞した。

「彼はとにかくハングリー。与えられたメニューだけでなく、誰よりもたくさん練習するので、時には僕が『それ以上はやめたほうがいいのでは』と心配するくらいです。試合に出るために何が必要なのかを一番知っていて、そのための努力を惜しまない。それを見て他の選手たちも自主練習をするようになり、だいぶ練習量は追いついてきました。

 控えの選手たちには、もっと大きな影響を与えているかもしれません。海外リーグでプレーし、日本代表のキャプテンを務める選手がこれだけやっているのに、自分たちがやらなくていいのか。そういうマインドを作ってくれた。チームに化学反応が生まれていることが、試合を見た方にも伝わったんじゃないでしょうか」

 2003年から2017年まで、選手としてもサントリーを支えていた山村監督は、海外に渡る前の柳田とも一緒にプレーした。その時との違いについては、「全然違います。基本的な性格は変わらないけど、あの頃は子供の部分が残っていた。(2017年に)プロになって、後がない状況を自ら作ったことで覚悟ができたんだと思います」と話した。

 翌日もサントリーはセットカウント3-1で勝利。チームトップの16得点を挙げるなど活躍した柳田は、その試合のVOM(もっとも勝利に貢献した選手に贈られる個人賞)に選ばれた。

 チームは連勝でいいスタートを切ったが、今後は日本の若きエース・西田有志を擁する昨季覇者のジェイテクトSTINGS、再び覇権を取り戻そうと燃えるパナソニックパンサーズなど、ライバルたちとの戦いは熾烈を極めるだろう。柳田は、2006-07シーズンを最後に優勝から遠ざかるサントリーに栄光の「ブランデージ・トロフィー」をもたらすことができるのか。