今年の東京五輪開催が延期になり、セブンズ(7人制ラグビー)日本代表からの引退を表明した福岡堅樹(パナソニック ワイルドナイツ)。これまでの歩みが増刊ヤングジャンプスポーツ(集英社)で実録マンガ化されるなど、今も注目を集める存在だ。 現在は…

 今年の東京五輪開催が延期になり、セブンズ(7人制ラグビー)日本代表からの引退を表明した福岡堅樹(パナソニック ワイルドナイツ)。これまでの歩みが増刊ヤングジャンプスポーツ(集英社)で実録マンガ化されるなど、今も注目を集める存在だ。

 現在は医学部への進学を目指して、受験準備の真っただ中にいる福岡に「勉強」について聞いてみた。



笑顔でのセブンズ代表引退会見後、受験勉強をスタート

* * *

「僕はまだ現役は引退したわけではないので、基本的には午前中はトレーニングをして、午後の時間をしっかりと勉強に使う感じですね」

 今年の9月7日で28歳になる福岡は、これまでの高校時代、浪人時代とは違う受験勉強を、どこか楽しんでいるようにも見えた。

 福岡が卒業した福岡県立福岡高校は、県内では"公立御三家"と呼ばれる文武両道の名門進学校。2020年の大学入試実績では、東京大学5名、京都大学13名の合格者を出している。

「僕の頃は、そこまでではなかったんですが(笑)、今の後輩たちがすごく頑張ってくれているおかげですよ」

 難関大学への進学が当たり前の雰囲気のなか、高校3年の冬休みを花園の大舞台で戦っていた福岡は、2回戦で大阪朝鮮高校に敗退。その直後から受験モードに切り替えたものの、年が明けてから行なわれたセンター試験では散々な結果に終わり、第一志望の筑波大学医学群の受験に失敗、浪人することになる。

 1年後、医学部があって、ラグビーも強い大学ということで、もう一度、筑波大学医学群を前期試験で受験。しかし、再び不合格となった福岡は、後期試験で志望先を切り替え筑波大学情報学群に合格した。

「あの頃もそうなんですが、僕は長時間、ずっと勉強するタイプではなかったんです。自分でも長時間集中が持つほうではないとわかっているので、今でも勉強と勉強の間にうまく休憩時間を確保して、ゲームとか、自分のやりたいことをちょっとずつ息抜きに挟みながら、また勉強するようにしてますね。そこは、これからも大きく変わることはないと思います」

 当然ながら、この福岡スタイルの勉強方法が、ほかの受験生にもピッタリ当てはまるとは限らない。

「これに関しては、本当にその人に合うか合わないかの問題なので......。僕は長時間勉強ができない人なんで、今だと長くて1時間ぐらいですかね、そこまでやると切れちゃう感じで。その分、しっかりと集中力を持って、短時間勉強して、ちゃんと休憩時間を挟んでの繰り返しになるんです。ダラダラと時間だけかけて、やった気にならないようにはしています。
 
 時間は目安ではありますが、それより、どこまでやるっていう内容で決めるんです。うまいことハマってそこまでいければ早く終わりますし、時間で縛る意味はない。集中力がない状態で続けてもしょうがないと思っていますから」



福岡が実録マンガ化され、増刊ヤングジャンプスポーツに掲載された(ⓒ集英社)

 ところで、受験勉強は昔からよく「四当五落(よんとうごらく)」と言われたりする。

 つまり、1日5時間寝ているようじゃダメで、4時間しか寝ないぐらい、多くの時間を勉強に集中しないと大学には受からないという意味がこの言葉には込められているのだが、福岡はこういう根性論も自分には合わないと断言する。

「今は医学的にも、睡眠時間が必要だということがわかってきていますから。僕はちゃんと6、7時間ぐらい睡眠時間を取るようにしていますし、僕は理屈でいくほう、理にかなったことをしていくほうが好きなんですよ」

 そんな福岡が、高校時代と浪人時代に得意な科目は何だったのか?

「どっちかというと僕はバランスタイプで、あまり得意も苦手もないけど、強いて挙げれば化学でしたね。やっぱり、化学のどういう風にその現象が起こって、ちゃんとその理屈を知ってみるというところが面白いかなと。ただ暗記するのではなく、なんでそういう反応が起きるのかっていうことを理解した時、すごく面白くなるんです」

 もちろん、学生時代に勉強した内容について、今は思い出せないことや忘れていることもたくさんある。福岡は「それはもう老化だと思って、しょうがないこととしてやっていきます」と笑うが、逆に、この年齢まで経験を積んだからこそプラスになった科目があることにも気づいたという。

「最近は、もしかしたら化学より英語のほうがいいかもしれませんね。ラグビーをやっていて、英語に触れる機会が増えて。実際に英語で話す選手たちがたくさんいたので、ある程度聞けるようにもなってきましたし、いろいろなニュアンスもわかるようになってきたので」

 15人制ラグビー日本代表として2015年と2019年のワールドカップ、そして、セブンズ日本代表として2016年のリオデジャネイロ五輪で世界と戦い、ラグビー選手としてだけでなく、社会人としての経験値もアップさせてきた福岡にとって、英語が今回の医学部受験のアドバンテージになる可能性は高いと言えよう。

 ちなみに、福岡が苦手にしているのが国語系の科目。

「今は勉強していませんが、古文ですね。医学部の受験に必要だとしたら、厳しかったかな(笑)」

 福岡をはじめとするラグビー選手には、どこか頭がいいイメージがある。そのことについて尋ねたところ、福岡からこんな答えが返ってきた。

「頭がいいかどうかはわかりませんが、ラグビーはすごく頭を使うスポーツなので、そういうところで、頭の回転が速い、ひらめきがある選手は多いと思います。

 ラグビーはすごくシステム化されていて、決められたことをすれば、フィジカルに強いチームがある程度のところまではいけるんです。けど、そこから考えてプレーすることができるようになると、フィジカルで負けている場合でも、うまく挽回できるチャンスが出てきて、強いところにも勝てるようになってくる。それが、頭がいいイメージにつながっているのかもしれませんね」

 さらに、日本の社会にはラグビーという競技が合っているのかもしれないと、福岡は言う。

「社会に出るうえでは、ラグビーという競技の精神は、すごくいい影響があると思うんです。基本的には自己犠牲をいとわない、自分が目立てばいいだけではないというのは、ラグビーのひとつのよさでもあるのかなと。そういう競技としての精神、人格形成の部分が、日本の社会の中でいい方向に作用しているような気がしています」

 まさに、今回の新型コロナウイルスに立ち向かう医療従事者の姿は、ラグビーの"One for all, All for one"の精神を体現するものだった。

「親族をはじめ、自分のまわりにもたくさんの医療従事者がいますし、そういうなかで、こういう状況になった時にこそ、いかにその存在がどれだけ大きくなっていくのか、それを、僕だけでなく、日本中、いや世界中の人たちが気づいたと思います。その世界にこれから飛び込むうえで、あらためて責任がある、やりがいがある仕事なんだなと実感しました」

 福岡はラグビーで培った精神を持ちながら、これから医学の世界で羽ばたくため、現在、受験勉強という雌伏の時を過ごしている。