角田裕毅(つのだ・ゆうき)がF1マシンをドライブする。 11月4日、イモラ・サーキットでアルファタウリの2018年型F1マシン「STR13」をドライブすることが明らかになった。すでにイタリア・ファエンツァにあるファクトリーを訪れ、シート合…

 角田裕毅(つのだ・ゆうき)がF1マシンをドライブする。

 11月4日、イモラ・サーキットでアルファタウリの2018年型F1マシン「STR13」をドライブすることが明らかになった。すでにイタリア・ファエンツァにあるファクトリーを訪れ、シート合わせやエンジニアとのミーティングも済ませ、準備は万端だ。



角田裕毅は神奈川県相模原市出身の20歳

「テストの最優先事項は300kmを走破することです。少しでも多く走れば走るほどF1マシンの理解を深めることができるので、途中でクラッシュしたり、コースオフしたりはしたくありません。ですから、そんなに攻めて走るつもりはありません。

 いつもどおりドライブしますし、それができるという自信もあります。もちろん、マシンに乗り込んでピット出口のシグナルがグリーンに変わるのを待っている時は、とてもワクワクしていると思いますけどね」

 重要なのは、ただイモラで2年前のF1マシンをドライブすることがゴールではない、ということだ。

 角田とレッドブルとホンダが目指しているのは、その先のFP1公式セッション出走と、F1昇格だ。今回のテストドライブは、その第1ステップに過ぎない。

 少年のような見た目とは裏腹に、角田はいつも強気で、自信に満ちている。

 それはおそらく、周りの誰よりも成熟した目で物事を見て、冷静に考え行動しているからだ。そういう点において小林可夢偉と非常に似たところがあり、つまりは日本人離れした感覚と考え方の持ち主だ。

 角田は今季FIA F2でランキング3位につけ、F1のスーパーライセンス取得に限りなく近づいている。現在の保有ポイントではランキング4位以上が必要となるが、F1の公式セッションにスポット出走すればさらにポイントが加算され、ランキング5位以上でもスーパーライセンスの取得が可能になる。

 その公式セッションであるFP1出走のために、「最新のF1マシンでのレーシングスピードで300km以上の走行経験」を満たしておくべく、このテスト機会が設けられたのだ。ミック・シューマッハらフェラーリの若手3名がFP1デビューに向けてフィオラノでテストを行なったのと同じだ。

 レッドブルのモータースポーツ活動は、チームのアドバイザーを務めるヘルムート・マルコの一存で決まると言っても過言ではない。ドライバー選定は、その最たるものだ。

 そのヘルムート・マルコが、角田にはベタ惚れだ。

 日本でまだFIA F4に参戦していた2年前の夏、角田はハンガロリンクで行なわれたレッドブルのオーディションに参加してF3マシンで好走を見せ、『レッドブルジュニアドライバー』入りを決めた。レッドブルからスポンサードを受けるレッドブルアスリートは数多くいても、レッドブル直系の育成プログラムであるレッドブルジュニアに加入できるドライバーはほとんどいない。

 そのオーディションに先立ってF1のハンガリーGPが行なわれているパドックにやって来た時、彼はすでにヨーロッパで戦うことしか考えていなかった。まだ日本のFIA F4のドライバーでしかなかった彼は、当時こう話していた。

「ヨーロッパに来て何が一番重要かというと、練習機会が少ないなかで、どれだけ自分の力が発揮できるかだと思うんです。とくにGP3なんかは他の国から来て、初めてのサーキットでいきなり走らなきゃいけないっていう環境のドライバーもたくさんいると思うんです。

 そんななかで、トップドライバーたちはしっかりとまとめてきていたし、しっかり攻めきっていてスゴいなと思いました。でも逆に、完全に負けたという感じもしなかったので、自信もありつつ学ぶことも多かったなというのが今週の経験でした」

 そのためには、今年FIA F4のチャンピオンになってスーパーライセンスポイントを合計19点にすることが絶対条件で、来年GP3から改組されるFIA F3に参戦して好成績を挙げれば40点を超えてスーパーライセンスが取れる。彼ははっきりとそう言った。

 フォーミュラの入門カテゴリーに参戦しながら、彼はすでにF1までの道筋を明確に描いていたのだ。

 小学校までインターナショナルスクールに通っていたということもあってか、考え方は非常にオープンで、日本の既成概念に囚われない。英語も一度は忘れてしまったというが、レッドブルジュニアに選ばれて想定どおりにFIA F3に参戦を開始すると、すぐ饒舌にしゃべられるところまで取り戻した。

 FIA F3ではチーム力の劣る環境下でも、徐々にチームを押し上げてモンツァでは勝利を掴み獲った。そして、FIA F2にステップアップした今季は開幕戦からトップ争いを繰り広げて、速さだけでなく強さも見せている。

「不安があるとしたら、レースペースですね。F2マシンもまだ習熟というところまではいっていませんし、ピレリタイヤのタイヤマネジメントもまだ掴み切れていないところがあるので、そこはあまり油断せずに臨みたいなと思っています。

 ピットストップとかいろんなことが自分にとっては新しいことですし、40周も走るレースも今まで経験したことがないので、何が起こるかわかりません。だから、そこは不安点として持っておいたほうがいいかなとは思っています」

 FIA F2で最も難しいと言われるピレリタイヤのマネジメントに苦労しながら、攻めているつもりでもレースを走り終わってタイヤが残っていることも少なくなかった。モンツァではトラブルもあって結果は大崩れとなったが、結果が望めないレースをしっかりとテストと割り切って走り、そこから得た答えを実践したムジェロではタイヤマネジメントを掴みきった。

 レース中の接触も時折見せるが、コントロールを失ってぶつかるのではなく、あくまで攻めたバトルのなかでの接触が多い。そのアグレッシブさも小林可夢偉と同じで、F1を初めとしたヨーロッパで戦うためには欠かすことのできないものだ。

 新型コロナウイルスの影響で開幕が遅れた今年、開幕前の6月にはシルバーストンで旧F3マシンをマクラーレンのカルロス・サインツやランド・ノリスらと走らせ、彼らを上回る走りを見せた。

「1回目はランド・ノリスとチームメイトのジェハン・ダルバラと僕の3台で、そのなかでは2日間を通して僕が一番速かったんですけど、すごく勉強にもなりました。0.1秒差で競い合って最終的には勝ちましたけど、とくにノリスから吸収するものが多かったですね。

 2回目はノリスとカルロス・サインツと僕の3人で走りました。その時はマクラーレンのふたりが2日間走って、僕は後半の1日だけ。新品タイヤを履いてアタックしたら、サインツには1000分の1秒差で負けてしまいました」

 F1ドライバーの技術に直接触れることや、それと遜色ない走りを見せることによる自信は、ヨーロッパの第一線で戦っていなければ絶対に得られないものだ。角田はそういう経験を積み重ねて、速さだけでなく強さも身に着けている。

「次元が違うな、と思うほどの違いはなかったし、彼らに何かアドバイスしてもらうことはありませんでしたけど、データはすべてオープンなので、どこがいいのか悪いのか、お互い見ながらエンジニアと一緒に直していくという感じでした。

 ただ、小さいコーナーのマシンの向きの変え方はうまいなと思いました。高いスピードで入っていきながらも(出口で)ちゃんと立ち上がれる向きにして、コーナー後半の速度を落とさずに立ち上がって行く。そういうのは勉強になりました」

 2020年のFIA F2に挑むにあたり、彼はスーパーライセンスポイントの取得基準を満たすランキング4位を目標にするのではなく、速さで周囲を納得させてF1にいくこと、それも初年度でそれを果たすのだと宣言していた。

「マルコさんからは『選手権4位以内には入らないとね』と言われていますし、自分自身も今年が勝負だと思っているので、それを目指して戦うつもりです。1年目ですけど、逆に僕的には今シーズンしかチャンスがないと思っています。

 ジョージ・ラッセルにしても、ランド・ノリスにしても、1年目でポンとF1に昇格している。そういうドライバーであることがF1を戦っていくうえで重要だと思っています。1年目から結果を出さないとダメだと思っていますし、戦う気満々です」

 そして角田は、1年目にしてFIA F2の"役者"のひとりとしてはっきりと認識させるだけの走りと結果を見せ、F1昇格まであと一歩のところに来ている。

 ホンダはあと1年でF1から去っていくが、来季アルファタウリからF1デビューを果たし、レッドブルから高く評価されるドライバーとなれば、ホンダの存在に関係なく角田はひとりのF1ドライバーとしてF1の世界で戦っていく。まさに今、角田はそのステップを進もうとしている。