突如として「いつも通り」を奪われてしまった。新型コロナウイルスが猛威を振るい春季、秋季に行われる関東大学リーグ戦は断念。その他の大会も中止を余儀なくされた。だが秋季関東大学リーグ戦(秋季リーグ戦)の代替大会が開催されることが決定した。不測…

 突如として「いつも通り」を奪われてしまった。新型コロナウイルスが猛威を振るい春季、秋季に行われる関東大学リーグ戦は断念。その他の大会も中止を余儀なくされた。だが秋季関東大学リーグ戦(秋季リーグ戦)の代替大会が開催されることが決定した。不測の事態となった今年がラストイヤーとなる4年生は、数々の大会中止を受け、何を考え行動してきたのか。そして新チームになり初めて臨む公式戦にかける思いとはーー。そこで試合で中枢となる4年生の宮浦健人主将(スポ4=熊本・鎮西)、村山豪副将(スポ4=東京・駿台学園)、中村駿介選手(スポ4=大坂・大塚)そしてチームをサポートする松井泰二監督(平3人卒=千葉・八千代)と宇野耕平主務(スポ4=愛知・星城)、に話を伺った。

※この取材は9月30日、10月1日に行われたものです。

4年生の成長を実感(松井監督)


  新型コロナウイルスの感染拡大で関東大学リーグ戦をはじめとした、5つの大会が中止された。勝敗以前に勝負をする機会すら奪われてしまったのだ。だが厳しい状況が、自分自身と向き合えたり、人としてバレーボール以外の場面で成長できたりする機会を与えてくれたと松井監督は話す。その成長を一番感じられたのは4年生だった。

 不測の事態がおこったとき、動揺し自分の軸がぶれてしまうことは当然のこと。積み上げてきたものを発揮する場所を失った、やり場のない怒りや悲しさは計り知れない。しかし秋季リーグ戦の中止が発表されても、4年生はそのショックや悔しさを態度に出すことはなかった。辛い気持ちは残るものの試合ができないという判断を冷静に受け止め、全日本インカレを見据え動き出していた。それを見て松井監督は確信を持った。「あ、これはチャンピオンだな」――。 

  秋季リーグ戦の代替大会で注目するのはやはり4年生だ。最上級生になるとチームを勝たせなければならないというプレッシャーで、なかなか自分のパフォーマンスを発揮できないという。だが試合ができると信じてチームをけん引してきた4年生だからこそ、松井監督はこう期待を寄せる。「せっかくゲームができるのだから、勝敗は意識せず自分たちらしいプレーを、良さを出してほしい」。試合ができる喜びを感じてーー。早大の戦いはここから始まる。

背中でチームをけん引(宮浦)


 ダイナミックなサーブやスパイクで得点を量産し、1年生からその活躍が光っていた宮浦。4年生になってからは主将を任された。取材では「自分は背中でチームを引っ張っていく」と何度も口にした。言葉で仲間をけん引することは苦手であるものの、練習やトレーニングに高い意識を持って取り組むことで、仲間を鼓舞してきた。また全学年でのコミュニケーションや4年生どうしでのミーティングを増やし、戦う準備を万全にしていた。

 そんな矢先、新型コロナウイルスの感染拡大で次々と試合が中止された。開催の期待があった秋季関東大学リーグ戦(秋季リーグ戦)も断念。「このチームでもっと試合がしたかった」。ショックを隠し切れない表情を見せたものの、集大成となる全日本大学選手権(全日本インカレ)をしっかり見据えていた。「最後は組織力。組織が大きくなるためには一人一人がどれだけ考えて練習できるかだと思うので、自分がそういう姿を見せることで周りを巻き込みたいです」と話す。秋季リーグ戦の代替大会の開催が決まるも試合数は大幅に減った。そのため例年よりも1戦1戦が重要になってくる。主将としてチームのことを誰よりも考えてきた宮浦。「この仲間で試合がしたい」という強い思いをプレーで見せる。

今ここで自分たちの力を出し切る(村山)


  副将の村山は宮浦と同じく、1年生からレギュラーメンバーとして欠かせない存在であった。徹底されたリードブロック(※1)が武器でもある早大の中でもブロックの要を担っており、スピードのあるクイックは決定率が高く、さらに囮としての効果もある。4年生になって副将を任せられてからは余裕がなくなることもあったが、主将の宮浦と支え合いながらチーム作りに取り組んできた。

  自分たちで作り上げてきたチームで試合をしたいという思いは、無残にも新型コロナウイルスに断ち切られた。準備してきたことを発揮する場所をなくし、一度スイッチが切れてしまった。先を見通せない状況で頑張る意味を見失いかけていたが、決してその態度を周りに見せることはなかった。「これだけ準備してきたのにという気持ちはありましたが、そういう振る舞いをしていたら後輩たちも影響を受けてチームが落ち込んじゃうんじゃないかと思ったんですよね」。先が見通せない中であるが、それでも試合があると信じて練習に励んできた。リーグ戦ができないという悔しさは残るものの、代替大会で試合ができる喜びも感じている。「今ここで自分たちが持っている力をすべて出し切りたい。全日本インカレで悔いが残らないように」――。

(※1)リードブロック…相手のスパイクを見てするブロック

(記事 西山綾乃、写真 松谷果林氏)

試合ができるワクワクと不安(中村)


――関東大学リーグ戦をはじめ、5つの試合がなくなりました

 最後の年に試合ができずメンバーもそろっているので、試合をやりたかったし悔しい気持ちが一番大きかったです。

――秋季リーグ戦は開催される期待があった分ショックだったと思います

 東日本、春リーグがなくなるショックは大きかったのですが、秋はあると言われて準備していたのでなくなってショックでした。

――気持ちの切り替えはいかがでしたか

 その大会だけじゃないので。一年を通して成長していくのがチームの目標なので。すぐには切り替えられました。

――試合のない間、個人としてどこに力を入れて練習しましたか

 セッターなので、トスを練習していました。試合がないので自主練でトスだけに集中できたので、そこは良い練習になりました。

――試合を想定した練習をするときに、中村選手のトスに対して何人かで攻撃に入ると思います。しかし大人数で集まることが禁止されて、そのような練習が制限されてしまいました

 最初は全然合わなくて悩んだ時期はありました。3月で練習していたのに練習できない時期が続いて、再開したときもなんとなくからのスタートだったので大変でした。

――代替試合が決まって率直にどう思いましたか

 やっと試合ができるワクワクというか。久々の試合なので不安というのも一応あります。

――代替大会に向けての意気込みをお願いします

 今まで試合ができなかった分、楽しんで自分らしさを出せるように頑張ります!

少ない試合数でレベルアップ(宇野)


(写真中央右)

――秋季リーグ戦がなくなってからチームの雰囲気はどうでしたか

 代替大会があると思って大会に向けて頑張るしかないなという感じでした。

――代替試合が正式に決まってどう思いましたか

 とりあえず良かったなと。どんな形でも、インカレで初見の相手と当たるのと、見たことのあるチームでは全然違うので少しでも情報もあった方がいいなと思います。自分たちの力もよくわからないので、そういう意味でもよかったと思います。

――主務として頑張っているポイントを教えてください

 慣れていないので仕事に追われています(笑)試合が止まらないように頑張っていきたいと思います。みんなに迷惑が掛からないように。

――最後に、代替試合への意気込みを教えてください

 試合数が少ないので一戦一戦良くなるように、上がっていきたいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 西山綾乃、手代木慶)

◆松井泰二(まつい・たいじ)監督

千葉・八千代出身。監督。2012年にコーチとして早大に赴任。2014年からに監督に就任し、チームを全日本大学選手権3連覇に導いた名監督。

◆宮浦健人(みやうら・けんと)

1999(平11)年2月22日生まれ。190センチ。最高到達点338センチ。熊本・鎮西出身。スポーツ科学部4年。ライト。

◆村山豪(むらやま・ごう)

1998(平10)年7月30日生まれ。191センチ。最高到達点330センチ。東京・駿台学園出身。スポーツ科学部4年。センター。

◆中村駿介(なかむら・しゅんすけ)

1999(平11)年3月7日生まれ。186センチ。最高到達点327センチ。大阪・大塚出身。スポーツ科学部4年。セッター。

◆宇野耕平(うの・こうへい)

1997(平9)年7月6日生まれ。183センチ。最高到達点320センチ。愛知・星城出身。スポーツ科学部4年。主務。