冬のドイツは、鉛色の雲が空を覆う時間が長い。 すでに秋は終わったと言われる10月の、それもアイフェル山地のど真ん中に位置するニュルブルクリンクは、まさにそんな空模様に覆われていた。レッドブル・ホンダに残された時間は決して多くない 気温は8…

 冬のドイツは、鉛色の雲が空を覆う時間が長い。

 すでに秋は終わったと言われる10月の、それもアイフェル山地のど真ん中に位置するニュルブルクリンクは、まさにそんな空模様に覆われていた。



レッドブル・ホンダに残された時間は決して多くない

 気温は8度。山の中だけに天候は変わりやすく、冷たい雨が降る時間も長い。2週間前に行なわれたニュルブルクリンク24時間レースでも、そのうち9時間は雨が強く、赤旗中断を強いられたという。

「雪の中で会おう。ウインタージャケットは忘れずに」

 ロシアGP決勝後の会見をレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表がそう締めくくったように、雪が降ることも懸念されるほどの気候だ。2月のバルセロナで行なわれる開幕前テストでさえそんな気候は稀で、これほどの低温コンディションでF1マシンを走らせた経験はどのチームも皆無である。

 そんななかで2013年以来となる、ニュルブルクリンクでのF1開催。V6ターボハイブリッドの現行パワーユニットが導入されてからは初となる。

「今週末は外気温も路面温度も低く、雨の予報も出ていますから、クーリングとクルマのセットアップをしっかりと進めていきたいと思っています。雨でまともに走れない状況もあると思いますので、走行時間が限られてしまう可能性のあるなか、どういうプログラムで走ってどれだけデータを採っていくかをチームと密接に練りながら、天候変化に対しても即座に対応できるようにしたいと思います」

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう語る。

 マシン側では、いかにタイヤに熱を入れて本来のグリップを引き出すか、という点がキーファクターになる。一方、パワーユニット側も初体験のサーキットに対して、エネルギーマネジメントなどのセッティングを最適化すること、そして低温に対応することなど、普段とは違う準備が要求される。

「予報ではひとケタ台の気温が出ていますので、かなり低いと思います。ですから、パワーユニット側も油水温や各ユニットの温度など、低い側にも作動条件のリミットはありますので、そこを下回らないようにクーリング設定を行ないます。路面温度も10度台にしか上がらない予報が出ているので(対応するのは)かなり難しいんじゃないかと思います」

 ホンダ陣営にとっては2021年かぎりでの活動終了を知らされてから初のレースとなるだけに、複雑な思いもある。

 マックス・フェルスタッペンはレッドブル、そしてホンダとともにチャンピオンを目指すという目標を持って長期契約にサインしただけに、その動向に注目が集まった。

 しかし、フェルスタッペンはホンダの企業としての決断に一定の理解を示し、まずは残されたレースを全力で戦うだけだと語った。

「残念だよ。でも、彼らがそう決めた理由も理解できる。僕らはとにかくプッシュし続けるしかないし、彼らもそう言っている。もちろん、彼らは来年末で去っていくけど、だからといって今ここでバックオフするような人たちではない。

 僕らの間にはすばらしい関係性があるから、一緒に努力し続けていくし、彼らとともに戦うことはとても楽しい。今シーズン残りの7戦も、来年も、新しいエンジンを投入してプッシュし続けていくよ。最後の最後までプッシュし続け、そしてすばらしい結末へとつなげることを、とても楽しみにしている」

 4人のドライバーのなかで最もホンダとの付き合いが長く、2018年のバーレーンGPでの4位獲得、2019年のブラジルGPでの表彰台獲得やイタリアGPでの初優勝など、ホンダとともにF1キャリアを歩んできたピエール・ガスリーは、悲しさをにじませた。

「このニュースを知った時は、とても悲しかったよ。ホンダとは2017年にスーパーフォーミュラに参戦した時から長い関係を築いてきたし、とても勤勉で献身的なホンダの人たちと仕事をするのがとても楽しかったからね。

 彼らはひとつの目標があれば、それを達成するまで全力で努力する人たちなんだ。この数年間でのホンダの成長は目を見張るものがあったし、勝利を収めるまでになって、輝かしい未来が見えていた。だから、この報せはとても悲しい」

 2018年のトロロッソからホンダの進歩を肌で感じてきたガスリーだからこそ、残された時間でホンダが掴み取るべき結果もはっきりと見据えている。

「でもまだ、ともに戦うレースは残されている。僕らは自分たちの力を最大限に引き出すことに集中し、来年の終わりまでに彼らとともにすばらしい結果を手にできると確信しているよ。そして彼らが去る前に、タイトルを獲得してくれることを願っている」

 カーボンニュートラル実現のため、かねてからホンダは青山本社で議論を続けていた。F1に関して非常に厳しい判断を下さなければならないかもしれないため、当初からなるべく現場スタッフを入れないで議論しようという方針で進んでいたという。レッドブルには本社から8月に撤退の意向を伝え、FIAやFOMには発表の前日に通達していた。それだけ、撤退の意思は固かったということだ。

 それでもレッドブル側には、2022年以降について「彼らが困らないように真摯に相談に乗り、要望に対して協力する」という姿勢を見せている。レッドブル側から打診があればパワーユニットの知的財産権の譲渡について話し合う可能性もあると、山本雅史マネージングディレクターは語っている。

 一方で、現場の技術サイドを統括する田辺テクニカルディレクターは、第2期、第3期に続いて3度目のF1撤退を経験することになる。

 そのつらさも認めながらも、残るレースに対するアプローチはこれまでと何ら変わりはないと、田辺テクニカルディレクターらしく語った。

「自分が全力投球してきたプロジェクトが終わりだよ、と言われるのは当然つらい経験です。そういう意味では、第2期や第3期の時と変わりはありません。当然、レッドブルファミリーの2チームとは非常にいい関係を築きながらやっていますから、(報せを受けた瞬間は)メンバーひとりひとりやドライバーたちの顔が浮かびました。

 その一方で、今までも1戦1戦全力で戦ってきているわけで、最後が決まったからといってもそれは何も変わりません。(ホンダの)チームメンバーにも言いましたが、地に足をつけて全力を尽くし、最後まで悔いのないように勝利への執念を持って、今まで通りやっていこうということです」

 今季は苦戦が続いているが、2021年には新骨格の次世代パワーユニットを前倒して投入することも決めた。今年の1戦1戦の奮戦が、その準備にも役立つ。撤退が決まろうとも、ホンダの現場は最後まで全力で戦い続けていく。