ジェニファー・ブレイディ(アメリカ)との緊迫感いっぱいの準決勝を制した大坂なおみが、2年ぶりの決勝に駒を進めた。どの打ち合いも素晴らしかった。ブレイディの攻撃の力強さ、ラリーで大坂に打ち負けな…

ジェニファー・ブレイディ(アメリカ)との緊迫感いっぱいの準決勝を制した大坂なおみが、2年ぶりの決勝に駒を進めた。どの打ち合いも素晴らしかった。ブレイディの攻撃の力強さ、ラリーで大坂に打ち負けない反発力には恐れ入った。そのサーブ、特にデュースコートでのワイドとセンターへの打ち分けは完璧で、大坂はリターンに苦しんだ。【動画】優勝まであと一つ!大坂なおみvsブレイディ/全米OP女子準決勝【動画】2019年全豪オープンを制覇した大坂なおみvsクビトバ

「オーストラリアでの(ペトラ・)クビトバとの試合(昨年の決勝)を思い出した」と大坂が振り返る。ブレイディとのラリーは、四大大会のタイトルを持つクビトバとのあのタイトな打ち合い、死闘に匹敵するものだったというのだ。

「彼女のレベルがまったく落ちませんでした。全豪との違いは、ジェニーが終始安定していたことです。ほぼチャンスはないとさえ思いました」

それくらい苦しい戦いだった。どちらに転んでもおかしくない試合で、勝因のひとつになったのが大坂のアンフォーストエラーの少なさだった。第1セットから順に4、5、8本の計17本。タイブレークにもつれた第1セットの4本は特筆すべき数字だ。

今大会はエラーの少なさが際立っている。カミラ・ジョルジ(イタリア)との2回戦では11本、シェルビー・ロジャーズ(アメリカ)との準々決勝ではわずか8本だった。安定したプレーの要因のひとつは、メンタルの安定だ。

以前はランキング下位の選手と対戦すると「勝たなくてはいけない」と意識しすぎて、自分のミスにいらだった。だが、今の大坂は「彼女たちも一生懸命やっているのだから、自分も相手をリスペクトして、倒すことに全力を尽くす」と決め、ミスの連鎖が影を潜めた。ロジャーズとの準々決勝でも、相手がウィナーを決めると拍手の身振りで称えるなど常に冷静で、「ずっとポジティブな態度でいられた」と振り返った。

ミスの少なさと並んで今大会の大坂を特徴づけるのは動きの速さ、スムーズさだ。前哨戦で左太もも裏を痛め、1回戦はこわごわ動く様子も見られたが、4回戦以降の動きはまさにトップアスリートそのものだ。オープンコートができたと思った瞬間、大坂はすでにカバーに走っている。左右に振られてからの方向転換、相手の厳しいショットを切り返すカウンター、フォアハンドのランニングショットと、疾風のような動きがフラッシュバックされる。

フィジカルの向上はミスの少なさにも関係している。上体のパワーに頼らず、全身の力を使い、リラックスしてラケットを振るから、スイングスピードが上がり、ショットの精度が保たれる。また、スピードや敏捷性など体の機能をうまく生かして走り、止まり、ヒットするからショットが常に安定する。

こうした身体機能の向上には、新任の中村豊トレーナーと行うトレーニングが効果を上げていると見られる。中村トレーナーはマリア・シャラポワ(ロシア)の全仏初優勝に貢献、IMGアカデミーではジュニア時代の錦織圭など多くのアスリートのフィジカルトレーニングを指導してきた。その中村氏はWOWOWのインタビューで大坂とのトレーニングのテーマについて話している。

「動かされた時に体の軸がぶれない状態でボールを打つことができるか。オフェンスでもディフェンスでも、崩れそうになっても崩れない。全身で体を動かせるように求めています」

トレーニングの効果は明らかだ。ウィム・フィセッテコーチも「彼はテニスをよく理解していて、何が(大坂に)に必要なのかよく分かっている。我々は本当にうまくいっていて、なおみも熱心に取り組んでくれている」と中村氏の指導に太鼓判を押す。

メンタル、フィジカルに加え、好調さを支える要因がもう一つ。テクニック、すなわち、フォアハンドの鋭利なクロスという新しい武器だ。

深いクロス、角度をつけたアングルショットはこのクラスの選手ならだれもが身につけている。だが、サービスラインとサイドラインの交点をかすめていく鋭利なクロスは、限られた選手だけのもの。これが大坂の新しいウィニングショットになった。

「フォアハンドの強打、それも、突き刺すような鋭角のショットを打っているのが強みになっている」。土橋登志久フェド杯日本代表監督の証言だ。高い打点から放たれる、回転量の多くないフラット系のスピードボール。しかも大坂は、右サイドのコーナー付近からこれを打つだけでなく、センターマーク付近から同じターゲットに正確にプレースメントする。これは男子のトップが使う、最先端のストロークだ。

「前回、全米で優勝したときの私は赤ちゃんだった」と話した大坂。あれから2年、新しいコーチとフィットネスコーチを得て、メンタル、フィジカルそしてテクニックがさらに向上した。その3つの車輪が今大会、爆発的な推進力を生んでいる。

あとひとつ。2年ぶりのタイトルに向け、視界は良好だ。

(秋山英宏)

※写真は「全米オープン」での大坂なおみ

(Photo by Matthew Stockman/Getty Images)