USオープン3回戦で、第4シードの大坂なおみ(WTAランキング9位、8月31日づけ/以下同)が、マルタ・コスチュク(137位、ウクライナ)を6-3、6-7、6-2で破って、3年連続で4回戦進出を決めた。結果としては大坂が経験の差を見せつけ…

 USオープン3回戦で、第4シードの大坂なおみ(WTAランキング9位、8月31日づけ/以下同)が、マルタ・コスチュク(137位、ウクライナ)を6-3、6-7、6-2で破って、3年連続で4回戦進出を決めた。結果としては大坂が経験の差を見せつけて、18歳の若手を退ける形になったが、勝負を決めるまでに2時間33分を要した。



前哨戦で痛めた左脚が痛々しいが、気持ちを立て直し勝利した大坂なおみ

 コスチュクは、女子テニス界で将来を嘱望されている若手のひとりだ。14歳の時に出場した2017年オーストラリアンオープンのジュニアの部で優勝し、2018年オーストラリアンオープンでは、予選から勝ち上がって3回戦に進出する快進撃を見せた。今回のUSオープンは、2回戦で第31シードの選手を破り、この試合に臨んだ。

 一方、大坂は2回戦に続いて、左太ももにテーピングを巻いてのプレーだったが、出だしは冷静沈着なテニスが光った。パワーとスピードのあるグランドストロークは深く伸びがあり、さらにサービスの出来もよく、第1セットではファーストサーブでのポイント獲得率が86%と非常に高かった。コスチュクのサービスゲームを2回ブレークしてセットを先取してこのまま勝利へ突き進むかと思われた。

 しかし、第2セット第4ゲームで、約10分要しながら6回のブレークポイントを活かせずに、コスチュクのサービスキープを許すと、大坂のメンタルが少しずつ揺らぎ始める。

「第2セットのあのゲーム(第4ゲーム)は、ターニングポイントでした。とても長かったです。彼女(コスチュク)がサーブの時に、ものすごくいいプレーをしてきました。私は、いろいろなことをトライしましたが、彼女は答えを得たかのように対応してきて、私は彼女をコントロールできなかったです」(大坂)

 コスチュクは、フォアもバックもグランドストロークを果敢に打ち、これが功を奏し第7ゲームで初めてサービスブレークに成功。コスチュクが5-4で迎えた第10ゲームでは、コスチュクのプレーがやや硬くなったのを大坂が見逃さずに、得意のフォアをダウンザラインへ決めてブレークバック。お互いワンブレークでタイブレークに突入した。

 大坂は2-0とするが、4ポイントを立て続けに落とすと思わずラケットをコートに投げつけた。そのまま悪い流れは変えられず、コスチュクが2回目のセットポイントを取ってセットオールに持ち込んだ。

 ファイナルセットは第4ゲームで、0-40と大坂が最大のピンチを迎えた。しかし、コスチュクはリターンエースやストロークウィナーを強気に狙いにいく半面ミスも多く、結局大坂が5回のブレークポイントをしのいでサービスキープに成功。

 このチャンスを逃したコスチュクにはプレーを立て直す気力は残っておらず、大坂がこの第4ゲームから一気に5ゲーム連取で勝負を決めた。

 コスチュクは、大坂の30本より多い36本のウィナーを決めたが、51本のミスは多すぎた。22歳の大坂が、18歳のコスチュクを最後に突き放せたのはやはり経験の多さの違いだろう。大坂には2度グランドスラムで優勝し、世界ナンバーワンも経験している矜持がある。

「ツアーでプレーするからこそ学べることがあり、試合をするからこそ学べる何かがあると思います」

 こう語った大坂は、いずれコスチュクも自分のように世界のトップレベルへ駆け上がってくるだろうと予見する。

 また、この試合では大坂のメンタルの成長が垣間見えた。苦しい展開にラケットを投げて、今大会で初めて負の感情を発露させてしまった場面もあったが、ファイナルセットでの難局を乗り越えて勝利に辿り着く、決してあきらめない強いメンタルを披露した。

 新型コロナウイルスの世界的大流行によるツアー中断を経て、復帰戦を迎えた時、「すべて(コロナウイルス)が始まった以前と、今の私は違う人かもしれませんね」と自己分析している。

 その言葉通り、ツアー中断中に自分を見つめ直して、シャイな自分とは決別すると宣言した。黒人人種差別へ抗議し、"Black Lives Matter"のムーブメントにも賛同し、SNSから自分の意見をしっかりと主張している。もともと内気で口数の少ない女の子であった姿からすると、想像を超えるようなアクティブな活動ぶりだ。

 さらに、大坂はUSオープンでの毎試合入退場時に、黒人人種差別関連の不幸な事件で亡くなった黒人の名前がプリントされたマスクをつけており、アメリカだけでなく世界から反響を呼んでいる。そこには、少しでも多くの人に知ってもらいたいという大坂の狙いがある。

 これは通常、大会で認められない行為なのだが、今回のUSオープンでは、「Be Open」というキャンペーンが展開されており、人種、ジェンダー、SOGI(性的志向・性自認)などへの公正や平等のメッセージを身につけることがグランドスラムで初めて許可された。

"Black Lives Matter"がきっかけになっているが、大会期間中に政治的なメッセージやヘイトスピーチでなければ、試合前と後での選手からのメッセージの発信が認められている。

 大坂の一連の抗議行動は、USオープンでいいプレーをしようとする彼女自身のモチベーションにもつながっている。ただし、試合時に雑念になるようなことは決してコートに持ち込まず、プレーだけに集中することを心がけている。オンコートでのプレーだけでなく、オフコートでの取り組みが、プロテニスプレーヤー・大坂なおみの進化につながり、特に精神面での成長を促しているように見える。

 4回戦で大坂は、第14シードのアネット・コンタベイト(21位、エストニア)と対戦する。対戦成績は大坂の4勝0敗で、直近のUSオープン前哨戦の準々決勝でも戦っており、大坂がフルセットで勝っている。

 昨シーズンの大坂は、グランドスラムではいつも優勝宣言ばかりしていたが、それがいい結果に結びつくことはなかった。だが、今回の大坂は違う。

「優勝のことは考えるのをやめました。自分自身へあまりにも大きなプレッシャーをかけていたように感じます。優勝へ向けていいポジションにいることだけを考えています。とにかく1試合1試合向き合っています」

 テニスがメンタルによって大きく左右されることは周知のとおりだが、コートのオンオフの両方で成長を見せている大坂が良好なメンタルを維持できるのなら、USオープンでの結果はおのずとついてくるはずだ。