> モンツァで沸いたピエール・ガスリーとアルファタウリ・ホンダの鮮烈な優勝劇から3日。F1サーカスは約250kmの距離を南下し、フィレンツェ近郊のムジェロ(第9戦トスカーナGP)へとやって来た。 MotoGPではよく知られたサーキットだが、…
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モンツァで沸いたピエール・ガスリーとアルファタウリ・ホンダの鮮烈な優勝劇から3日。F1サーカスは約250kmの距離を南下し、フィレンツェ近郊のムジェロ(第9戦トスカーナGP)へとやって来た。
MotoGPではよく知られたサーキットだが、F1は初めての開催。マラネロにほど近いことから、フェラーリがプライベートイベントを行なったり、過去にはF1の公式テストが行なわれていたこともある。
中高速コーナーが続くトスカーナGPのムジェロ
だが、今のF1マシンでの走行データは、どのチームも持っていない。レッドブルにとっては、2012年に行なわれたインシーズンテストで走行したのが最後となる。
前戦イタリアGPでは予選で5位・9位と苦戦を強いられ、決勝ではリタイアと15位と、開幕戦以来のノーポイントに終わった。しかし、その惨状がこのムジェロで繰り返されることはないだろうと、マックス・フェルスタッペンは語る。
「モンツァよりひどくなることはないだろうね。あれ以下はないから、よくなることは間違いない。いいポジションに行けることを願っているよ。とは言っても、メルセデスAMG勢の後ろだけどね。
新しいサーキットだから、まずはどれだけうまくセットアップできるか見てみる必要がある。いくつか変更も加えなければならないけど、とても自信を持っているよ」
メインストレートは1.1kmと長く、鈴鹿のように中高速コーナーが連続し、1速や2速で走るコーナーは存在しない。そのため、全開率はモンツァレベルに高くなるという。
ただし、その全開率は「どれだけスロットルを踏めるか」によって大きく変わってくる。
つまり、マシンバランスが安定していればドライバーが自信を持って攻めて「スロットルを踏む」時間が長くなるし、そうでなければ自ずと全開率は下がる。
「全開率はモンツァくらい高いかな。詳しい数字は走ってみないとわかりませんが、とにかく高い。高低差もありますし。マシンバランスがよければ踏めるし、そうでないと全開率も下がる」
ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはそう語る。
モンツァでのレッドブル・ホンダはレース週末を通してマシン挙動に苦しみ、これに対処するためにセットアップ面で妥協を強いられ、予選でも決勝でも苦労することとなった。
マシンのセッティングがうまく決まらなければ、想定ほどの全開率にならなくなり、MGU-K(ブレーキ)やMGU-H(ターボ)からの発電量も変わってくる。そうなれば、1周のなかでどうバッテリーを使うのが最適かというエネルギーマネジメントも変わってくる。
※MGU-K=Motor Generator Unit-Kineticの略。運動エネルギーを回生する装置。
※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。
「走ったことのないサーキットですので、各チームと共同でシミュレーションをして、コース特性やそれに合わせたパワーユニットの使い方とエネルギーマネジメントをセッティングしていきます。金曜と土曜の午前中に走って煮詰めると同時に、前回から導入された予選・決勝同一モードの準備を進めていくことになります」
すべてのチームやドライバーは事前にシミュレーターでセッティングを煮詰め、サーキットを習熟したうえでこの週末に臨んでいる。ムジェロのコースをF1テスト走行や下位カテゴリーのレースで経験しているドライバーは少ない。フェルスタッペンも本格走行は経験がなく、数週間前にサーキットを貸し切ってGTマシンでコース習熟を行なった。
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中高速コーナーが連続するムジェロは、どのサーキットにも似ていないという。ドライバーにかかる負担も、マシンとタイヤにかかる負担も大きくなりそうだ。
「高速コーナーが多く、なおかつ路面温度が高いから、間違いなくタイヤに厳しいサーキットだね。そして今回は実走データや経験がないなかで、いかにうまく準備を整えるかという勝負でもある。チームにとっても、ドライバーにとっても、実力が試されることになるだろう。
エンジニアはシミュレーターでかなり準備をしてきているけど、実際に走ってみてファインチューニングは必要だ。いつものレース週末よりも金曜日の重要性が高くなることは間違いない」
車体の空力性能も、パワーユニット性能も、そしてタイヤをうまく使うマネジメントも、高いレベルで要求されるサーキットだというわけだ。
モンツァでホンダは、フェルスタッペンのパワーユニットにトラブルが発生してリタイアを余儀なくされた。これはオーバーヒートによるイレギュラーな問題によって、パワーユニットを守るために出力が抑えられた状態になったことが確認されている。
それも、走行中の冷却風不足ではなく、赤旗中断時のオペレーションに原因があったようだ。停止時にはすぐに冷却風を送り込むブロワーをマシンに装着するのだが、冷却が十分でなかったのか、赤旗中に行なった約3分間の暖機運転の際、慌ててドライアイスをブロワーに放り込む場面もあった。
「レース後に解析した結果、エンジン自体には基本的に問題がないので継続使用します。高温コンディションが影響していたと思われますが、今週末もかなり暑くなりますので、クーリングのセッティングなどを考慮してしっかりと備えていきたい」
モンツァでレッドブル・ホンダが惨敗に終わった一方、アルファタウリ・ホンダは勝利を掴んだ。アルファタウリ担当のメンバーはささやかな祝勝会を行ない、彼らとは隔離された状態で生活しているレッドブル側の田辺テクニカルディレクターは、オンライン飲み会の場で祝いの言葉を贈ったという。
次はレッドブル側が、ささやかではない祝勝会を行ないたいところだ。
17戦で行なわれる2020年シーズンも、この第9戦で折り返し地点を迎える。大幅な性能向上につながる開発が難しい情勢ではあるが、タイトル争いを本気で考えるならば、ここがレッドブル・ホンダの正念場となる。