日本の卓球シーンに待ちに待った瞬間が戻ってくる。国内のトップ選手たちが出場するTリーグ「2020 JAPANオールスタードリームマッチ」(以下、ドリームマッチ)が9月14日に開催され、一夜限りの熱戦を繰り広げるのだ。

リモートマッチ(無観客試合)のため、本来の試合の熱気には及ばないかもしれないが、日本代表クラスが顔をそろえる国内大会は今年1月、大阪市で開かれた全日本選手権以来、実に8カ月ぶり。今大会は公式戦ではないものの、来年に延期された世界卓球2020韓国・団体戦(2021年2月28日~3月7日/釜山)の日本代表選抜とTリーグ代表選抜が火花を散らすシングルス1ゲームマッチや、史上まれに見る日本代表 男子vs女子の勝ち残りチームマッチなど、ファン垂涎の一大イベントが実現する。

日本代表選抜 左上から水谷隼、石川佳純、張本智和、長﨑美柚 左下から宇田幸矢、丹羽孝希、早田ひな、森薗政崇

開催にあたっては中継の映像制作費と会場設営費の一部をまかなう名目で、Tリーグ初のクラウドファンディングが実施された。その結果、7月14日から8月30日までに支援者815人から1,087万5,300円にのぼる支援金を集め、当初の目標金額300万円を大きく上回った。目標達成率は362%の盛況ぶりだ。

これはトップ選手の試合を見たいと熱望する卓球ファンの思いのあらわれにほかならない。そんな卓球愛あふれるファンの底力と、コロナ禍という難しい時期にTリーグが日本卓球協会と一体となって大会開催を決めたことは英断と言えるだろう。この日本の卓球史に残る出来事を大会前にぜひ振り返っておきたい。



コロナ禍で迫られた難しい判断

大会をやるべきか、やらざるべきか。その判断は難しかった。

7月8日に電撃退任を発表したTリーグ元チェアマンの松下浩二氏が、初めてドリームマッチ構想を公にしたのは5月26日のことだった。聞けば、あくまでもアイデアベースで「4月中旬くらいに話が上がっていた」と松下氏は振り返る。

4月中旬といえば、新型コロナウィルス感染症の拡大にともない、日本政府が7日に緊急事態宣言を発令した直後だ。Tリーグではさらに、3月から延期していたセカンドシーズン(2019-2020シーズン)のプレーオフファイナル中止を4月28日に発表しており、財政面での難局が予想されていた。また、Tリーガーたちの活躍の場をなんとか創出したいという思いもあり浮上したのがドリームマッチ構想だった。

コロナ禍という非常事態で、Tリーグは日本卓球協会の協力を得て検討を進めることとなったが、緊急事態宣言下の日本は自粛ムードに沈み、競技大会を開けないどころか、開くとも言えない雰囲気。しかし、5月中旬頃になると国内の感染者数が減少に向かい、東京都の一日の新規感染者数は30人前後に落ち着いた。

ドリームマッチ開催に向け一気に舵を切ったのはこのタイミングだ。すると、政府の緊急事態宣言も25日に解除が告げられた。

批判を受け止め進めた開催準備

 海外に目を転じると、卓球強豪国のドイツをはじめとする欧州諸国でも、5月下旬から6月上旬にかけてリモートマッチが行われ始めていた。

 とはいえ、リスクに対する考え方は日本と欧州とでは違う。新型コロナウィルスの感染拡大が収束しない中で大会を開くというのは、「あまりにも拙速すぎやしないか、焦りすぎじゃないかというご批判の言葉を外部からも内部からもいただきました」と日本卓球協会常務理事の宮﨑義仁強化本部長が明かすように、時期尚早との声が噴出した。

宮﨑氏は松下氏のチェアマン退任後、Tリーグの理事長補佐に就任し、同リーグ理事長に就任した星野一朗氏(日本卓球協会専務理事)とともにドリームマッチ構想をけん引してきた。

7月14日に臨んだリモート会見では、コロナ禍で元気なプレーを見せることが叶わない選手たちの現状や相次ぐ国内外の大会の延期や中止などに触れ、「(ドリームマッチは)卓球界というよりも、スポーツ界全体に対して意義あることだと思う。東京五輪をはじめとして国際大会がまったく開催されない状況で、上部団体(IOC=国際オリンピック委員会やIF=国際競技連盟)に開催してもらうまで待つのか」と問いかけ、次のように語った。

「コロナ禍があと何カ月、何年続くかわかりませんが、私たちは一流選手のプレーを皆さまに見ていただく機会を作る。感染防止対策をしっかりとしながらイベントができる環境を作る。コロナ禍が長期化しても、『卓球はほとんど毎月イベントをやっているよね』と言われるような、そういう団体であることを目指す方向性です」

Tリーグ選抜 左上から木原美悠、神巧也、森さくら、田添響 左下から戸上隼輔、加藤美優、及川瑞基、出澤杏佳

コロナ時代のスポーツ大会のモデルケースに

 その筆頭がドリームマッチであると宮﨑氏。この宣言後、Tリーグはサードシーズン(2020-2021シーズン)をリモートマッチで11月17日に開幕すると発表し、中断している国際大会も国際卓球連盟(ITTF)が男女ワールドカップとグランドファイナルの3大会を中国で年内に開くと発表した。

 正直なところドリームマッチの準備期間は少なく、7月の正式発表時点で決まっていたのは森薗政崇(BOBSON)の出場のみだった。開催日時も会場も試合形式も確定しておらず、クラウドファンディングの目標金額300万円にしても、卓球の人気を鑑みればだいぶ控え目な設定に映った。

しかし、リーグ側にしてみれば、それだけリスクが高く、開催に踏み切るのにどれだけ勇気が必要だったかが見て取れた。

 一方、選手たちは、もともとTリーグに参戦していない伊藤美誠(スターツ)と佐藤瞳(ミキハウス)が世界卓球2020韓国の代表ながら出場オファーを断り、平野美宇(日本生命)も腰痛のため出場を取り消したが、石川佳純(全農)、早田ひな(日本生命)、平野の代わりに長﨑美柚(JOCエリートアカデミー/大原学園)といった面々が女子の日本代表選抜として出場。男子は張本智和(木下グループ)、丹羽孝希(スヴェンソン)、水谷隼(木下グループ)、森薗政崇、宇田幸矢(明治大学)ら、やはり豪華な顔ぶれが日本代表選抜に名を連ねている。また、Tリーグ選抜も男女各4人が揃った。

 今回採用された試合形式上、プレーする側も見る側もゲーム数という点では物足りなさもあるだろう。だが、このドリームマッチはコロナ禍という難局におけるスポーツ大会のあり方を示し、卓球ファンの応援と期待に応えることが肝心である。

できない理由を並べるのは簡単だ。そうではなく、どうすればできるのかを模索し、一歩踏み出すこと。その姿勢を貫いた今回の卓球界の試みが、いちイベントに終わるのではなく、コロナ時代のスポーツのモデルケースになってくれれば開催の意義はより深まるだろう。


(文=高樹ミナ)

2020 JAPAN オールスタードリームマッチ 出場予定選手

<男子>
■日本代表選手
張本智和(木下グループ)
水谷隼(木下グループ)
丹羽孝希(スヴェンソン)
森薗政崇(BOBSON)
宇田幸矢(明治大学)

■Tリーグ選手
及川瑞基(木下マイスター東京)
神巧也(T.T彩たま)
田添響(岡山リベッツ)
戸上隼輔(琉球アスティーダ)

<女子>
■日本代表選手
石川佳純(全農)
早田ひな(日本生命)
長﨑美柚(JOCエリートアカデミー/大原学園)

■Tリーグ選手
加藤美優(日本ペイントマレッツ)
木原美悠(木下アビエル神奈川)
出澤杏佳(トップおとめピンポンズ名古屋)
森さくら(日本生命レッドエルフ)