シーズン終了後に行われた侍ジャパンの強化試合で“捕手不足”が露呈したように、今の球界では「打てる捕手」が消えつつある。■今季の規定打席到達者は小林のみ…かつての「打てる捕手」の成績は? シーズン終了後に行われた侍ジャパンの強化試合で“捕手不…

シーズン終了後に行われた侍ジャパンの強化試合で“捕手不足”が露呈したように、今の球界では「打てる捕手」が消えつつある。

■今季の規定打席到達者は小林のみ…かつての「打てる捕手」の成績は?

 シーズン終了後に行われた侍ジャパンの強化試合で“捕手不足”が露呈したように、今の球界では「打てる捕手」が消えつつある。今季、セ・リーグの捕手登録での最多本塁打は巨人・阿部慎之助の12本。だが、阿部は右肩痛のため、1軍に昇格したのは5月末だった。復帰戦でいきなり本塁打を放ったのは見事だったが、今季は一塁手として出場していた。続くのは阪神の原口文仁の11本。パでは10本塁打の西武・森友哉が最多。こちらも正捕手ではなかった。規定打席に到達したのは打率2割4厘の巨人・小林誠司だけだった。

 かつては、日本一になるチームには必ず正捕手がいた。しかし、投手分業制が進んだ現在では、捕手も投手によって起用されることが多くなったようにも見える。今年日本一に輝いた日本ハムも、大野奨太と市川友也の2選手が主に先発マスクをかぶり、セ優勝の広島も石原慶幸、會澤翼が起用された。

 打てる捕手の減少と重なり、その立ち位置も変わってきている。打率2割8分や本塁打20本をマークすれば、球界屈指の捕手としてその名は球史に残る。だが、2013年に阿部が32本塁打を放って以降、3年連続で20本塁打以上を記録した捕手は現れていない。今の時代なら打率2割5分、15本塁打を打ってくれれば御の字という雰囲気もある。

 90年代以降は多くの「打てる捕手」が存在した。

◯古田敦也(ヤクルト)

 入団2年目の1991年には打率3割4分で首位打者を獲得した。3年目の1992年には30本塁打を記録。野村克也監督の下で帝王学を学び、卓越したリードも身につけて球界最高の捕手と言われるほどになった。20本塁打以上は4度。ヤクルトでクリーンアップを担った。

■城島は5年連続20発、阿部は16年連続2桁本塁打

◯谷繁元信(横浜・中日)

 横浜時代の2001年、中日時代の2002年に20本塁打以上をマークするなど、勝負強い打撃で恐れられた捕手。1989年の1年目から引退した2015年まで通算3021試合に出場。最後は監督兼任選手として日本記録を樹立した。

◯城島健司(ダイエー/ソフトバンク・マリナーズ・阪神)

 強打と気迫あふれるプレーで本塁を守ってきた捕手。ホークス時代にはクリーンアップも打ち、31本塁打の2001年からメジャー移籍する2005年まで5年連続20発。マリナーズに移籍した2006年も2ケタ本塁打(18本)を記録するなど日米で「打てる捕手」として君臨した。阪神で日本復帰した2010年にも28発を放っている。

◯阿部慎之助(巨人)

 1年目の2001年から開幕スタメンに起用され、巨人の主軸への道をスタート。入団から今年まで16年連続で2桁本塁打を記録するなど4番打者としてチームを牽引。2010年には44本塁打。日本一になった2012年には首位打者と打点王を獲得。近年は一塁に転向し、勝負の時期を迎えている。

◯田上秀則(ソフトバンク)

 シーズン途中からレギュラーに定着した09年は、下位打線での起用だったが、26本塁打を記録した。ホークスの捕手で20本塁打をマークしたのは城島以来5年ぶりだった。この年はチーム最多でリーグ4位の本塁打数。ベストナインに選出された。

■里崎は勝負強い打撃が光る

○中村武司(中日・横浜・楽天)

 現役19年、3チームを渡り歩きながら、2005年にユニホームを脱いだ。通算打率は2割5分(.242)を下回ったため、打てる捕手といい難い部分はあるが、ドラゴンズ正捕手時代の1991年には20本塁打を記録。下位打線ながら意外性のある打撃でファンを魅了した。

 90年代以降で20本塁打以上を放った打者たち以外にも、バッティングを買われたり、守備面を考慮され、内野や外野にコンバートされて打撃を開花させた選手も多い。ダイエーの吉永幸一郎内野手や日本ハム、巨人、中日でプレーしや小笠原道大内野手、西武、中日でプレーした和田一浩外野手らも元々は捕手だった。また、ロッテで日本一、日本代表で第1回WBC優勝にも貢献した里崎智也捕手は20本塁打こそ記録していないが、6年連続2桁アーチや勝負強い打撃が光り、リードの評価も非常に高かった。

 本塁打数ではなく、打率に目を向けると、2003年にリーグ3位の打率.328を記録し、リーグ優勝に貢献した矢野輝弘捕手も高い打撃技術を持っていた。捕手が打撃とリードの両方を高いレベルで維持していくのは大変な作業と言える。

 今年のプロ野球を見ていると、西武の森、阪神の原口に「打てる捕手」としての期待がかかる。ドラフトでもソフトバンク3位の九鬼隆平(秀岳館)、広島4位の坂倉将吾(日大三)など打力の高い高卒ルーキーが入った。育成しながら、魅力のある「打てる捕手」の登場を待ちたい。