大坂なおみが、グランドスラムに帰って来た--。 新型コロナウイルスの世界的大流行による約5カ月間の中断を経て、8月からプロテニスツアーが再開。そして、8月31日からは再開後初めてのグランドスラムである、USオープンがアメリカ・ニューヨーク…

 大坂なおみが、グランドスラムに帰って来た--。

 新型コロナウイルスの世界的大流行による約5カ月間の中断を経て、8月からプロテニスツアーが再開。そして、8月31日からは再開後初めてのグランドスラムである、USオープンがアメリカ・ニューヨークで開幕した。



前哨戦で痛めた左足の心配は尽きないが、1回戦を制した大坂なおみ

 2年前にグランドスラム初優勝を成し遂げた一番思い入れのあるUSオープンで、今回第4シードになった大坂(WTAランキング9位、8月31日づけ/以下同)は、1回戦で、土居美咲(81位)と対戦。結果は、6-2、5-7、6-2のフルセットにおよんだ2時間3分の激戦を制し、5年連続で2回戦進出を決めた。

「今日は彼女(土居)のリターンが明らかによかったです。私はプレッシャーを感じていました。彼女がコート中央周辺に深く、とてもいいボールを打ってきた時、私は自分が思うようにそのボールを無力化することができませんでした。左利きの選手と対戦するのはすごく久しぶりだったので、ボールの弾道が、私にとってはちょっとクセがあるように感じられました」

 こう試合を振り返った大坂のセカンドサーブでのポイント獲得率は53%にとどまった。一方、土居はリターンからアグレッシブに打っていき、大坂のパワープレーに対抗。しかし、ファイナルセット序盤で大坂がギアアップすると、そこから土居はついていけなくなった。

 大坂は、ツアー中断中の5カ月の間、新たにIMGアカデミーの中村豊トレーナーを招聘。彼とのフィットネストレーニングの成果が実って、大坂のコート上での動きがさらによくなった。細かいステップで微調整を入れながら、あと一歩が届くようになり、しっかりボールに追いついて質の高いグランドストロークを打ち返している。左右へ振られた時や、ワイドへのサーブに対するリターンも、より広い範囲をカバーできるようになった。

 ただ、前哨戦で痛めた左足のハムストリングの影響がどのくらいあるのかという不安要素を抱えていた。この試合では、テーピングもサポーターもしていなかったので、プレーにそれほど大きな影響はなかったようだが、試合後に大坂は、「試合中に、ゆっくりだけど少しずつ悪化していました」と吐露。今後の試合でも適切なケアが欠かせない状況だ。

 USオープンのセンターコートであるアーサー・アッシュスタジアムで行なわれたこの1回戦が、無観客試合であったことは周知のとおりだが、今回のUSオープンは、それだけでなくまさに異例づくしの開催となっている。

 アメリカでは新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が600万人(9月1日時点)を超え、この状況に不安を覚えた多くの選手がUSオープンの出場辞退を表明した。女子では、世界ランキング1位のアシュリー・バーティ(オーストラリア)をはじめ、トップ10選手のうち、6人が欠場となった。

 さらに、大会開幕直前には、フランスの男子選手1人にコロナ陽性が判明して棄権扱いとなり、ニューヨーク衛生局の指導に従って最低でも10日間の隔離生活に入っている。

 大会期間中に選手たちの行動範囲は、会場と選手の宿泊先であるオフィシャルホテル、"バブル"と呼ばれる感染症対策を施した隔離空間だけに制限されている。もちろんマスクも常時着用することが義務付けられるなど、徹底されている。

 会場内で密にならないための対策として、大坂のようなシード選手は、アーサー・アッシュスタジアムの中段にある個室を控室としてあてがわれている。ここは、通常だとVIPやスポンサーなどのために使用されているスイートルームだ。

 また、大坂個人としても、いつもの大会と違うことが起きている。ひとつは、体の回復のためにアイスバスを使用するのだが、今回は会場内に作れないため、暫定的な解決策として、ホテルの部屋のバスタブを氷で満たして自作のアイスバスで対応している。

 さらに、前哨戦とUSオープンとの日程の間がほとんどなく、前哨戦で決勝まで勝ち上がった大坂のスケジュールは超過密になってしまったため、フィジカルの回復時間を十分に確保できないままUSオープンへ突入していることなども挙げられる。

 いつもと違う大会のスタイルによるストレスのほか、試合以外でも大坂のメンタル面でも疲れを蓄積させないケアが必要だろう。特に、アメリカ国内で起きている黒人人種差別問題を受けて、"Black Lives Matter"のスローガンに賛同して、抗議のメッセージを発信した大坂には、今まで以上に世界からの注目が集まっている。試合に支障をきたさないようにするために、大坂本人だけでなくチームとともに、オンコートとオフコートのバランスをとってほしい。

 2回戦で大坂は、カミラ・ジョルジ(74位、イタリア)と対戦する。過去に一度だけ対戦したことがあり、2018年東レ パンパシフィックテニス準決勝で戦って大坂が勝っている。ジョルジは、すべてのグランドストロークをハードヒットしてくるような勝気な選手だ。

「ビッグヒッターとプレーをするのは本当に大好きです。すごく楽しみです」と大坂は、ジョルジとの再戦を心待ちにする。

 今の大坂は、多少のアップダウンがあるにしても、心を落ち着かせて、前向きな姿勢を維持できれば、いいプレーができるという自負がある。左足の今後の回復具合は気になるところだが、試合を重ねるごとに調子が上向くのであれば、大坂は、今回のUSオープンで間違いなく優勝候補の1人だ。