> ピエール・ガスリーの劇的な優勝の裏で、レッドブル・ホンダはこれまでにない惨敗を喫した。 マックス・フェルスタッペンがリタイア、アレクサンダー・アルボンがペナルティと車体ダメージで15位。ただその惨敗は、まったくの無得点に終わったというだ…

 ピエール・ガスリーの劇的な優勝の裏で、レッドブル・ホンダはこれまでにない惨敗を喫した。

 マックス・フェルスタッペンがリタイア、アレクサンダー・アルボンがペナルティと車体ダメージで15位。ただその惨敗は、まったくの無得点に終わったというだけではない。レース週末全体の内容こそが、大きな落胆をもたらすものだった。



イタリアGPで惨敗を喫したレッドブル・ホンダ

 いつも「3位が指定席」と自嘲的に言っている予選でさえ、マクラーレンとレーシングポイントに飲み込まれて、5位に入るのが精一杯だった。超高速のパワーサーキットであるモンツァだけに、この結果だけを見ればパワー不足が原因だと思ってしまう。

 しかし、マシンパッケージとしてRB16が抱える問題は、それ以上に深刻だった。

「トップスピードを比較して、僕らがメルセデスAMGにパワーで負けていることは確かだ。でも、今の彼らとのタイム差を生み出しているのはそこじゃない。パワーの差によるタイム差はそこまで大きくない。これは僕ら側の問題だ」

 フェルスタッペンは予選後のブリーフィングを終えてそう語った。

 金曜フリー走行で突然リアが流れてスピンしてクラッシュを喫したように、モンツァでのRB16はとにかく挙動がナーバスだった。まさにシーズン序盤に苦しんでいたころのように。

 超高速サーキットゆえに、なるべくドラッグ(空気抵抗)は削りたい。しかしダウンフォースが減ると、ナーバスな挙動が顔を見せる。

「僕らはあらゆることを試した。ウイングレベルも、ものすごくローダウンフォースからミディアムロー、さらには少しだけロー。でも、どれをやってもラップタイムは同じになる。しかも、ダウンフォースを削ると好ましいマシンフィーリングにならないし、全体的にバランスが悪く、グリップ不足なんだ」

 マシンバランスが悪くてグリップ不足。だから、ダウンフォースをつける方向にセットアップをせざるを得なかった。

「僕らのクルマはローダウンフォースパッケージにすると、リアがセンシティブになって他チームよりも苦しむことになるようだ。とにかく(通常パッケージで)本来あるはずのグリップがない。パワーで負けているからだというのは簡単だけど、それは言い訳にならない。やらなければならないことが山積みだ」

 ダウンフォースをつける方向にセットアップすると、ただでさえ出力で後れを取っているのに、空気抵抗も大きくなってストレートでの競争力はさらに後れを取る。

 予選では前走車のスリップストリームを使ってなんとかストレートの不利をカバーした。だが、そんなことをしなくても速いメルセデスAMGとの間には0.908秒もの差が開き、マクラーレンのカルロス・サインツにも0.1秒の差をつけられた。

 同じく高速のスパ・フランコルシャンではこの問題を解決できたと思っていただけに、モンツァでの苦戦には予想外の落胆を味わうことになった。

「ローダウンフォースパッケージではクルマのセッティングがいまいち決まらず、ショートランでの軽い燃料でソフトタイヤを履いた時のパフォーマンスも今ひとつでした」(ホンダ・田辺豊治テクニカルディレクター)

 このレースから「予選・決勝を同一モードで走る」というパワーユニット規則が導入されることとなった。だが、これでメルセデスAMGの"パーティモード"と呼ばれる予選スペシャルを封印できたものの、勢力図を劇的に変える要因とはならなかった。

 予選ほどマシンのピーキーさが問題にならない決勝では3位表彰台への挽回は可能だと、フェルスタッペンは自信を見せていた。しかしスタートで出遅れ、レース前半20周は集団の中に埋もれて7位のまま走行を続けることになる。

「スタートがよくなくて、クラッチをミートした瞬間からすごくホイールスピンしてしまった。なぜかわからないけど、エンジンがすごくオーバーヒートしていたからだと思う。その後はDRS(※)トレインにスタックして、誰も抜くことができなかった」

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 モンツァのようなサーキットでは、各マシンが前走車のスリップストリームとDRSを使いながら走る。すると、バトルをしようと思っても、実質的にスリップストリームやDRSによるプラスアルファがないのと同じ状態になり、誰もオーバーテイクができない膠着状態になってしまうのだ。

 セーフティカーが入ってレースが再開したところから、フェルスタッペンのパワーユニットはストレートの後半で加速が鈍るような状態になった。いくつかのセッティング変更を試みたものの、問題は解決できず。ストレート後半で次々に抜かれ、最後はピットにマシンを戻してリタイアを余儀なくされた。

「レースが再開したあとはエンジンに問題があって(通常どおりに)加速しなかった。なんとか問題を解決しようとしたんだけど、リタイアするしかなかった」

 問題を抱えて解決できないパワーユニットに、フェルスタッペンはフラストレーションの言葉をぶつけた。だが、それは当然のことだ。その言葉を最も重く真正面から受け止めているのは、ホンダの技術者たちだろう。

 予選9位のアレクサンダー・アルボンもスタート直後の不用意な接触でリアタイヤ前方のフロアにダメージを負い、クリスチャン・ホーナー代表によれば「フロアのダメージが大きく1周1秒ほど失っていた」という。フェルスタッペンと同じくDRSトレインの中から抜け出せず、接触に対する5秒ペナルティも科されて、入賞すらならなかった。

 同じパワーユニットを積むアルファタウリは、セーフティカーとピットエントリークローズ、ルイス・ハミルトンのペナルティという幸運に恵まれたとはいえ、金曜からレッドブルを上回る好走を見せていた。逃げ切って勝利しているだけに、レッドブルの車体が抱える問題点がより克明に浮き彫りになったと言える。

「モンツァというのはすごく特殊なサーキットだから、普通のサーキットに戻ればまた3位に戻れると思うけど......それだって十分な結果とは言えないからね」



エンジントラブルでリタイアに終わったフェルスタッペン

 毎戦優勝のハミルトンに対して2位か3位のフェルスタッペンは「毎戦7点か10点ずつ失っていっている」とこぼしていたが、ハミルトンが自滅したおかげでこのレースでも開いた点差は7点で済んだ。しかし、ドライバーズチャンピオンシップ争いではこのリタイアでランキング3位に落ちた。

 RB16というマシンパッケージは徐々に改善を見せているとはいえ、根本的な解決もまだなら、大幅な性能向上も果たせていない。

 シーズンは折り返し地点を迎える。本当に頂点を目指すなら、ここが正念場だ。