侍ジャパンU-23代表が見事初代王者に輝いて幕を閉じた「第1回 WBSC U-23ワールドカップ」。10月28日から11月6日までメキシコ・モンテレイで繰り広げられた熱戦を通じ、参戦した選手はそれぞれ貴重な経験を味わった。初戦から決勝までの…

侍ジャパンU-23代表が見事初代王者に輝いて幕を閉じた「第1回 WBSC U-23ワールドカップ」。10月28日から11月6日までメキシコ・モンテレイで繰り広げられた熱戦を通じ、参戦した選手はそれぞれ貴重な経験を味わった。初戦から決勝までの全9試合に「一塁」で先発出場したヤクルト廣岡大志も、その1人だろう。

■普段は遊撃手も、打撃を買われて全9戦で一塁スタメン出場

 侍ジャパンU-23代表が見事初代王者に輝いて幕を閉じた「第1回 WBSC U-23ワールドカップ」。10月28日から11月6日までメキシコ・モンテレイで繰り広げられた熱戦を通じ、参戦した選手はそれぞれ貴重な経験を味わった。初戦から決勝までの全9試合に「一塁」で先発出場したヤクルト廣岡大志も、その1人だろう。

 会期中、斎藤雅樹監督は先発野手をほぼ固定した形で起用していたが、廣岡に一塁を守らせるのは、ある意味“賭け”だった。何しろ、ヤクルトで廣岡が守るポジションは一塁ではなくショート。それでも、高卒ルーキーに国際大会で不慣れなポジションを守らせたのは、将来性のある豪快な打撃を買ったからだろう。

 メキシコに渡る約1か月前の9月29日、廣岡は晴れて1軍デビューを果たした。敵地での横浜DeNA戦に「8番・遊撃」で初先発。DeNAの先発投手は、この日が引退試合の三浦大輔だった。2回1死一、三塁で迎えた初打席、チームの先輩・山田哲人2世とも呼ばれる、左脚を大きく蹴り上げる豪快なスイングで2球目フォークを振り抜くと、打球はライナーで左翼席へ飛び込む3ランに。特別な舞台で結果を出す。大器の片鱗をうかがわせる場面だった。

 が、U-23W杯では苦戦を強いられた。オープニングラウンド序盤こそ自慢の打撃が光ったが、徐々に安打や四球数よりも三振数が上回り、スーパーラウンド進出後はバットからの快音はピタリと停止。それまで無難にこなしていた一塁守備も、前日の韓国戦での3三振が響いたのだろうか、スーパーラウンド第2戦パナマ戦では、同点の8回に相手の勝ち越しを呼ぶ失策を記録。さすがに敗戦後は、うつむき加減で表情が冴えなかった。

■「唯一貢献できた」メキシコ戦、渾身の一振りが日本に突破口を開く

「チームに貢献っていうよりは、ずっと足を引っ張ってばかりだったんで…」と申し訳なさそうに肩をすぼめる廣岡が「唯一貢献できたかも」と話したのが、スーパーラウンド第3戦メキシコ戦の第2打席だった。

 前日1敗を喫した日本は、この試合に勝たなければ、直接対決や得失点差で決勝には進めなかった。メキシコに出発前に掲げた目標は「全勝優勝」だったが、パナマ戦での黒星を受けて「優勝」に軌道修正。前身大会「21U W杯」で残した準優勝に最低でも並ぶためにも、どうしても勝たなければならなかった。だが、試合が始まると両軍投手が好投し、打線はなかなか得点機を見出せない。そんな中、まず廣岡は守備で見せ場を作った。

 両軍無得点の2回1死一塁、ライトに抜けそうな鋭い打球を捕球すると、一塁ベースを踏んで二塁に転送、併殺を完成させた。試合前の練習では相当数のノックを受け、試合中の守備位置は、故障で出場を見合わせていた一塁手・丸子達也(JR東日本)の合図に頼り、なんとか急ごしらえした一塁守備が要所で締まった。もし、ここで打球が抜けてメキシコが先制していたら、試合の展開は大きく変わっていただろう。

 打席は絶好機で回ってきた。0-0の5回裏、先頭の三好匠(楽天)が四球で出塁、吉持亮汰(楽天)が一塁後ろに落ちる安打で続くと、柿沼友哉(ロッテ)の犠打で1死二、三塁の先制チャンス。ここで打席に立った廣岡は、追い込まれてからの外角球を豪快に振った。鋭い打球は三塁手を強襲して失策を誘い、走者2人が生還。日本は窮地で先制に成功した。

「二、三塁の場面で打席が回ってきて、何としてでも、相手のエラーでもいいから点が欲しかった。あの試合に負けたら3位(決定戦行き)やったやないですか。そこでどんな形であれ、点を取れたっていうことが、唯一貢献できたかもって思います」

 何が何でも、どんな形でも…。なりふり構わぬ渾身の一振りが、日本にとって、そして廣岡自身にとっての突破口を開いた。

■斎藤監督「高校を出て1年目でしょ。…大したもんだなって思います」

 オーストラリアとの決勝戦では、第3打席に特大3ランを左中間席へたたき込んだ。「点差もあったし、最後の試合なんで思い切っていこうと思いました」と振り返る、これまでの鬱憤を晴らすような大きなアーチが飛び出すと、ベンチやブルペンにいたチーム全員が我が事のように大喜び。智辯学園の先輩でU-23メンバーでもあった青山大紀(オリックス)は、優勝後にツイッター上で「調子が悪い中大志がホームランを打ってちょっと泣いてしまうぐらい嬉しかったです!」と明かしたが、国際大会で大きな壁にぶち当たった19歳の苦悩をチーム全員が感じ取っていたのだろう。

 決勝戦が始まる前、今大会で驚きの働きをした選手は誰か、斎藤監督に聞いてみた。指揮官の答えは「大体思っていた通りの働きをしてくれたんだけど…強いて言えば、廣岡かな」。特大3ランを打つ何時間も前の話だ。

「ファーストをやったことがなかったんだけど、丸子と2人でやらせてみようと使ってみた。最初はそれなりに打ったしね。最後はちょっとあれだったけど(笑)。でも、高校を出て1年目でしょ。そう考えれば、慣れないポジションで全戦先発したのは大したもんだなって思います」

 プロ生活はまだ始まったばかり。1軍に定着し、チームはもちろん日本を代表する選手まで成長する過程で、何度も壁にぶち当たることだろう。だが、そのたびに、メキシコでの渾身のプレーで突破口を切り拓いた経験が、打開策を見つけるヒントを与えてくれるに違いない。