>「正直言って、かなり退屈なレースだったね」 ベルギーGPを3位で終えたマックス・フェルスタッペンは、なかば自嘲的にそう言った。 レーシングドライバーなら誰もが好きだと言う「世界屈指のドライバーズサーキット」スパ・フランコルシャン。そのコー…

「正直言って、かなり退屈なレースだったね」

 ベルギーGPを3位で終えたマックス・フェルスタッペンは、なかば自嘲的にそう言った。

 レーシングドライバーなら誰もが好きだと言う「世界屈指のドライバーズサーキット」スパ・フランコルシャン。そのコースを走っているにもかかわらず、44周の決勝レースはそのほとんどが退屈なドライビングだったと、フェルスタッペンは悔しがった。



メルセデスAMGの後塵を拝したレッドブル・ホンダ

「僕らにやれることはほとんどなかった。面白いレースでは全然なかったよ。メルセデスAMG勢がプッシュを始めれば彼らについていくことはできなかったし、僕は最後、タイヤが完全になくなってしまった。最後の8周ほどは本当にバイブレーションとアンダーステアがひどくて、フロントタイヤをセーブするために完全にバックオフしていた」

 スペインGPがそうだったように、メルセデスAMGは常に余裕を持って走行している。その間は彼らについていくことができるが、いざ彼らがプッシュを開始するとついていくことができない。しかもタイヤの磨耗が進むと、タイヤを最後まで保たせるためにプッシュすることができない。

 もう一度ピットインしてフレッシュなタイヤに交換すれば、メルセデスAMG勢を追い上げることができたかもしれない。しかし、後ろにはルノーのダニエル・リカルドがおり、一度彼らの後ろになってしまうと、ストレート車速が速い彼らを抜くことはできないかもしれない。

 実際、アレクサンダー・アルボンはリカルドよりも柔らかいミディアムタイヤを履いてグリップの優位があったにもかかわらず、抜くことはできず抑え込まれた。

 レッドブルよりストレート車速が伸びるアルファタウリ勢も、前後が皆1秒以内に連なってDRS(※)を使う「DRSトレイン」のなかではDRSの効果が薄く、そこから抜け出せない状況が続いていた。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 メルセデスAMGの手のひらの上で踊らされて、身動きが取れない。そんな状況にレッドブル・ホンダは閉塞感に包まれていたと、ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは振り返った。

「最終的にホンダとしては4台完走、3台入賞ということで、まずまずとはいうものの、なんとなく閉塞感もあるレースでした。マックスがメルセデスAMG勢に頭を抑えられているのも、DRSトレインのなかから抜け出せないのも閉塞感でした」

 全開率が高く、セクター1とセクター3ではそれぞれ20秒を超える連続全開区間があるスパ・フランコルシャンでは、パワーがモノを言うだけにホンダは苦戦を覚悟していた。

 しかし、予選ではルイス・ハミルトンと0.526秒差と、ギャップは今季一番の小ささ。2位のバルテリ・ボッタスとの差は0.015秒でしかなかった。

 これまでマシン挙動に苦戦を強いられてきたアルボンが予選5位に入り、フェルスタッペンとのギャップも0.501秒と縮めてきた。そのことからもわかるように、RB16のマシン挙動はかなり改良された。ベルギーGPに持ち込んだ改良パーツが功を奏したのだと、アルボンは語る。

「これはクルマの進歩によるものだ。コーナーの入口から中間までのクルマの挙動が予測しやすい状態だったし、自信を持って安定したドライブがしやすかった。

 これまでマックスとふたりで、もっと挙動が安定して予測できるクルマがほしいと話してきた。今週末ここに持ち込んだものは、ダウンフォースを増やすというよりも、それを助けるようなアイテムであって、そのおかげで以前のようなドライビングができた」

 金曜フリー走行1回目からフィーリングはよく、セットアップもストレート車速とコーナーのバランス妥協点がよかった。ここで新アイテムを試したフェルスタッペンに続き、フリー走行2回目からはアルボンも採り入れて速さを増した。

 マシンパッケージとしてストレート車速とコーナリング性能のバランスをうまく取れたことが、これまでレッドブルの課題であった予選パフォーマンスの向上をもたらしたのだ。

「セクター1とセクター3の長いストレートと、下りの中高速コーナーやシケインで、どうバランスを取るか。車体のセッティング、タイヤの使い方、ドライバーのドライビングがきちんとできた結果だと思います」(ホンダ・田辺テクニカルディレクター)

 それを如実に表していたのが、予選Q3のアタックの最後に、フェルスタッペンが「ERS(エネルギー回生システム)が早くなくなった!」と叫んだ事実だ。

 これは、去年のハンガロリンクやシルバーストンなど絶好調だった時にも起きていた。

 予選が進んで路面コンディションがよくなれば、フェルスタッペンがエンジニアの想定以上にスロットルを踏む。スロットルを開けている時間が長ければ、ERSのディプロイメントを効かせる時間が長くなり、アタックラップの最後にバッテリーが足りなくなる。マシンの挙動がいいからこそ起きる現象だ。

「Q3の最後で乗り方や踏み方が微妙に変わり、それで最後にディプロイメントが少しショートしてしまったということです。エネルギーマネジメントがパーフェクトじゃなかったのはそのとおりですが、Q3での伸びしろをどこまで考慮しておくかという問題で、もしそこまで(全開時間が)伸びなければ余らせて使っていたことになってしまいますから」(ホンダ・田辺テクニカルディレクター)

 この1週間のインターバルの間に、レッドブル・ホンダが大きく進歩してきたことは間違いなさそうだ。

 4台完走・3台入賞、そして3位表彰台は、ホンダとしては2015年のF1復帰から6年目で過去最高の成績だ。これについて田辺テクニカルディレクターは、自分たちの進歩の証だと認める。

「パワーユニット単体の性能云々という判断は難しいのですが、パワーユニットが大幅に負けていれば当然パッケージとしてのパフォーマンスは上がりませんから、そういう意味では我々の今のパフォーマンスはいい線に来ている、戦えるレベルに来ているかと思います」



ベルギーGPで3位表彰台に立つフェルスタッペン

 メルセデスAMGとの間には、まだ差がある。予選では差が縮まったように見えたが、それは次戦イタリアGPから予定されている「予選モード禁止」に備えて、スペシャルモードを使わずにどこまでやれるのかトライしたのではないかとの見方もある。

 田辺テクニカルディレクターも「悔しいけど、そう感じる部分もありました。それが事実でないことを願っていますが......」と認める。

 ただ、車体が抱えていた問題は解決に向かっており、パワーでも大きな差をつけられているわけではない。予選モードが禁止されることで、この新たなルールに対する適応で多少の勢力図の変化もあるかもしれない。

 さらなる超高速サーキットのモンツァで、レッドブル・ホンダがどんな戦いを見せるか。これまでのホンダとは違い、希望のない戦いではない。