「オンラインエール授業」で船水颯人が現役部員25人に“夢授業” 2019年度からソフトテニス界初のプロプレーヤーとなった船水颯人。名実ともにソフトテニス界の顔となった男が、「インハイ.tv」と全国高体連が「明日へのエールプロジェクト」の一環…

「オンラインエール授業」で船水颯人が現役部員25人に“夢授業”

 2019年度からソフトテニス界初のプロプレーヤーとなった船水颯人。名実ともにソフトテニス界の顔となった男が、「インハイ.tv」と全国高体連が「明日へのエールプロジェクト」の一環として展開し、8日に配信された「オンラインエール授業」の第28回に登場した。「皆さん、最近は練習できていますか? 僕は夏バテです(笑)。今日は僕自身も高校時代を振り返りながら授業していきたいと思います」。笑いを交えながら爽やかな笑顔で生徒に語りかけ、現役のソフトテニス部員25人に向けた“夢授業”がスタートした。

 船水は自己紹介を兼ねて、ソフトテニスを始めたきっかけ、そして練習に明け暮れた高校時代を回想していった。

「初めてラケットを握ったのは3歳か4歳の時。小学校4年生くらいまではサッカーや野球もやるスポーツ少年で、ソフトテニスに集中し始めたのは小学校4年生の秋くらいでした。それからはいわゆる“テニス馬鹿”。練習、練習、また練習。高校はインターハイに出場したくて強豪校に進学して、団体で優勝することができました。高校3年間は僕の土台を作ってくれた時間です」

 現在に至るまでの快進撃の起点は、高校3年間にあった。

 早大進学後の2015年、全日本シングルス選手権で兄・船水雄太との決勝を制し、全日本シングルス史上最年少での優勝を果たす。翌2016年に行われたアジア選手権では、ミックスダブルス、ダブルス、国別対抗の3種目で金メダルを獲得。そして2019年度からソフトテニス界初のプロプレーヤーに。

 自身の土台を作った高校3年間だが、見えない敵との戦いでもあった。

「練習を休むことが怖かったです。休んでしまうとライバルと差がついてしまうのではないか、というひねくれた思いもありました。だから常に120%の力で練習していて、ちょっとやり過ぎていたかもしれません。それを大学に入ってからも続けていたら、怪我をしてしまった。高校時代にできた指標を大切にしながらも、今は80%くらいの力で練習することも必要だと感じています」

 一生懸命な練習とオーバーワークによる故障は常に隣り合わせ。だからこそ一線級で活躍するプロアスリートの言葉は高校生に響く。

プラスαを用意して接した質疑応答、「スプリットステップのコツ」は?

 そして授業は生徒からの質問コーナーへ移っていった。ここでしか聞くことのできない技術論について、続々と高校生の手が挙がり、質問が飛んだ。

――スプリットステップのコツを教えてください。

「スプリットステップも含めて、素早い動きをしようと思ったら余裕を持った立ち方をしていないといけない。だからステップの踏み方よりも立ち姿を意識することが大事で、そこで気持ちの余裕を相手に見せたい。踏ん張っているほうが頑張っている感じは出るかもしれないけど、その頑張りはキャパシティオーバーの状態に近くて、相手にとってプラスの要素になってしまう時もある。僕は相手がただ立っているように見えるほうが嫌。リラックスして膝を曲げて、力を入れるのも足の裏ではなく股関節を固めるような感じにする。もちろん両足のスタンスの幅も大切になってくる」

――私はレシーブを打つ時に面が定まりません。レシーブを打つ時はどんなことを考えていますか?

「面が定まらない時は、前へ出ることも考えながら、打つことも頭に入っていて、それがどっちつかずの状態になっているからだと思う。面がズレてしまったら、という不安もあるはず。レシーブのポイントとしては、面に当たる前後15センチくらいだけに集中して、フォアもバックもできるだけ同じ軌道で打つことを考える。それからサーブが来る前に最初から打つコースを決めておくのも有効。打つ場所を決めておいて自信を持ってインパクトに集中する」

 ただ質問に答えるだけでなく、船水はプラスαを用意して生徒に接していく。オンラインとは思えないほど授業が熱を帯びてきた。

 そしてアドバイスは練習方法にも及んでいく。

――風上から攻撃に出るコツを教えてください。

「まず風下と風上では、風上のほうが難しい。風上の条件を作る練習方法としては、自分の後ろからボールを投げてもらう。前から飛んでくるボールを打っているだけで伸び悩んでいる時に、僕は後ろから投げてもらって突破口を見出す。あとはできるだけ顔の近くを打点にすること」

――自分はサーブの時にファーストとセカンドの違いがあまりない。それとネットにかかってしまうことが多い。

「サーブはファーストを速くして、セカンドを遅くしなければいけないというルールはない。僕はフルパワーが100%だとしたら、ファーストが70%くらいの力で、セカンドは40~50%くらいの力で打っている。それでサービスエースを狙う時だけ90%くらいにしている。試合では緊張して、手が震えることもあるはず。そして緊張している時は自分が思っているよりも力が入ってしまうもの。だから試合では練習の時よりもプラス10%くらいの力になっていると考えたほうがいい。練習から80%、90%の力で打っていると試合での調整が難しいので、練習では50%から60%くらいでいいと思う。唯一、自分から始められるショットなので、自分なりの形を見つけてほしい」

 高校生は斬新な練習方法を知り、プロならではの微妙なパワーコントロール術を聞いた。明日からの練習がさらに充実したものになること間違いなし。自然と笑顔が溢れる場面から、それが伝わってくる。

実体験をもとにしたメンタル論「緊張を認める勇気を持てば、景色は変わる」

 つづくメンタル論でも、実体験をもとにした具体的なアドバイスを送っていく。

――試合前に緊張をほぐす方法はありますか?

「僕もかなり緊張しているし、その緊張をなくすのは人間なので難しい。でも緊張をエネルギーに変えることができればすごい力を発揮できる。僕は整列する前に目を閉じて5回ジャンプするのがルーティーン。緊張していなければ目を閉じていてもまったくフラフラしないけど、タイトル戦などで緊張している場面ではフラフラしてしまう。緊張していなければ勢いのままプレーしていいし、緊張していると感じた時はそれを理解して、認める。緊張を認める勇気を持って、ポジティブな思考になれば、見えてくる景色が変わってくる。緊張を排除するためにいろいろ試したけど無理。だから認めて、緊張している自分を受け入れる」

――うまくいかなかった時や結果を残せなかった時にどうすればモチベーションを上げられますか?

「おそらく2パターンあって、練習するか、練習をやめるか。僕は大学2年生くらいまで、とことん練習した。どんどん上手になる時期があって、その先にはだんだん停滞してしまう時期がある。なぜかうまくいかない、モチベーションも上がらない、でもとにかく練習をしていた。そうしたら怪我をしてしまった。そこで思い切って休んだら、いろいろな感覚がリセットされた。今でも試合前は自分自身をどん底に落とすために、まずは練習したくなくなるまで練習する。その後にちょっとリフレッシュして、テニスがしたくなるように気持ちを作って試合に臨む」

 緊張を受け入れ、認める。とことん練習した後に、リフレッシュする。数多くの大舞台を経験し、幾多の修羅場をくぐり抜けてきたプロアスリートならではの言葉を、生徒たちは必死にメモに書き留めていた。

 船水の熱血指導によって1時間の授業はあっという間に終盤を迎えた。代表して挨拶を行った生徒は「私たちは今、新型コロナウイルスの影響で活動時間が制限され、思うように部活ができていません。そんななか、今日は船水さんに話を聞かせてもらって、充実した時間を過ごせました。明日からは船水さんのアドバイスを生かして、練習に励んでいきたいです」と目を輝かせた。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響により、今年のインターハイは中止に。高校生にとって数限りのある夏の大舞台を奪われてしまった。

 船水が明日へのエールを送る。

「インターハイがなくなってしまって、地区によっては県大会もなくなっているところもあると思う。当たり前のように練習できていたことができなくなってしまった。こういう経験は史上初だと思し、この経験は皆さんの代だけ。僕自身も今は試合がなくて大変な部分はあるけど、必ず突破口は見えてくる。チャンスの時のために頑張ろうと決めている。インターハイが中止になってしまったという悔しい感情をエネルギーに変えて、次の舞台で躍動してほしい」

 最後は、船水と生徒全員が親指と人差し指をクロスさせてハートマークを作り、オンライン上で記念撮影を行う。

 熱気と活気に溢れた夢授業のその先は、生徒たちが明日からのコート上で見せてくれるはずだ。

■オンラインエール授業 「インハイ.tv」と全国高体連がインターハイ全30競技の部活生に向けた「明日へのエールプロジェクト」の一環。アスリート、指導者らが高校生の「いまとこれから」をオンラインで話し合う。これまでボクシングの村田諒太、バドミントンの福島由紀と廣田彩花、卓球の水谷隼、サッカーの仲川輝人、佐々木則夫さんらが講師を務めてきた。授業は「インハイ.tv」で配信され、誰でも視聴できる。(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)