初めてのハーフマラソンでしっかりと結果を残した順大の三浦龍司 10月17日の第97回箱根駅伝予選会は、新型コロナウイルス感染拡大の影響から無観客で行なわれた。コースはいつもの立川市内ではなく、入場の管理ができる陸上自衛隊立川駐屯地内に変更さ…



初めてのハーフマラソンでしっかりと結果を残した順大の三浦龍司

 10月17日の第97回箱根駅伝予選会は、新型コロナウイルス感染拡大の影響から無観客で行なわれた。コースはいつもの立川市内ではなく、入場の管理ができる陸上自衛隊立川駐屯地内に変更された。一番の違いは、昭和記念公園は終盤にアップダウンが続くが、立川駐屯地はスタートからゴールまで平坦な周回コースというところだ。

 この日は朝から雨が降って気温が低くなったため、好記録が予想された。結果としては、2年前に気温17度の好条件の中で駒澤大が記録し、"驚異的なレベル"と評された10時間29分58秒(12人中上位10名の合計タイム)を、順天堂大、中央大、城西大の3チームが上回るという、ハイレベルな戦いになった。

 その中でも圧倒的な力を見せたのが、1位の順大だ。大会前から期待値は高く、昨年4月から今年10月にかけての1万m上位10人の平均タイムは28分50秒52。これは、箱根駅伝のシード権を獲得している東海大や青学大も上回る記録だ。

 今回の順大は4年生と3年生で5人、2年生と1年生で7人という若いチーム編成だった。その12人を長門俊介監督は「前半から積極的に行くグループと、少し守りながら走るグループに分けた」と話す。

「積極的に行くグループ」の7人は、日本人トップ集団が最初の5kmを14分13秒、10kmを29分00秒ほどで通過したのに対し、14分37秒、29分21秒と、そのあとを追う第2集団の中で冷静に走った。15kmも7名中6名が44分04~07秒で通過する充実ぶり。

 残りの「少し守りながら走るグループ」の5人も5kmを14分50秒前後で入り、10kmは29分45秒前後で15kmは44分33~35秒、と乱れのない走りをした。

 底力が問われる15km過ぎからは、ペースが上がり切らなかった日本人先頭集団を第二集団が徐々に追い詰め、17km辺りでひとつの集団になった。その中で力を発揮したのが、三浦龍司(1年)と、野村優作(2年)だ。

 日本人集団から飛び出していた菊地駿弥(城西大4年)を追い、ラスト勝負で三浦が菊地をかわして抜け出すと、全体5位、日本人1位の1時間01分41秒でゴールした。その10秒後には野村もゴールして、順大の強さを見せつけた。

 その後も、39位までに10人がゴール。合計タイムは10時間23分34秒というハイレベル。それだけではなく、12番目の選手も75位の1時間03分06秒と12人全員がいい走りだった。

 長門監督は、選手たちが見せたこの力強い走りを満足そうに振り返った。

「すべての学生がしっかり結果を出した、その底力に驚いています。フラットなコースで条件はよかったのですが、上のグループの中の何人かが(1時間)2分台を出してくれるかなと考えていました。しかし、1分台がふたりで11番目まで2分台、という結果は想像していませんでした」

 三浦の好走についても高く評価する。

「ハーフは未知数だったのですが、夏合宿の走り込みを見ていても確実に走れるだろうという実感はありました。塩尻和也(19年2区区間2位)の1年の時よりもいい練習ができていたので、1時間02分30秒は切れるかなと思っていましたが、ここまでタイムを伸ばしたことに、潜在能力の高さを感じました」

 三浦は、「自粛期間中に自宅の近くで距離を踏む練習を続けて、足の基礎つくりをできたことが今に生きている」と話す。メインに置く3000m障害では、7月のホクレン・ディスタンスの千歳大会で日本歴代2位(8分19秒37)をマーク。指定期間外(※)だったために東京五輪参加標準記録(8分22秒00)突破の認定はされていないが、五輪が一気に近づいてきたことは間違いない。その自信が、前向きな欲を持って現れているようだ。
※東京五輪出場権の選考期間が11月末まで凍結中のため

「箱根は今のところ6区を希望していますが、1区や2区などの前半の区間を目指してもいいのかなと思いました」(三浦)

 今年の箱根で順大は1区で18位と出遅れた。そのあとも、一度もシード圏内に順位をあげられないまま14位で終えた。今年だけではなくエースの塩尻がいた頃も、1区は出遅れていた印象がある。

 長門監督は「前回はハイスピードの展開に出遅れたが、今年の予選会はスピードに対応できたので、本戦でもしっかり上位で戦えるようにしたい」と期待を高める。実際に今回の総合力の高さを見ても、順大は確実にシード権圏内の戦いができるだけの実力を蓄えているようだ。

 学生トップクラスのエースは不在だったが、今後は三浦がそのエース候補に育っていく可能性を見せてくれたことも大きい。本戦での彼の起用区間は未定だが、鬼門の1区さえ乗り切れば「伝統校・順大の復活もありうる」と期待を持たせてくれる予選会となった。

 そんな順大とともに、本戦でもしっかり戦えそうな雰囲気を見せたのが総合10時間26分13秒で2位になった中央大だ。予選会には、前回の箱根で2区を走った川崎新太郎と、8区を担った矢野郁人の4年生を外したオーダーで臨んだ。その理由について藤原正和監督は「手島駿(3年)や中澤雄大(2年)、園木大斗(1年)、湯浅仁(1年)という大学のビッグゲームを経験していない選手たちをあえて使い、今後のチームビルディングや本大会へ向けての経験値をより上げていくため」と説明した。

 さらに9月の日本インカレ5000mで優勝していた吉居大和(1年)と前回の箱根で7区を走った森凪也(3年)について、藤原監督は「このふたりは世界に出ていかなければいけないので、逃げグループでチャレンジさせると早い段階から決めていた」と、実際にレースで日本人トップ集団につけさせた。

 その中で吉居は攻めのレースをしたが、最後は競り負けて1時間01分47秒で10位という結果に終わった。

「スタートから順大の三浦を意識していました。負けたくないと思っていたので本当は逃げ切りたかったのですが、10km手前で後ろとの差が詰まってきたので『ラストで勝つしかない』と気持ちを切り替えました。日本人トップを目指していたので、負けたことが悔しいです」(吉居)

 森も後ろの集団に吸収されてから遅れ、1時間02分08秒で20位となった。

 期待した新戦力の吉居と森がうまく機能し、手島はチーム7位、中沢は8位、10人目の池田勘汰も1時間03分05秒でゴールする着実な走りを見せた。藤原監督は「トップ通過を狙っていたのでその点は悔しいですが、設定以上のタイムだったことは、純粋に選手たちに力がついている証だと思います」と話した。

 吉居については「1時間2分は切ってくると思っていたので、タイムは予想通り。三浦選手のグループで行っていたらタイムはもっとよくなったと思いますが、難しいレースをよく走ったと思います」と、エースへの成長を期待する。

 前回の箱根で中央大は、4年生が10区のみだったため9名がまだ大学に在籍している。しかも、その中で今回の予選会を走ったのは5名だけ、という余力を持っての2位通過だった。新チームになってから、目標を箱根3位以内に掲げているが、藤原監督就任4年目は、昨年より充実した力を蓄えていることは間違いなさそうだ。

 本戦になると、シード校が当然のように強さを発揮する。だがそこに、このハイレベルな予選会を通過したこれらの大学が果たしてどう食い込んでくるのか。来年1月の箱根駅伝も楽しみになってきた。