> 1周1分20秒のうち、全開時間が60秒を超え、全開率は実に77%。それが超高速のモンツァだ。イタリアGPはそんなサーキットで行なわれる。レッドブル・ホンダが超高速モンツァに挑む レッドブルにとっては2014年に現行パワーユニットが導入さ…

 1周1分20秒のうち、全開時間が60秒を超え、全開率は実に77%。それが超高速のモンツァだ。イタリアGPはそんなサーキットで行なわれる。



レッドブル・ホンダが超高速モンツァに挑む

 レッドブルにとっては2014年に現行パワーユニットが導入されて以来、一度も表彰台に立っていない、不利中の不利のサーキットだ。パワフルなパワーユニットがなければ上位争いはできない。

 それを指摘されたマックス・フェルスタッペンは「今年はトライするよ!」とガッツポーズを見せた。それだけ今年は表彰台という結果が現実的なターゲットとしてイメージできているということだ。

 しかしその一方で、メルセデスAMGを打ち負かすことは難しいという現実も忘れてはいない。

「すごく自信はあるよ、今までの人生でこれほど自信があったことはない。0.5秒差でポールを獲る? それとも1秒差とか1.5秒差でもつけちゃう? 第2シケインをカットすれば、それも可能だろうね(笑)。

 それは冗談として、ここはストレートがとても長いから僕らにとってベストとは言えないけど、できればストレートとコーナーの最適なバランスを見つけ出して、いいセットアップを仕上げたい。それでも僕らにとって楽なサーキットとは言えないだろう。

 去年は(パワーユニットの交換で)グリッド降格を受けたとはいえ、フリー走行からとてもコンペティティブだった。今年もそうなることを願っているよ。でも、僕らは現実的にものごとを見なければならない。メルセデスAMGが最有力候補であることは変わらないよ」

 最近のモンツァでは、パワー偏重ではなくコーナーを速く走ることによってタイムを稼ぐという走り方も十分に機能する。だからこそ、車体性能が高かった2018年にはフェルスタッペンが3位でフィニッシュすることができ(5秒加算ペナルティで降格)、ホンダとタッグを組んだ昨年は戦略的なパワーユニット投入で5グリッド降格を受けたものの、フリー走行では上位勢に喰らいついていた。

 そして今週末に向けては、ポジティブな要素もある。パワーユニットの「予選モード禁止」だ。

 ただ、予選モード禁止という言葉がひとり歩きしているが、正確には「予選と決勝を同一エンジンモードで走る」ということだ。

 予選Q3になるといつもメルセデスAMGに大きく差をつけられていた"パーティモード"と言われるスペシャルモードが使えなくなる。その点では差が縮まることは間違いない。しかし、予選でのみ使用していたアグレッシブなモードが使えなくなるのは、ホンダも同じだ。

 その予選での「攻め」がなくなる分だけパワーユニットにかかるダメージは少なくなるため、それを決勝でまんべんなく使うことになる。ということは、瞬間的なメルセデスAMGとの差はより長い距離に分散するため、小さくなると言えるのかもしれない。だが、それほどシンプルな話でもなさそうだ。

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう説明する。

「予選モードがなくなって楽になりますが、レース中もずっと同じモードで走らなければならないので、もう追いつけないからモードを落としてセーブしよう、ということもできなくなります。予選から決勝の最後まで、まったく同じ負荷をかけた状態でエンジンを使わなければならない。

 予選モードがなくなった分をそういうところに振り分けた時、この先のシーズンの各サーキットでどれだけの負荷があるのか、全開率や温度など負荷が高いところでどれだけ使うか、パワーセンシティビティの高いところでどれだけ使うか、それらを総合的に見て決めなければならないということです」

 つまり、その週末の予選・決勝への合わせ方によっては、パワー面でまったく歯が立たないことも考えられるし、一度走り始めてしまうとその差は埋まらない。瞬間的にモードを変えてアタックを仕掛けることもできず、最初から最後まで同じパワー差で走ることになってしまう。

 レース中にできるのは、ERS(エネルギー回生システム)の電気の使い方変更だけ。むしろ決勝は変化に乏しく、退屈なものになる可能性もあるだろう。

 予選やレース中に細かくできたアタックやセーブの切り替えと割り振りが、今後はレース毎という大きな単位でしかできなくなる。だからこのレース週末だけでなく、今後の各レースに対してもどのようにパワーユニットの寿命を使っていくのか、長い視点で見て準備しなければならなくなった。

 そのため、各メーカーともイタリアGPの木曜日はその準備作業に追われていた。

「叩き台をホンダが作り、こちらに入って来てからもFP1、FP2、FP3、予選に向けてモードの使い方をどう準備していくか、その詳細をレッドブル、アルファタウリと話したところです。チームの戦い方も関わってきますから、その叩き台をベースにチームと整合を進めています」(田辺テクニカルディレクター)

 もちろん、各メーカーともまだ手の内を明かすつもりはなく、ホンダもその計画を明かすようなことはしない。今週末の全セッションを走り切ってはじめて、各メーカーのアプローチの仕方がわずかに見えてくるだろう。

 運用面・統括面でもまだ未知数の部分もある。まずは様子を見ながらの運用となりそうだ。

「実際にやってみなければわからないところはあります。FIAも技術指示書の指針に沿って運用されているかを大前提に見て、『細かい不具合などで何か対応した場合は迅速にFIAに連絡しなさい。まずはモンツァでやってみましょう』と。

 まずは走ってみないと、各チームのフリー走行の走り方やモードの使い方、パフォーマンス、そして予選・決勝でどうなるかもわかりません。我々としてはルールをしっかりと遵守したうえで、ハードウェアが持つパフォーマンスを最大限に引き出して戦って行きたいと思います」

 こういった複雑な背景を踏まえながら、フェルスタッペンはこの「予選モード禁止」は自分たちのレースにはほとんど影響はないだろうと見ている。

「僕らとライバルに対してそれがどのように機能するのか、あまり影響がないことを願っているよ。僕らにはパーティモードと言われるようなものはないから、僕らが大きくパワーを失うことはないと思う。みんなそれぞれ差が縮まるような結果になるといいんだけど。Q3になってみないとわからないよ」

 現実的に考えれば、パワーの差が縮まろうともゼロにはならない。車体でも負けているだけに、メルセデスAMGの2台を打ち負かして優勝することは難しいだろう。

「あきらめないけど、僕はものすごく現実的でもある。今の僕らは遅すぎるから、勝つためには運が必要だ。スパ・フランコルシャンでも1周0.5秒遅かったわけだから。そんな状況では戦えないよね」

 しかしそんな状況下でも、フェルスタッペンは開幕戦のリタイアのあと、6戦連続で表彰台を獲得している。つまり、大半のレースでメルセデスAMGの2台がいる表彰台の最後の1席を確保しているのだ。

 それは今週末のイタリアGPでも変わらないかもしれない。メインストレートの上に浮かぶモンツァの表彰台に初めて立つチャンスは十分にありそうだ。