昨年度日本一を支えたのは、早稲田伝統のスクラムを取り戻したFW陣の奮闘だった。今年度も、チームの勝利にはセットプレーの成功が不可欠。BKにボールを供給しチームに良い流れを引き寄せるための鍵を握るFWの4選手に、関東大学対抗戦(対抗戦)開幕…

 昨年度日本一を支えたのは、早稲田伝統のスクラムを取り戻したFW陣の奮闘だった。今年度も、チームの勝利にはセットプレーの成功が不可欠。BKにボールを供給しチームに良い流れを引き寄せるための鍵を握るFWの4選手に、関東大学対抗戦(対抗戦)開幕を前にした胸の内を伺った。

※この取材は9月22日に行われたものです。

自粛期間を経て

――3月から活動自粛期間に入って、寮に残る選手と帰省する選手がいらっしゃったということですが、皆さんは残られたのでしょうか

一同 全員残りました。

――活動自粛中の活動について、その期間で得たものや取り組んだことはありますか

久保 外国のスーパーラグビーの試合を見て「こういう選手の真似をしたい」だとか「このプレーがどうだった」という話を学年関係なくグループに分かれてしました。同期や普段試合に出ているメンバーだけでなく色々な選手とコミュニケーションがとれましたし、別の人が考えている事を知ることが出来たのも良かったと思います。

大﨑 自分は、スーパーラグビーやワールドカップといったトップレベルの試合を見て、選手の良いところを真似しようと思っていました。ブレイクダウンへのプレッシャーのかけ方やキャリアーのボールへのからみ方など、良い意味でいやらしいプレーを海外の選手はしていたので、そういった部分を自分もマネできるようにと注目して見ていました。

下川 試合がなくて全員で集まって練習できなかったので、イメージでラグビーをするというのが大事だったと思います。少人数で構成されるスモールグループで同じ試合を見て、その試合中で気づいたことや考えを話し合いました。また、個人的にトップレベルの選手のプレーを見て「これだったら自分もできるな」というイメージを膨らませて、自分が出来る事と出来ない事をしっかり明確に区別して見るように意識していました。

宮武 スーパーラグビーの試合も見ましたが、自分たちの試合をグループ内で(互いに)見合うというのもあって、自分が普段話さないポジションの人からプレーについて評価や意見をもらえたので、自分の試合を他の人に見てもらうというのは良い取り組みになりました。

――それまでは全員で試合を見て意見交換するというのはあまりなかったのでしょうか

下川 今まではチームの中にグレードがあって、そのグレード同士でのレビューをしていたのですが、自粛期間中はグレードやポジション、学年関係なしにミックスした状態でレビューをしていました。

――全体での練習はいつごろ始まりましたか

久保 6月中旬くらいです。

宮武 コンタクト練習は7月に入ってからです。

――マスクをしてスクラム練習をしていたというのは本当ですか

久保 そうですね、はい。7月終わりくらいまでつけていました。

下川 息苦しい中でやるので、そういうトレーニングみたいになっていましたね(笑)。

久保 (マスクを)つけているときは制限されるのできついのですが、外した時に楽に感じたりするので、ある意味つけていた意味もあるのかなと思いますね。

――練習試合はどのくらいされたのですか

下川 練習試合としては1試合で、合同練習という形でもう1試合やりましたね。実戦は(昨季の全国大学選手権)決勝戦以来でした。

――みなさん出場されましたか

下川 僕はしてません。

――出場されたお三方にお聞きしますが、久しぶりの実戦はいかがでしたか

久保 そうですね、いつもは早稲田内で試合形式の練習をしていましたが、流経大さんとの試合ではやはりいつも使っているサインや動きとは違うので、最初は戸惑ったというか。うまくいかない事が多かったです。今もチーム内だけでの練習が多いので、相手がどういう動きをしてくるか想定しながら練習していきたいと思いました。

宮武 セットプレーの話をすると、スクラム、ラインアウトともに今までやってきた練習(の成果)が出せたのかなと思います。

大﨑 セットプレーについては今言ったようにうまくいった部分もあったと思います。だけどなかなか得点に結びつかなくてつらい時間帯もありました。そういうところは自分たちでこれまで取り組んできたことに立ち返って我慢できたので、しっかり勝ち切れたと思います。流経大さんには外国人選手が3人いたので、普段早稲田では感じることのできないプレッシャーも感じました。対抗戦や大学選手権では外国人選手がいるチームがいくつもあるので、そういう意味で良い刺激というか良い経験になったと思います。

「もう一度『荒ぶる』を獲るためにはまだまだ良くすることはできる」(久保)

――流経大との練習試合ではスクラムトライを挙げたとのことですが、スクラムの現在の状態はいかがでしょうか

久保 そうですね、確かに今のところ良い状態でできていると思います。でももう一度『荒ぶる』、日本一を獲るためにはまだまだ良くすることはできるし改善点があると思うので、そこはもう一度FWで話し合って考えながらできたらと思います。


低くまとまったスクラムを目指し練習に取り組む大﨑

――具体的に課題をあげると

宮武 ロックとの密着とかセットアップの精度。毎回同じようなセットアップをするという点ではもっと(精度を)上げていけるところなのかなと思います。

久保 8人全体のまとまりと、早稲田スクラムの伝統である「低さ」をもっと突き詰めていければと思います。

――昨年度始めたとおっしゃっていた、FWでビデオを見て意見を共有し合うというのは今年も行っていますか

久保 今年は全体で集まってビデオを見るというのはないです。ただ、ミスやエラーが起きたら練習終わりにFWで集まってセットアップの確認をするなど、練習が終わってすぐにミスを修正するよう意識しています。あとは、試合前は特に注意するポイントをFWで決めたり、お互いの要求を共有してから試合に臨むようにしました。

――スクラムに関しては現在どのような練習をしていますか

宮武 今は8人同士、実戦形式で組み合う練習が多いです。

久保 自粛期間中はZOOMを利用してスクラムコーチの方にセッションを組んでもらって、帰省した人も含めて基本の動作、基礎のところをしっかり固めたので、それが今の良い状態につながっているのだと思います。

――ラインアウトの精度はいかがですか

大﨑 去年からメンバーが変わったところで、なかなか精度が出ないのではと思っていましたが、実際この前の流経大戦では8~9割の確率でマイボールをキープできていました。その点は良かったと思うのですが、相手のディフェンスがうまくなってきたり相手にこちらのアタックを分析されたりしはじめるとスティールされてしまうこともあると思うので、細かい精度に関してはこれからもっとこだわれるところがたくさんあると思います。

――現時点でラインアウトの課題はありますか

下川 自分たち以外の他大学との試合や攻防を満足にできていないので、今は自分たちのスキルや精度にこだわりきるところが今後も課題というか、突き詰めていかなければいけないところだと思います。

「昨年よりも多くコミュニケーションが取れた」(下川)

――寮長の久保選手は、今の寮の雰囲気をどのように感じていますか

久保 学年関係なく、普段から仲が良いと思うので、重たい空気はありません。普通に楽しんで生活していると思います。

――他のお三方から見た寮長の久保選手はどのように映っていますか

大﨑 普段は優しい方なのですが、寮則に関してはしっかり守らないと怒られることがあります。みんな萎縮することなく、「優さんに怒られないようにルールを守ろう」みたいなところは、多少あります(笑)。

――新1年生が入寮したと思いますが、雰囲気は変わりましたか

下川 今はもう馴染んでいますが、入ってきた当初は良い刺激になりました。大学の仕組みなど全く知らない状態で入寮してくるので、みんなで教えることが楽しいです。

――今年入ってきた1年生全体の印象はいかがですか

宮武 結構みんな固まって過ごしていて、仲が良いなという印象です。

――部屋割りについて教えてください

久保 今は宮武くんと今駒有喜(文2=東京・早実)と一緒です。

下川 二年生の相良昌彦(社2=東京・早実)と一年生の村田陣悟(スポ1=京都成章)と一緒です。

大﨑 僕は4年生の星谷さん(星谷俊輔、スポ4=東京・国学院久我山)と二人部屋です。

――8月の上井草にいることは今までなかったことですが、いかがでしたか

久保 菅平に比べるとやはり暑かったですね。本当に暑いことだけが大変でした。

――寮にいる時間が長かったと思われますが、何をされていたのでしょうか

下川 ゲームですね。特にボードゲームとかやっていました。

大﨑 自粛期間が始まるくらいに3年生が楽器にハマりはじめて、ウクレレ買った人やキーボードを購入した人がいて、それぞれ練習していました。今はもう誰もやっていないと思います(笑)。

――相良南海夫監督(平4政経卒=東京・早大学院)が就任してから、チームの一体感やコミュニケーションが重視されてきました。その点について、今のチームはどのような手応えを感じていますか

下川 今年新たな取り組みとしてスモールグループを作り、コミュニケーションをとっています。普段一緒に練習しないグレードの選手や違うポジションの選手とプレーしたことによって、昨年よりも多くコミュニケーションが取れたのかなと思います。

対抗戦に向けて

――例年と異なる日程で対抗戦が開幕しますが、どんな大会になると思われますか

下川 短いスパンでたくさん試合があるので、一試合ごとに出る課題を修正する時間が短くなっています。出た課題を試合中はもちろん、試合後にいかに素早く改善するかが重要になってきます。問題解決をスムーズにして、チームが一試合ごとに成長できるかということが大事です。

久保 他の大学も日程に関しては同じ状況なので、今甲嗣が言ったように時間がない中でどれだけ修正できるかというところで差が出てきます。そこを早稲田がどこのチームにも負けないようにできれば、勝ち続けることができるのではないかと思います。

――どこの試合が鍵になると思われますか

久保 一試合一試合何が起こるかわからないので、自分たちがやりたいことというのも試合ごとにあると思います。大事な試合というのは決めづらいですが、一試合一試合チームのやるべきことをやり切ろうと思います。

――慶大と明大の今年の印象はいかがでしょうか

大﨑 慶應さんは鋭いタックルがあり、ディフェンスで激しいプレッシャーをかけてくるチームなので、用意したプランが思い通りにいかないことがあると思います。そこで焦らずに我慢して、自分たちがやってきたことをやり切ることが重要だと思います。

宮武 明大はFW、BK共にスタープレーヤーが多く、個々のスキルが高くて強いです。

久保 スタープレーヤーもいるし、FWとBKどちらも強いのですが、FWとしては絶対に負けたくないです。

――昨年と印象は変わらずということですか

下川 そうです。

――早稲田としてどのようなスクラムを目指していきますか

大﨑 僕達は体が大きくない選手が多いので、相手より早く良いスクラムを組むことが早稲田のスクラムだと思います。

久保 低さに加えて、8人全員でまとまって塊でヒットすることができれば、負けることはないと思います。低さとまとまりのところを意識していきたいです。


スタメンでの出場を狙い練習に励む宮武

――自分の強みは何だと思われますか

久保 自分の強みとしては、今も頑張っていますがスクラムのところです。あとはコンタクトプレーです。体を張るタックルやボールキャリーを自分の強みにしていきたいです。

大﨑 僕はロックの中では体が大きくない方なので、ブレイクダウンなどしっかり体を当てられるところだと思います。

下川 僕はパワープレーと、ボールキャリーができることが強みです。

宮武 僕はセットプレーに関わる重要なポジションになっているので、スクラムで相手より早くヒットできることが強みです。

――今年のスローガンが『BATTLE』ということで、ライバルをあげるとしたらどなたですか

久保 自分は1番なので、スクラムで自分のトイメンになる相手の3番には絶対に負けたくないです。しっかり相手の3番に打ち勝つことでチームを優位にできるのではないかと思います。

大﨑 特定の誰かがいるわけではありませんが、昨年はリザーブで決勝も出場時間が短く悔しい思いをしたので、スタメンで出たいという気持ちがあります。ロックとして僕より大きい星谷さんや桑田陽介(スポ3=愛知・明和)がいて1年にも村田陣悟という有望な選手が入ってきた中で彼らと戦って、「絶対に僕自身が試合に出るのだ」ということを意識しながら練習をしています。

下川 昨年までだったら明大の箸本龍雅の名前を上げていましたが、今年は彼がNO・8に転向してしまったので、とにかく試合になったら相手のロックよりも走る量でも仕事量でも絶対に負けたくないです。特に明大のロックになる片倉康瑛選手には負けません。

宮武 ライバルはフッカーの選手達で、1年の川﨑太雅(スポ1=東福岡)や、同期ではけがから復帰してきた原朋輝(スポ3=神奈川・桐蔭学園)です。昨年はリザーブだったので、今年はスタメンで出場できるように頑張ります。

――対抗戦への意気込みをお願いします

久保 これまでと同じような話になってしまいますが、自分はセットプレー、スクラムで引いてはいけないと思っています。相手チームより劣ってしまうとチームの勝敗に影響が出てしまうと考えているので、まずは自分が相手の3番に対して勝ちます。さらに、FW全体でスクラムを押すことでチームの士気をあげるようなプレーを意識してやっていきたいと思います。

大﨑 誰よりも体を当て続けて、タックルやブレイクダウンで力負けせず、強い気持ちを持ってまずは対抗戦全勝を目指して頑張りたいです。

下川 チームが劣勢な時も自分がハードワークをし続けて、チームが流れを取り戻すきっかけになるようなプレーをしていきたいと思います。

宮武 優さんと少しかぶってしまうのですが、セットプレーのところで対戦相手が違えばプレッシャーも変わってくると思います。そこでハードワークをすることがFWとしても個人としても目標です。

――ありがとうございました!

(取材・編集 内海日和、細井万里男、山口日奈子)


色紙を書いていただきました!

◆下川甲嗣(しもかわ・かんじ)(※写真右)

1999(平11)年1月17日生まれ。187センチ。105キロ。福岡・修猷館高出身。スポーツ科学部4年。入学当初から早稲田のフォワードで活躍してきた下川選手。今年は最高学年となり、フォワードだけでなく、副将としてチーム全体をまとめる立場に。色紙に書いてくださった言葉は『覚悟』。持ち前のハードワークで目指すのは頂点ただ一つです!

◆久保優(くぼ・すぐる)(※写真中央右)

1998(平10)年4月28日生まれ。178センチ。110キロ。福岡・筑紫高出身。スポーツ科学部4年。「優さんに怒られないようにルールを守る」と後輩達に評される、しっかり者で頼れる寮長の久保選手。昨年も赤黒の1番として対抗戦を経験し、今年はラストイヤー。『為せば成る』。その言葉の通り、この夏、特に力を入れたスクラムで、相手を圧倒します!

◆大﨑哲徳(おおさき・てつのり)(※写真左)

1999(平11)年4月26日生まれ。182センチ。98キロ。東京・国学院久我山高出身。文化構想学部3年。昨年の対抗戦では出場時間が短く悔しい思いをしたという大崎選手。今季目指すのは赤黒の5番、そして対抗戦全勝のみ。コンタクトプレーで最後まで体を当て続け、『一生懸命』早稲田のフォワード陣を引っ張ります!

◆宮武海人(みやたけ・かいと)(※写真中央左)

1999(平11)年12月21日生まれ。172センチ。96キロ。東京・早大学院高出身。政治経済学部3年。ラインアウトではスローという重要な役割を担う宮武選手。昨年はリザーブ登録だった宮武選手は「今年はスタメン出場したい」と、対抗戦に向けて準備は万端。今年は早稲田のフッカーに定着し、全ては『人のため』、対抗戦全勝を狙います!