>「パスタのパフォーマンスは高かったね(笑)。タフな旅だったけど、イタリアの美味しいものも楽しんだし、そんなに悪い旅というほどではなかったよ」 マックス・フェルスタッペンは、モンツァとムジェロの2戦連続リタイアをそう笑い飛ばした。レッドブル…

「パスタのパフォーマンスは高かったね(笑)。タフな旅だったけど、イタリアの美味しいものも楽しんだし、そんなに悪い旅というほどではなかったよ」

 マックス・フェルスタッペンは、モンツァとムジェロの2戦連続リタイアをそう笑い飛ばした。



レッドブル・ホンダが今季初のフライアウェー戦に挑む

 ホンダのパワーユニットに異常が発生し、ECUがハードウェアの破損を防ぐために出力を落とすモードに入ったことで、2戦ともにリタイアを余儀なくされた。

 それぞれ原因は異なるものだったが、スタートしてわずか数秒で起きたムジェロの問題は、ホンダとしてもかなり想定外のものだったという。

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは次のように説明する。

「初めてです。我々のF1プロジェクトの過去5年間において起きたことのないものです。いろいろなことが複雑に絡んでトラブルが発生し、我々の想定を大きく外れていました。非常に複雑怪奇で、説明されてもなぜこうなるのか簡単にはわからない、という事象です」

 複雑怪奇な事象はフェルスタッペン車にだけ発生したが、これはあくまで偶然であり、フェルスタッペンのドライビングに起因したものではないという。

 イタリアGP予選を5位で終えた時点ですでに「タイトル争いをしていると思ったことはないし、いずれにしてもランキング3位に終わることになるんだ」と放言していたフェルスタッペンだったが、それでも2戦連続のリタイアで獲れるはずのポイントを失い、ルイス・ハミルトンに対して大きくポイント差をつけられたショックは大きい。

 モンツァでもムジェロでも、フェルスタッペンの激しい無線交信は注目を浴びて、レッドブルとホンダの関係悪化を噂する報道まで飛び出した。

「ムジェロでは走り始めからマシンは非常に速かったし、マシンバランスの点でも大きな進歩を果たすことができた。ムジェロではメルセデスAMGと戦えたはず。マックスはスタート加速でルイスを抜いていたし、あそこから勝負が始まるはずだった。だからこそトラブルは彼にとって苛立たしかっただろう。(激しい発言は)アドレナリンが湧き出ているなかでの無線交信だからね」

 レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表はフェルスタッペンの発言を擁護した。

 もちろん、ホンダがトラブルを起こしたことは揺るぎない事実であり、フェルスタッペンの厳しい言葉はパワーユニットそのものやホンダに向けてのものではなく、トラブルを出したことに対するフラストレーションであることも十分に理解している。

「大変申し訳ないと思うし、あの状況でああいうことが起きれば、ドライバーにああいうふうに言われるのは当然やむなしだと捉えています。(トラブルを出した以上)何を言われてもしょうがないです」

 何度も繰り返される放送禁止用語を、田辺テクニカルディレクターはそんな思いで聞いていた。

 しかし、レッドブルとホンダはトラブルの究明に一致団結していたという。

「レッドブルの技術陣からは『すべてにおいて協力するから何でも言ってくれ』と言ってもらいました。何が起きた、何をしている、進捗はこうだ、ということをホンダから伝えていますし、レース直後の月曜日からともに解決しようという姿勢です。『お前ら何やってるんだ』という非難は一切受けませんでした」

 HRD Sakuraでは徹底的な分析が行なわれ、複雑に絡み合ったひとつひとつの要素すべてに対して対策を施し、問題の再発がないよう徹底したデータを持ち込んできた。安全予防策として車体側に依頼した変更もあったという。

 ある意味では、雨降って地固まるとでもいうべく、このトラブルを乗り越えることでホンダとレッドブルの絆はさらに強まったのかもしれない。少なくとも、レッドブルが以前ルノーとの間で抱えていたような険悪な雰囲気とはまったくの無縁だ。

 F1はシーズン開幕から11週間で9戦、3度の3連戦を経て、今季初のフライアウェー戦となるロシアにやって来た。第10戦ロシアGPはストレートが長く、レッドブルにとっては過去にいい経験がほとんどないサーキットだ。

 問題は、ストレートの長さもさることながら、コーナーが90度コーナーばかりという点だろう。レッドブルの得意なコーナリング性能でタイムを稼ぐことのできる幅が小さくなるからだ。

 フェルスタッペンは中団グループと僅差の争いになることを危惧する。

「僕らは過去ここでパフォーマンス的にすばらしい週末を経験できていない。だから今週末も奇跡は期待していない。長いストレートがたくさんあるし、90度コーナーも多いからだ。

 コーナーが短いから、そこで大きな差をつけることができない。だから、ムジェロのようなサーキットに比べると中団グループとの差もあまり開かないだろう。もちろん、目標は表彰台に上がることだよ」

 ソチ・アウトドロームでは、2014年の初開催からメルセデスAMGが6年連続で勝利を収めている。とはいえ、昨年はポールポジションを獲得したフェラーリがセーフティカーの不運に見舞われるまで勝利確実の展開だった。

 また、全開率が67%に達するなど、パワーがものを言うサーキットでもある。しかし、つけ入る隙がまったくないわけではないと、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は一縷の望みを持つ。

「ソチはメルセデスAMGに合ったサーキットだ。彼らがより一層の速さを見せるだろう。しかし、今年はこれまでのレースがそうであったように、タイヤのデグラデーション(性能低下)が興味深い要素になるかもしれない。

 彼らはムジェロでも縁石を避けて走るように指示を出していたし、タイヤに対してかなり神経質になっているのがわかる。だから我々がコンペティティブな走りをできれば、彼らに少しばかりのプレッシャーをかけることができるだろう。そういう時にこそ、何かが起きるんだ」

 金曜フリー走行では、やはりメルセデスAMGの圧倒的な速さを見せた。一方でレッドブル勢は、レスダウンフォースの空力パッケージをトライしたフェルスタッペンが大苦戦を強いられて7位。中団グループにも飲み込まれ、予選でトップ3に入ることも難しいのではないかという状況に直面した。

 ここから予選・決勝に向けてどのように戦っていくのか。苦境に直面した時こそ、レッドブル・ホンダの力が問われることになる。