風と雨に打たれ、初日は気温が8度、11月中旬のような気候で史上最初で最後となる秋開催のローラン・ギャロスが開幕しました。ボールは弾まない、体も暖まらない、そしてファンがいません。【トーナメント…

風と雨に打たれ、初日は気温が8度、11月中旬のような気候で史上最初で最後となる秋開催のローラン・ギャロスが開幕しました。ボールは弾まない、体も暖まらない、そしてファンがいません。【トーナメント表】全仏OP男子シングルス【実際の写真】WOWOW中継のリハ中のダバディさん【実際の写真】大型スクリーンが付いた、新しいファンゾーン【実際の写真】シャトリエとランランを結ぶ全仏会場の大通り

過激な環境の中でやはり波乱が多く、メドベージェフはいきなりナイトマッチの洗礼を受けました。一方、ファンが少ない中、グランドスラム大会特有の重圧から解放される選手たちも大勢います。男女問わずクレーの専門家たちは活躍していますが、とりわけ東ヨーロッパの赤土に慣れている選手たちはそうです。レッド・クレーの種類は主に二つのタイプに分かれています。南ヨーロッパ(スペイン、イタリアなど)はみかん色の硬いクレー。東ヨーロッパ(チェコ、ドイツ、ポーランド、ルーマニアなど)は干し柿色の重いクレーです。たとえばメドベージェフを破ったハンガリ出身のフチョビッチも典型的な東ヨーロッパ赤土スペシャリストです。また、多くの選手たちはパンデミックの中、渡米を断念し、赤土に照準を合わせました。その準備が出来ていない選手たちはことごとく負けてしまう出だしの数日間でした

コートの外では、開幕直前にフランス政府が怒鳴りました。1日5000人という開催側の希望観客動員数に仏首相が反対し、今年は合計15000人しか大会観戦ができないのです。

フランスのスポーツ新聞レキップは皮肉で「毎日パリのラッシュアワーの満員電車の方が、5000人しかいない広い全仏会場より危険ですよ」と風刺したけれど、仕方ありません。

日々の入場者は1000人となりましたが、抽選で一般チケットは600人、スポンサー招待客350人、フランステニス連盟のVIPは50人(地方協会会長、政治家、往年の名選手、その他の著名人など)。会場を歩いても、ATP250どころか、場合によってチャレンジャー大会のような雰囲気です。昨夜の錦織戦、関係者を入れてもせいぜい30人の観客でしょうか。

しかし、寂しい面もあれば、今年は素晴らしい発見もあります。今年から付いたセンター・コートの可動式屋根は美しいです。ピカピカのプレスセンターもスペース・シャトルの中にいるかのよう、デザインに圧倒されます。40年間の歴史を誇っていたコート1が消えましたが、その代わりに生まれた大型スクリーン付きのファン・ゾーンのポテンシャルを感じられました。2024年のパリ五輪までに、スザンヌ・ランランコートも屋根がつき、思い切ったナイトセッション(今年は夜まで試合が続くのですが、ナイトセッション・チケットは存在しません)も開催されます。

全仏オープンテニスは明らかに進化しています。

日本勢と地元フランス勢の苦戦が続く中、若きガストン、勇ましい日比野、シンデレラもいます。彼らの夢はどこまで続くのでしょうか。

何があっても動じないのはナダル、ジョコビッチ、ハレプ。現地新聞で本命と言われたこの3人は次元が違います。彼らの試合を見て心技体、全てが整っているように映ります。

負ける日は想像できません。テレビ・ゲームRPGの「ボス」のような存在で、何人かの選手が力を合わせて倒さないと無理です。

週末のベスト16にティーム対ワウリンカ、ディミトロフ対シャポバロフという激突が見られるかもしれません。女子では久々に勝ち上がったブシャール、ガルシア、クレーに強いサカーリとトレビザンのようなダーク・ホースも注目です。

残りおよそ10日間、大会最終日まで曇り、時々雨の予報です。今週半ばやや暖かくなったけれど、来週はまたも冷えます。

私は日々、会場の中を歩き回り、日本のテニス愛好家たちを喜ばせるためのネタ・ハンティングをしています。プロデューサーと話し合い、青信号になったら取材をします。ストリンガー、新公式球、会場のあれこれ、新聞の記事を読み、関係者に聞き、面白いシナリオを書きます。

今年は異例のローラン・ギャロスです。いつも美しく会場から見えるパリの象徴であるあのエッフェル塔も雲の中に頭を隠し、冬眠を早めに始めたようです。

だからこそ全仏の歴史に残る大会になる、私はそう確信しています。典型的なクレーの試合展開が多く、現代パワー・テニスで通せないだけに、守備とメンタルが目立ちます。良い意味で、少しレトロな大会でしょうか。テニスの歴史、テニス文化が大好きな私にとって、子供時代の記憶とワクワク感が蘇る波乱のローラン・ギャロスになるのでしょうか。

また、来週に会いましょう!

(フローラン・ダバディ)

※写真は「全仏オープン」会場の様子

(Photo by Florent Dabadie)