「選手の調子を段階的に言うと、新座のレースの頃が10%、東海大記録会が50%、箱根予選会では80〜90%はいくと思います。絶対に(調子が)上がってくるトレーニングをしてきているので、あとは当日までに本人たちがどのくらい仕上げてくるかですね」…

「選手の調子を段階的に言うと、新座のレースの頃が10%、東海大記録会が50%、箱根予選会では80〜90%はいくと思います。絶対に(調子が)上がってくるトレーニングをしてきているので、あとは当日までに本人たちがどのくらい仕上げてくるかですね」

 立教大の陸上競技部・上野裕一郎監督は期待に膨らんだ声でそう言った。もちろん、そう言えるのにはたしかな手応えがあったからだ。



監督として2度目の箱根予選会に挑む立教大・上野裕一郎氏

 新座市の記録会(9月19日・5000m)は、3次合宿を終えて4日後のレースだった。設定は、4000mまでは11分42秒前後でいき、残りはフリー。

 斎藤俊輔(3年)がラスト1キロを2分42秒で走り、1組でトップ。ミラー千本真章(2年)、中山凜斗(1年)、内田賢利(1年)の3人が自己ベストを更新するなど、計8人の選手が14分台をキープした。

 つづく東海大記録会(9月27日・1万m)では、増井大介(4年)、斎藤が自己ベストを更新し、初めて1万mを走った中山が29分台を出すなど、まずまずの結果を得た。

「斎藤はだいぶ調子を上げてきてくれました。中山は、はまれば29分前半もいけるかなと思ったんですが、7000mまで先頭で引っ張っていたので、ついていく状態ならタイムはもっとよかったと思います。関口(絢太/1年)はこれから上がってくるでしょうし、内田は30分14秒、増井も30分30秒を切って、これで予選会を走るメンバーのメドがだいぶつきました」

 そして10月5日、箱根予選会のエントリーメンバー14名が発表された。メンバー表を見て目を引くのが、1年生の存在だ。14名中8名が1年生で、参加46チーム中、最多である。

 ただ、上野監督が「50、60%のメンバー編成」と語ったように、期待されつつもエントリーから外れた選手がいた。の一方で、エントリーメンバーには夏合宿を経て、かなり成長してきた選手が入った。

「2年の金城(快)ですね。昨年は練習では安定した走りをしていたけど、試合になると力を発揮できなかったんです。それが今年は試合で力を発揮できるようになり、本当に成長しました。権守(遼大/1年)はスポーツ推薦ではないのですが、合宿ですごく頑張った選手。一般でもやれるんだというのを見せてくれそうなので、そこに期待しています。ただ選手全員をいい状態でしっかり揃えるのは思った以上に大変ですね」

 どういうところに難しさを感じたのだろうか。

「1年生は体ができていないし、体力もまだまだなので、練習の質や量を増やすと、故障したり調整がうまくいかなかったり......。逆に上級生は昨年の経験を生かして走ってくれて、調子を上げてきてくれた。上級生と下級生の両方がいい状態ではまってくれるといいんですが、これがなかなか難しいです」

 今年の箱根予選会は立川駐屯地内の1周約2.6キロの滑走路を周回するコースで行なわれる。例年の立川公園内の起伏のあるコースとは異なり、フラットなコースを走ることになる。

「コースは平坦で周回ですし、景色が変わらないので気持ちが切れてしまう選手が出てくるかもしれないですね。ただ、後半は前の選手が見えるので粘って頑張れるところもあるでしょう。タイムは間違いなく上がると思いますが、切り替えどころがないので作戦的にはすごく難しい」

 今回のレースが通常と異なるのはコースだけではない。コロナ禍の影響によって無観客となり、当日会場に入れるのは選手、スタッフ20名に限定されている。さらに、タイムを含めた選手へのかけ声は禁止となった。

「昨年はポイントを4つに分割し、移動しながら声をかけていたんですが、今年は声をかけられない。ホワイトボードで指示するしかないので、どう伝えるか......。ただタイム差を書いて知らせるだけでなく、選手の刺激になり、頑張れるには何を書けばいいのか。いろいろ考えています」

 さまざまな規制のあるなかでの予選会になるが、チームは2次合宿の最後に設定した「総合で19番以内」の目標に変化はない。

「天候などコンディションにもよりますが、上位6人ぐらいはいいタイムで走ってくれると思います。7番以降の中間層から下が少し崩れそうかなという感じもしますが、そこが持ちこたえてくれると、来年につなげることができる。彼らがどこまで踏ん張れるかですね」

 レースでは、1キロ3分をどこまでできるかをチャレンジさせる予定だという。

「1年生を含め、みんな力をつけているので面白くなるかと思いますが、予選会は計算できないですからね。昨年経験して、よくわかりました」

 昨年、上野監督が初めて経験した箱根予選会の難しさは、どういうところで感じたのだろうか。

「初めて走る選手は緊張しますし、硬くなってしまう。レースでうまく走れないと焦ってしまうこともあります。そこで『絶対に走らないとダメだぞ』とプレッシャーをかけると余計に走れなくなるので、『ラップを落としてもいいからリラックスして走るように』と、事前にアドバイスしておかなくてはいけない。

 あとは走る前に気温や気候など状況を把握することです。昨年はレース前、選手を走らせることで精一杯になってしまって、予想以上に暑くなったことに対応できなかった。またレースで不測の事態が起きた時、スタッフに指示し、修正していく難しさも感じました」

 昨年は、各ポイントを走り回って選手にゲキを飛ばし、落ち着く暇がなかった。「どしっと落ち着いて椅子に座っているぐらいの余裕がないと、予選会は勝てないのかもしれないですね」と上野監督は苦笑するが、昨年でいえば落ち着いてレースを見られたのは予選会をトップで通過した東京国際大ぐらいではないだろうか。

 そして上野監督は来年以降、難しさにより拍車がかかると感じている。

「予選を突破したあと、その先には箱根駅伝の本番があるわけじゃないですか。予選会で1回力を出し切って、次は本番に向けてもう一度チームをつくっていかないといけない。今年はまだ難しいかもしれませんが、来年はそこを見据えて戦っていく必要があるので、相当難しいハードルになりますよね」

 予選会突破が最大の目標では、その後の箱根駅伝は出るだけで終わってしまうことになりかねない。来年はより選手層を厚くするなど、予選会の先を見据えて戦う準備をしなくてはいけない。そのためにも、今年は選手全員で決めた目標をクリアしていくことが必要になる。

「トップ10に入るためのひとつの指標は、キロ3分ペースでいける選手を揃えることが必要ですが、ウチはそのペースで走れる選手はまだ少ない。そもそも昨年は、そのレベルになかったですからね。でも1年が入ってきて、走れる選手が増えてきた。来年はその人数を倍にしていきたいですね。そのためにも今年の予選会は各選手がしっかり結果を出して、次のステージにいければと思っています」

 上野監督は力強い声でそう言った。立教大にとって、今年の箱根予選会は来年への襷(たすき)をつなぐ戦いでもあるのだ。