今季初戦となる東京選手権に出場した本田真凜、ショートプログラムの演技 フィギュアスケートの東京選手権が10月9日から11日まで、東京都西東京市のダイドードリンコアイスアリーナで行なわれ、シニア女子ではフィギュアスケート一家の本田姉妹、真凜と…



今季初戦となる東京選手権に出場した本田真凜、ショートプログラムの演技

 フィギュアスケートの東京選手権が10月9日から11日まで、東京都西東京市のダイドードリンコアイスアリーナで行なわれ、シニア女子ではフィギュアスケート一家の本田姉妹、真凜と望結に注目が集まった。

 9月下旬に右肩を2度も脱臼して調整遅れで今季初戦を迎えた真凜。一方、女優業とスケートを両立させている望結は今大会がシニアデビュー戦となった。真凜は右肩痛を抱えながらの出場となり、合計140.95点の総合7位にとどまった。また、望結はレベルを落とした構成ながらジャンプミスを連発して合計123.31点の総合12位に終わった。

 華々しいジュニア時代の活躍を経て、2017-18シーズンにシニア転向した真凜にとって、4年目の今季は、低迷脱出のシーズンにしたいところだろう。そんな矢先、シーズンインを直前に控えた9月下旬、練習中に転んで右肩を強打。最初の脱臼は自ら肩を入れたが、その翌日にも同じ右肩を脱臼し、病院で治療を受けざるを得ない状態に陥った。

 練習を3日間休み、その後は右肩を使わず、ジャンプを跳ばない練習を再開させた。約2週間、ジャンプ練習をせず、ジャンプを跳び始めたのは、今大会の女子ショートプログラム(SP)が行なわれた9日だったという。

 痛みを抱えながらの強行出場となった真凜は、ジャンプの失敗が響いてSPは47.29点の9位発進と出遅れた。

「今日(9日)からジャンプを練習し始めて、2週間ほどジャンプができていなかったので、本当にスケートをやってきた中でも一番不安な中での演技でした。全部ジャンプなしではショートは通過できないので、出ると決めたからには、やれることはやりたいと思って臨みました」

 神妙な面持ちでこう振り返った。

 SPではトーループの3回転+2回転の連続ジャンプを決めたものの、冒頭の3回転ループは2回転となり、最後のダブルアクセル(2回転半ジャンプ)は1回転になるパンクで、どちらのジャンプも規定違反で無得点に。フリーに進んだ24人中で技術点は最下位の19.69点だった。それでも、演技構成点はSP首位の永井優香に次ぐ27.60点をマークするなど、得意の表現力を発揮してみせた。

 今季の新SP『アイム・アン・アルバトロス』はシェイリーン・ボーン氏が振り付けたものだが、真凜自らのアイデアが盛り込まれたプログラムになっているという。

「去年のエキシビションを手直ししたもので、振付のベースを自分で作ってからシェイリーンさんにアレンジしていただいた。そういう部分が新しいので、よくできればいいなと思っています」

 お気に入りのプログラムということもあるのだろうか。気合いの入ったコスチュームが目を引いた。「アルバトロスという格好いい鳥をイメージしている。手袋も鳥の爪のような感じになっています」と斬新なデザインのゴージャスなパンツスタイルを着こなし、ダンサブルでアップテンポなナンバーに乗って演技を披露した。

「まずはショートを通過しないといけないことを思って滑っていました。自分のイメージどおりにいかなくて、どうしても途中で止めてしまいそうになることが何回もあったんですけど、『ダメ』と言い聞かせた」

 何とかSPで踏みとどまると、10日のフリーでは、すべてのジャンプを2回転にして、演技の完成度を上げてミスを最小限にする戦略で行くことを明かしていた。



ハプニングに見舞われながら滑り切った本田真凜、フリーの演技

 しかし、まさかこんなハプニングが起こるとは誰も予想していなかった。真凜が大会側に提出したフリーの音源が、今季のエキシビション用として使った曲だったのだ。それは3月にステファン・ランビエル氏が振り付けたレディー・ガガの『アイル・ネバー・ラブ・アゲイン』。今季は昨季の『ラ・ラ・ランド』を持ち越して使うと発表しており、もちろん今大会も『ラ・ラ・ランド』を予定していた。真凜自身もそのつもりでポジションについていた。

 しかし、曲が流れた瞬間、「あれ?」と本田武史コーチを見てから、真凜は演技をせずに審判席に向かった。一方、本田コーチは女性更衣室に向かったが、中には入れず、妹の望結に正規の音源を取りに行ってもらい、リンクに戻ってきた。だが、すでに時遅し。真凜はやり直しては決められた時間に間に合わないと腹をくくって、『アイル・ネバー・ラブ・アゲイン』で演技を始めていた。

「提出したCDに『フリー』と書いてあったんです。だけど違っていた。(3月以来)久しく聞いていなかったので、最初は他の人の曲がかかったと思ったんですけど、『いや、これは自分の曲だ』と気づいた。取りに行ってもらったCDが来るのを待とうとしたんですけど、ジャッジから『1分経ったら失格だよ』と言われて、これでやるしかないと思いました」

 スパンコールがきらきら輝く淡い紫色の華やかなコスチュームを身に纏った真凜は、本人曰く「前代未聞のハプニング」に動じることなく、ほぼ即興の演技を可憐に披露した。ステップなのかコリオシークエンスなのか、わからない部分もあったが、右肩痛のために「跳ばない」と言っていた3回転ジャンプも投入。トーループを2度も跳んだうえ、連続ジャンプも3つ成功させ、さらにはレイバックスピンからビールマンスピンまでこなして、約4分間を滑りきった。

 結局、フリーでは93.66点の5位と巻き返して総合7位に浮上。12月の全日本選手権出場に向けて、第一関門を突破した。

「まさかこの曲でいきなりぶっつけ本番は考えていなかった。ほぼほぼアドリブで滑り切ったこと自体が驚きですが、やっぱりしっかりしなきゃいけないことは、きちんとしないといけない」と、本田コーチも苦笑いするしかなかった。

 演技後のリモート会見に、スマートフォンを手にした真凜が興奮しながら現れた。

「まだドキドキしている。みんなから『ヤバすぎ』って連絡があって......(笑)。この曲は、3月にステファン先生に作ってもらったプログラムだったんですけど、3月に滑ったきりで、しかもジャンプもスピンも入れたことがなくて(笑)。振付を忘れてしまっていたので、いろいろ考えながらほとんどアドリブで滑りました。『本当にどうしよう。こんなことある?』って思って、びっくりしました!

 キスクラで待っている時に、なかなか点数が出なかったので『失格や』と思ったけど、点数が出て(滑り切れたことは)大満足です!」

 曲間違いのハプニングに見せた見事な対応力。無事に乗り越えることができた要因は、彼女の持つ表現力があったからこそと言えるだろう。底力を発揮した19歳は、終始笑顔を見せながら、ことの顛末を冗舌に振り返っていた。