錦織圭が迎えたツアー復帰戦は、再びコートに戻って来られた喜びと課題が見えた一戦となった。 錦織が公式戦でプレーするのは、2019年8月30日に行なわれたUSオープン3回戦以来で約1年ぶりだ。復帰の舞台となったATPキッツビュール大会の1回…

 錦織圭が迎えたツアー復帰戦は、再びコートに戻って来られた喜びと課題が見えた一戦となった。

 錦織が公式戦でプレーするのは、2019年8月30日に行なわれたUSオープン3回戦以来で約1年ぶりだ。復帰の舞台となったATPキッツビュール大会の1回戦で、第6シードの錦織(ATPランキング34位/8月31日付け)は、ミオミル・キツマノビッチ(47位、セルビア)に、6-4、4-6、2-6で敗れて復帰戦を勝利で飾ることはできなかった。



1年ぶりの復帰を果たした錦織圭。試合勘とショットの感覚を早く取り戻したいところ

 試合前には、「1年間試合から離れて、緊張や、いろんな気持ちもありますけど、すごく楽しみです」と語っていた錦織だったが、試合の出だしはブランクを感じさせないすばらしいプレーを披露した。予想以上に足がよく動き、得意のフォアハンドをはじめグランドストロークが好調で、復帰への準備が順調だったことを伺わせた。スタートダッシュに成功した錦織は、第1セットを一気に5-0とした。

 初対戦となったキツマノビッチは、錦織と同様にフロリダのIMGアカデミーを拠点にしている期待の21歳だ。2019年に21歳以下のツアー最終戦・Next Gen ATPファイナルズに初出場してベスト4。2020年にはツアーでベスト4に2回進出して自己最高ランキングを更新している。

 錦織のプレーに対応して徐々にミスが減り始めたキツマノビッチに4ゲームを取り返されたものの、錦織はリードを活かしてセットを先取した。

「1セット目は、いいプレーもできていました。相手の出だしが遅かったのに助けられましたが、2セット、3セットと戦うのは、レベルを持続するのが難しかったです」

 こう振り返った錦織の言葉どおり、第2セット以降は、1年間試合から遠ざかっていた影響が出始め、錦織の試合勘がまだ戻っていないという場面がしばしば見受けられた。錦織の体力も少しずつ落ちていき、本来の持ち味である素早く細かいフットワークも影をひそめ、イージーミスが増えた。試合の流れはキツマノビッチに傾き、錦織はその流れを断ち切ることができずに敗れた。

「もちろん完璧ではなかったですね。でも、悪くはなかったです。内容的に課題点ばかりでしたけど、そこまで悪くはないんじゃないかなと思います。1年経っていたので。なかなか1試合目80点以上というのは難しい」

 1回戦で錦織は、ダブルフォールトを合計6本犯したが、そのうち第1セット第7ゲーム、第2セットの第7ゲームと第9ゲーム、3回がサービスブレークに直結。1年ぶりの試合であったことを考慮するとしても、今後修正すべき課題となった。それでも錦織は前向きだ。

「(サーブは)仕方がないかなと思います。やっぱり練習と違いますし、プレッシャーもかかるので。それも課題点のひとつですけど、直っていくと思います」

 そして、やはり気になるのが錦織の右ひじの状態だ。錦織は、2019年10月22日に日本で右ひじの内視鏡手術をして2本の骨棘(こっきょく)を除去した。今回の試合では右腕にアームスリーブを装着してのプレーだった。

「(右ひじは)まだ完璧ではないんです。よくはなっているんですけど、もうちょっとですね。まだ傷跡が傷んだりはするので。今日はほぼ痛みがなかったので、こういう試合を積み重ねていければ、ひじももっと準備万端になっていく。もうちょっと積み重ねが必要かなと思います」

 手術後、日本に滞在してリハビリを行ない、2020年3月下旬から復帰を予定していた錦織だったが、ワールドプロテニスツアーが、新型コロナウイルスの世界的大流行によって中断となってしまい、プレーする機会自体を失ってしまった。

「(中断中はフロリダで)ほぼ練習していましたね。USオープンに向けて準備していました」

 本来ならば、この言葉どおり現在開催中のUSオープンに出場予定だったが、新型コロナウイルスに感染してしまい、前哨戦だけでなくUSオープンまでも出場を断念せざるを得なかった。

「(USオープンに)出られなくなってしまったけれど、(全仏オープンに向け)クレーから出られたので、それはそれでよかったかなと思います。しばらく空きましたが、自分も右ひじのこともあって、休まなきゃいけなかったので、そんなに苦ではなく、しっかり準備ができました」

  今後、錦織は毎週のように大会にエントリーしていて、マスターズ1000・ローマ大会(9/14~21)、ATPハンブルク大会(9/21~27)、ローランギャロス(9/27~10/11)に出場予定。精力的に試合をこなす中で、自分の感覚を取り戻そうとしている。

「この試合を踏まえて、もうちょっと直すべきところを、来週の試合でまた調整できたらと思います。今年の目標はないですね。今日みたいに1試合ずつ。もちろん勝てればよかったですけど。勝って何試合も重ねることが、一番の経験値になるので。なるべく試合は勝って、試合数はこなしたいです」

「まだまだショットの感覚が100%ではない」という錦織は、今、試合に飢えているように見える。ピリピリするような試合独特の緊張感の中で自分本来のテニスの感覚を少しでも早く取り戻したいと願っているようだ。

 かつて2009年に右ひじの手術をした錦織は、2010年2月のATPデルレイビーチ大会で20歳のリスタートを切った。その後、日本男子選手初のトップ10入り、USオープン準優勝、日本男子初のATPファイナルズ出場など、日本男子前人未到の数々の活躍を見せた。

 2回目の右ひじの手術を乗り越え、30歳からのリスタートをきった錦織は、果たしてどんな活躍を見せてくれるのだろうか。もちろん10年前と比べればプロテニスプレーヤーとして残された時間が多くないのは事実だ。だが、そんな限られた時間の中でも、錦織が心踊るようなプレーを見せてくれるに違いないという期待感は、昔も今も変わらない。