北田瑠衣に聞く女子ゴルフの疑問「応援を力に変える方法」 活況を見せる女子ゴルフで浮かぶ様々な疑問に対し、ツアー通算6勝の北田瑠衣(フリー)が「THE ANSWER」の取材に応じ、プロ目線の答えを語ってくれた。全3回に渡ってお届けする第2回は…

北田瑠衣に聞く女子ゴルフの疑問「応援を力に変える方法」

 活況を見せる女子ゴルフで浮かぶ様々な疑問に対し、ツアー通算6勝の北田瑠衣(フリー)が「THE ANSWER」の取材に応じ、プロ目線の答えを語ってくれた。全3回に渡ってお届けする第2回は「応援を力に変える方法」。メンタルのスポーツとも言われるほど、心の浮き沈みがプレーに表れる競技。ギャラリーの声援を力に変えられる選手にはどんな特徴があるのだろうか。

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 ギャラリーの声は、どうやってプラスに変えられるのか。ティーグラウンドなら数メートル先に観衆が並び、ギャラリー同士の会話が聞こえてくるという話も聞く。トップ選手ともなれば、ショットを打った後に次の地点へ歩き出すと、名前を呼ばれたり、拍手を受けたりして花道のようになることも多い。

 だが、応援がプレッシャーになり、プレーにマイナスな影響を及ぼしてしまう選手もいる。コロナ禍の無観客試合でギャラリーの声援が恋しくなった女子ゴルフ。力に変えられる選手、変えられない選手の差は何かあるのだろうか。

 北田の場合は「『応援=力』という感じでうまく吸収できたのかなと。だから、それがプレッシャーになることはなかったですね」と振り返った。ティーショットがフェアウェーに乗ると、遥か先から拍手が聞こえてくる。「グリーンを外しちゃったかなと思ったショットの時に『ナイスオン!』と言ってもらえると、『あっ、よかった』と思える。それはありがたいし、嬉しかったです」。ギャラリーの反応がプレーの助けになり、気持ちも乗っていった。

 時に日本のギャラリーは“優しすぎる”という意見も聞く。海外ではたとえグリーンに乗ったとしても、難しい位置だった場合は拍手が起きないこともある。本当にいいショットだけが称えられるからだ。これについて北田はツアー通算6勝を挙げ、大ギャラリーを経験してきたプレーヤーとしての個人的な感覚を明かした。

「実際に足を運んでくださっているギャラリーの方は、皆さん目が肥えていると思うんですよね。いろいろな選手のボールやスイングを見ているから、『あっ、これはいいショットだ』とわかると思います。そこで判断してもらって、『ミスショットなんだけどな』という時でも『ナイスショット!』と言ってもらえたら私は嬉しいです」

 ギャラリーの声をポジティブに捉えた。それができる選手とできない選手の違いについては「難しいなぁ」と首をひねりつつ「性格ですかね。凄く大人しい性格の選手には『そっとしといて……』という人もいるかもしれないですし」と答えた。

 応援を力に変えるのが“上手い”印象がある選手がいる。渋野日向子(サントリー)だ。大観衆の前でもありのまま。名前を呼ばれると会釈で返す。コース脇に小さな子供が入れば、自ら歩み寄ってハイタッチ。ラウンドレポーターとして間近でプレーを見たことのある北田は「彼女の場合は特別だと思う」と語り、こう続けた。

「凄くポジティブ。もうポジティブの一言で表せないくらい。でも、芯は凄くしっかりしていてブレない。プロゴルフはスポンサーさんやファンの方々があって成り立っているスポーツという考え方です。彼女はそれがもう自然にできているし『一緒に楽しみましょう!』という感じが凄く出ていますよね。最初にスマイルシンデレラとネーミングされたのも、本当にその通りだと思います」

渋野日向子と宮里藍に通じる部分とは「持って生まれたもの」

 渋野は昨年8月の全英女子オープン優勝後、チャームポイントの笑顔が一躍脚光を浴びた。国民的ヒロインとなり、出場する試合の観客動員は毎回のように最多を記録。シーズン終盤、渋野と食事に行く機会があった北田は、いつもニコニコ明るくプレーしている姿を見て「これからきつくなるかもしれないけど大丈夫?」と聞いたという。調子が悪い時に無理を強いられる可能性があるからだった。

 返ってきた答えは「これが自分の自然体です」。渋野は最終戦終了時の会見で「ずっと笑っておかないといけないのかなと思う時もあった」と悩んだ時期について明かしていたが、良い時もそうでない時もありのままを貫いた。さらに「(最終戦の2週前に)予選落ちしてから応援のありがたみを凄く感じています。応援は本当に凄い励みになる。声援が後押ししてくれたから、1年間頑張ってこられた」と痛感していた。

 北田は自然体でいられる渋野に対し「彼女は凄いな」と驚いたという。スポンサーやファンに感謝する大切さは、教えられても若いうちはなかなか体現できない。しかし、北田が見てきた中で、応援を力に変えるのが上手い選手がもう一人いる。2005年の第1回女子W杯でペアを組み、優勝した宮里藍さんだ。ともに戦い、親交の深い間柄。渋野との共通点についてこう明かした。

「日向子ちゃんもですが、藍ちゃんはジュニア時代から全て完成されている感じがしました。受け答えもそうですし、パーフェクト。藍ちゃんも、日向子ちゃんもスターですよね。プレースタイルは違いますが、人を惹きつける力というか、人が自然と寄ってくるというか。持って生まれたものがある感じがします」

 どうすればそんな選手が生まれるのか。北田は「そういう人なんですよ、彼女たちは」と笑うが、やはり一つは“教育環境”があるという。宮里さん、渋野について「(両親の影響が)大きいと思います」と強調。一昔前と比べれば、練習環境や道具も揃えやすい恵まれた時代。しかし、技術だけでなく、今の指導者がジュニアに教えるべきことがあるようだ。

「やはりゴルフだけじゃないですよね。技術も必要ですが、人間性など教育も大事かなと。ゴルフは周りの人たちに大人が多いです。私の時はジュニア用のクラブもありませんでしたが、今は全てにおいて環境が整っていますよね。トレーニングやスイング理論も確立されてきています。

 ゴルフに関してはしっかりとした指導者がいれば、親がノータッチでも遠回りせずにできると思います。だから、それ以外の部分で勉強だったり、人間性だったり、そういう面をしっかりサポートしていく必要がある。そうすれば、藍ちゃんや日向子ちゃんみたいな選手が出てくるのではないでしょうか」

 プロゴルフに欠かせないギャラリーの存在。その応援を力に変えられるかどうかで差が一つ生まれる。ポジティブな性格に加え、言わずもがな感謝の心も大切なようだ。

(7日掲載の第3回は「ゴルフ選手がイップスになる理由」)(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)