10月開幕を目指す各大学リーグ、コロナ禍でどう運営すべきか コロナ禍の中で暦は9月を迎え、ラグビーファンは秋の国内公式戦開幕に関心が高まっているはずだ。1995年から記者として取材を始めたが、初めて体験するこのような状況下でのラグビーシーズ…

10月開幕を目指す各大学リーグ、コロナ禍でどう運営すべきか

 コロナ禍の中で暦は9月を迎え、ラグビーファンは秋の国内公式戦開幕に関心が高まっているはずだ。1995年から記者として取材を始めたが、初めて体験するこのような状況下でのラグビーシーズン。他競技はすでに制約のもとで公式戦が開催されている中で、ラグビーでは10月の開幕を目指す大学各リーグが、コロナ禍の中での初の本格的なラグビー公式戦として注目される。

 リーグ戦開催の可否や運営方法が、来年1月の開幕を検討しているトップリーグ(TL)の開催にも大きく影響することになるはずだ。今月3日には関西大学リーグが大会概要を固め、関東でも11日に公式戦日程などの発表が予定されているが、方針通りに開幕できるかはいまだに流動的だ。感染対策を施しながらの異例のシーズン開幕へ向けて、その可能性と課題を考察する。

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 ラグビーでは8月までに開催予定だった大会が軒並み中止となる中で、大学公式戦の開幕が近づいてきた。

 大学ラグビーは、関東大学対抗戦、同リーグ戦両グループ、そして関西大学リーグの3リーグが主要リーグと位置付けられている。関東の2グループは関東ラグビー協会、関西リーグは関西ラグビー協会と、地域協会が主管団体として運営に携わり、各リーグ上位チームが日本協会主催の全国大学選手権に出場する。

 関西リーグでは、3日に行われたリーグ委員会で、非公開ながら新型コロナ感染の影響で一部の公式戦開催が不可能なためのリーグ戦不成立と入れ替え戦の中止、順位決定のための代替トーナメントの開催などの方針が確認されたという。関東協会は11日に大会日程・概要を発表する予定だが、すでに8月24日の関東協会理事会後にも一部方針が示されており、独自に入手した情報も含めて現時点での運営方式は下記のような概要になる。

・開幕は10月第1週
・12月第1週までに公式戦を終える
・コロナ感染で公式戦中止の場合は11月に順位決定トーナメントを実施

 例年なら9月第1週前後に開幕する公式戦を1か月後ろ倒しして、閉幕は通常通りというのが大筋だ。大学リーグの場合は各チームが12週間前後で7試合を行う、比較的余裕のある日程を組んでいる。そのため開幕が1か月遅れても試合の消化は難しくない。10月第1週という開幕の時期については、ある指導者から、「多くのチームが7、8月から練習を再開している状況だ。毎年4月に練習をスタートして、春季大会と練習試合、夏合宿と準備して公式戦に備える流れを考えれば、コンディション、戦術と準備不足のままの開幕にならないか。怪我人が心配だ」という不安の声も聞いたが、理事会では異論はなかったという。

 近づく各リーグの開幕に関心が向けられる一方で、忘れてはいけないのはリーグ戦後に開幕する全国大学選手権だ。その出場要件は、昨季に順じると関東、関西の主要3リーグの上位3位ないし4位までと、それ以外の地域リーグ1位による代表決定戦勝者になる。つまり、主要3リーグの順位が重要な意味を持つ。

 そのため、関西リーグが「公式戦中止の場合はトーナメント大会を実施して順位を決める」という方針を固めるなど、公式戦が新型コロナ感染などにより中止された場合でも、各主管協会は順位を決めるための試合開催を準備、模索している。

「1・2」の準決勝は動かせないのか

 今季の大学選手権の大会フォーマットは6日の時点では発表されていない。予選とも位置付けられる各リーグが日程を発表しようとしている段階で、“本大会”の概要が公開されていないのは不思議だが、日本協会ではコロナ禍の中での運営を精査しているのが実情だろう。しかし取材を続ける中で、大学選手権はコロナ感染による中止以外の選択肢としては、通常通りの日程、大会方式で行われる方針であることが分かった。感染の影響があれば、大会日程や概要の変更を考えずに、潔く中止する可能性が濃厚だ。

 このような方向性が浮上する中で強く感じるのは、ラグビーに携わる人たちであれば、もう少し柔軟性を持った対策ができないかという思いだ。現状の中で「危機的な状況下でやむを得ない」と唱えるのは受け入れられ易い主張だろう。しかし、選手たちに、大会に出場して、出来る限り憧れの舞台でプレーする機会を与えたいという観点では、検討するべきことがあるように思える。最終的には「中止」という結論に至ったとしても仕方がないような状況であるのは間違いない。だが、ラグビーに携わる人たちが公式戦開催の可能性を諦めてしまえば、その時点で選手がプレーできる可能性も断たれることになる。

 では、どのような対応策、可能性があるのだろうか。具体的には、日程および大会方式の変更だ。大学選手権を主催する日本協会が最重要視するのは、毎年1月2日に行われている同選手権準決勝と翌週の決勝戦だ。特に正月2日の準決勝は、元日のサッカー天皇杯決勝、2、3日の箱根駅伝と並ぶ正月スポーツの恒例行事として定着。ラグビーという範疇を超えた、季節の風物詩のようなイベントに定着している。その期日を動かすことは、少なくとも協会内では、いまやアンタッチャブルな案件となっている。

 日本協会は、過去に準決勝の日程問題で失態を演じている。2003年度の大学選手権は、従来の方式を大幅に変更して、2回戦で8チームを2組に分けた総当たり戦を導入した。しかし試合数の増加で準決勝を1月10日に後倒しとしたことで、多くのファンからの苦情が殺到。大会方式としては斬新なアイデアだったが、観戦者、テレビ視聴者が多い1月2日の準決勝でなくなったため、大会としても盛り上がりを欠いたものになり、この方式・日程はわずか1シーズンで撤回されることになった。

 もちろん、1月2日にNHKで長年に渡り地上波で全国に生中継されてきたことの恩恵も計り知れない。正月の特別番組としては優良コンテンツと考えているNHK側の利害を考えても、「1月2日=準決勝」は動かすことが出来ない日程なのだ。この鉄則があるために、大学選手権の日程が固定され、各地域リーグの最終戦の時期も、遡っての開幕日のデッドラインも決めざるを得ないというのが実情だ。

 しかし、個人的には、この2日の準決勝にこだわった中でも、さまざまな対策が可能なはずだ。

 もしコロナ感染の影響で各リーグ戦が中断、延期となれば、相当な非常事態と考えるべきだろう。最悪の場合は大会の中止という選択肢もあるが、日程の順延で対処できるのであれば公式戦を継続する可能性を模索するべきだろう。もし日程の変更、特に短縮の必要が生じるのなら、大学選手権出場チーム数を減らすことも考えていいはずだ。現行方式の選手権出場チーム数は14だが、例えば主要3リーグの各1位とワイルドカードのような位置づけの1チームの4チーム限定というコンパクトな大会に変更すれば、正月2日の準決勝と翌週の決勝だけで開催できる。開催期間は2週、10日以内で選手権全日程を終えることが可能なのだ。

 選手権前の各リーグ戦でも、期間短縮は可能だ。関東協会が準備しているであろう11月のトーナメント方式による順位決定も“時短”のための1案だが、各リーグ1部に参戦する8チームを4チーム2組に分けて、3試合の総当たり戦を行い、各組同順位が対戦して最終順位を決めることも可能なはずだ。この方式を使えば、全てのチームが公式戦4試合を行えることになる。

 もし、非常事態を理由に「準決勝=正月2日」という“掟”を破って大学選手権日程を動かすことが出来るのなら、可能性はさらに広がるはずだ。

 大学選手権の開催期間などについて、8月下旬から9月初頭にかけて関東大学リーグ戦1部、対抗戦A(1部)チームを率いる導者数人に話を聞いてみた。チーム側が可能だと考える大学選手権閉幕、つまり決勝戦のデッドラインについて、指導者からは「選手が望むなら、年度を超えてでも試合をさせてあげたい」という意見や「日本選手権が2007年度に3月中旬まで行われた実績がある。大学選手権も実施可能なはず」という声を聞いた。

 総じて妥当という意見が多かったのは、1月末か遅くても2月第1週での閉幕という日程だった。これは、学内試験や大学入試、4年生の退寮の時期などを踏まえた声だ。今季のカレンダーに照らし合わせると、決勝戦は来年1月30日か2月7日の日曜日となり、大会日程は3、4週間は遅らせることができそうだ。そうなれば、現在準備されている各地域リーグの開幕も、1か月近く遅らせることが可能になる。

願いは「選手が完全燃焼」できるシーズンに

 ここで関西大学リーグについて触れておこう。今季の開催方針については先に触れている通りだ。その中で、残念なのは入れ替え戦の中止という判断だ。断わっておくが、これは現時点では正式発表されているのもではなく、あくまでも3日に行われた同リーグのリーグ委員会で方向性が固まったと言われている情報だ。

 関西リーグでは、7月の段階で公式戦が1試合でも中止になれば、入れ替え戦も中止という方向性が示されてきた。例えば1部リーグの1チームがコロナ感染の影響で1試合を辞退した場合でも、2部以下の全カテゴリーの入れ替え戦が中止になるということだ。考え方としては、辞退チームが出るような緊急事態で公式戦も十分に出来ない状態なら、入れ替え戦も成立できないという判断だろう。似たような意見は、日本協会、関東協会内でも、大学ラグビー以外の事案も含めて耳にすることは少なくはない。管理する側としては、非常事態には厳しい判断もやむを得ないというスタンスなのだろう。

 関西リーグ所属のチーム関係者からは、「1チームの辞退で、すべての入れ替え戦までも中止となるのは疑問だ。昇格のない1部リーグは関係ないが、2部以下のリーグに所属するチームの選手は、昇格を目標に練習に打ち込んでいる。なんとか昇格の可能性を模索できないか」という声が聞かれる。方針どおり入れ替え戦が中止になれば、2部リーグ以下に所属する現在大学3年生の選手ですら、自分が上位リーグでプレーする可能性を断たれたまま、2シーズンをラグビーに打ち込み、卒業していくことになる。

 一部のチームからは「入れ替え戦を実施して、上位リーグのチームが敗れた場合は降格なし、下部チームが勝った場合は昇格し、来季は8から各10チームでリーグ戦を行う」という特例案も出されたものの、リーグ側の同意は得られなかったと聞く。

 繰り返しになるが、関西のみならず、関東、日本協会関係者には、この非常事態の下でも、少しでも多くの選手が出来る限り納得してシーズンを終えることができるようにしてほしいとお願いしたい。

 毎年学年が変わり、選手の顔ぶれも変わるのが大学チームだ。どんな状況下でのシーズンでも、彼らにとっては“特別な1年”なのは間違いない。学生たちが生きてきたわずか20年前後という時間は、その後の人生に比べれば、“たかだか20年”かも知れない。しかし、そのたかだか20年の大半を楕円球に捧げてきた選手たちに、この異常なシーズンを終えた時に「ラグビーを続けてきてよかった」と思わせることが出来るのは、ラグビー関係者、中でも協会で決定権を持つポストに就く役員、理事しかいない。

 見方を変えれば、大会の方向性を決め、運営に携わる人間にとって、こんなにやり甲斐のあるシーズンはないだろう。来春、再来年と社会へと巣立っていく学生たちは、選手として、そして膨大なファンとして未来の日本ラグビーを支えていく貴重な人材だ。非常事態のシーズンで、あらゆる可能性を模索し、その可能性を実現するために必要な柔軟な対応力を持ちながら、日本ラグビーの宝である学生たちを、どのように完全燃焼させることができるかというミッションにチャレンジするシーズンだ。

 大会スケジュールを決めること、方向性を決めることには、タイムリミットがある。どこかのタイミングで決断は必要だ。そして、そのリミットは刻々と近づいている。すでに、多くのことは内定・確定している段階だろう。

 しかし、アイデアというものはいくらでもある。それは買うことも出来るが、日本ラグビーの中枢に立つ人間は、アイデアを生み出すための豊富な経験と知識、そしてラグビーへの情熱を持っている。積み重ねてきた知と熱をフル稼働させて難局に立ち向かうことで、最良のアンサーが見つかることに期待したい。(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

吉田 宏

 サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。W杯は1999、2003、07、11、15年と5大会連続で取材。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。