> スパ・フランコルシャン・サーキットは世界屈指のドライバーズサーキットであり、レーシングドライバーなら誰もが好きだと明言する場所だ。 しかしその一方で、セクター1とセクター3はそれぞれひとつしかコーナーがなく、それ以外は全開。全長7.00…

 スパ・フランコルシャン・サーキットは世界屈指のドライバーズサーキットであり、レーシングドライバーなら誰もが好きだと明言する場所だ。

 しかしその一方で、セクター1とセクター3はそれぞれひとつしかコーナーがなく、それ以外は全開。全長7.004kmの1周のうち、約78%もの距離(時間では1周1分42秒の約68%)がスロットル全開という超高速サーキットなのだ。



レッドブル・ホンダが超高速サーキットに挑む

 母国オランダに隣接するこのスパ・フランコルシャンは、マックス・フェルスタッペンにとって準地元グランプリである。毎年大勢の"オレンジアーミー"によって観客席が埋め尽くされる。

 しかし伝統的に、レッドブルはスパ・フランコルシャンを苦手としてきた。いや、レッドブルが苦手というよりも、パワーに勝るメルセデスAMGやフェラーリが優位に立ち続けてきたと言うべきだろう。

「トップスピード。長いストレートが多い。ダウンフォースレベルとのバランスを取るのが難しい。だからここは伝統的に僕らには合っていない」

 フェルスタッペンはそう言い切る。その状況は、今年も変わらない。

 ホンダはフェラーリやルノーを上回る性能を発揮しているようだが、メルセデスAMGとの間にはとくに予選で大きな差をつけられている。

 予選パワーでメルセデスAMGの後塵を拝しているだけでなく、バルセロナでは高速コーナーの弱さも露呈した。メルセデスAMGに勝っているエリアがひとつもないどころか、コーナーではレーシングポイントやフェラーリより劣っている箇所さえあった。

 ということは、パワー差がより大きくタイムに反映されるスパ・フランコルシャンでは、メルセデスAMGとの差が大きくなり、レーシングポイントとの差が縮まることを意味している。

「僕らはトップ争いができる状況にない。純粋なペースを見れば、計算上、僕らは遅すぎる。僕らが勝つためには、メルセデスAMGのミスや不運を待つしかない。まだまだやらなければならないことは山積みだよ」(フェルスタッペン)

 導入準備が進められていた予選モードの禁止(正確には予選と決勝でのモード切替の禁止)は、次戦のイタリアGPへと先送りされた。

 つまり、ベルギーGPではこれまでどおりの厳しい戦いが予想される。それはホンダの田辺豊治テクニカルディレクターもよくわかっている。

「ここからの3連戦は、スパもモンツァ(第8戦イタリアGP)も高速サーキットで、ムジェロ(第9戦トスカーナGP)もかなり高速。かなり厳しい戦いになるのではないかと思っています。

 当然、パワー感度(パワーがラップタイムに与える影響)の高いサーキットではパワーユニットに求められるものはパワーになりますので、絞り出すだけ絞り出すしかない。マシンパッケージとして(ダウンフォースとドラッグレベルの設定を)どこまでチームと一緒にやれるかだと思います」

 パワーがなければ、最高速を確保するためにダウンフォースを削らなければならず、コーナーを速く走ることができなくなる。ダウンフォースがなければ、コーナーを速く走るためにはウイングを立てなければならず、ストレート最高速が遅くなる。

 理論上の最速ラップタイムとなるように、最適な妥協点を見つけ出す作業を行なうわけだ。だが、実際にコース上を走ってみれば理論どおりでなかったり、ラップタイムが最速でもストレートが遅ければ決勝では競争力がないため、タイムを捨ててでもダウンフォースを削らなければならないこともある。

 田辺テクニカルディレクターの言う「マシンパッケージとして」というのは、そういう意味でうまくマシンを仕上げる必要があるということだ。

 パワーでもコーナリング性能でも負けていれば、勝ち目はないように思える。

 しかし、スパ・フランコルシャンと同じように全開率が高くパワー感度の高いシルバーストンで、レッドブルは予想以上の善戦をした。予選では大差でも、決勝では差は小さくなる。

 実力で勝つことは難しくても、そのセットアップのバランスをきちんと見つけ出して自分たちの実力を最大限に引き出していれば、王者メルセデスAMGに何かの綻びがあれば、そこに付け入ることができる可能性も出て来る。

 今週末のベルギーGPには、昨年よりも1ステップ柔らかいタイヤが持ち込まれており、これはメルセデスAMGがタイヤに苦しみレッドブルが勝利した70周年記念GPと同じ。C2〜C4というタイヤアロケーションまで同じだ。

 ただし70周年記念GPとは違い、ピレリの指定する最低内圧は少し上げられただけで、あまり変化はない。またメルセデスAMG勢がブリスターに苦しむのを期待するのは難しいかもしれない。

 それでもタイヤに大きな負荷がかかるスパ・フランコルシャンで柔らかいコンパウンドをうまく使いこなせるかどうかは、重要なカギになるはずだ。

 さらには雨の予報もある。スパと言えば不安定な天候であり、これにいかに対処するかが予選やレースを大きく左右することも少なくない。

 当然、雨が降ればパワー感度は下がり、パワー差によるタイム差は小さくなる。田辺テクニカルディレクターはそれに期待するつもりはないと言うが、チーム力で逆転するチャンスになることもまた事実だ。

 先週のインディアナポリス500では佐藤琢磨とホンダエンジンが優勝し、2017年までそのインディの世界で活躍していた田辺テクニカルディレクターとしても感慨深いものがあったという。

「HPDが開発したエンジンを搭載したマシンが予選から非常に好調で、トップ9台のうち8台、レースも1−2−3−4、そして佐藤琢磨選手が2度目のインディ500制覇。ここ数年インディ500では分が悪かったのですが、HPDのメンバーたちの努力が報われました。

 前回優勝した時、琢磨選手が語った『夢は叶う』という言葉を強く覚えています。またその夢に挑戦して成し遂げた琢磨選手に心からお祝いの言葉を贈りたい。夢を信じて前へ進む勇気を我々にくれたことに感謝しています」

 今のレッドブル・ホンダの実力では、メルセデスAMGを上回ることはできない。しかし、レッドブル・ホンダ自身が全力を出し切っていなければ、そのチャンスを掴むことすらできない。レーシングポイントやフェラーリなど、背後にはいくらでもチームが迫ってきている。

「タイトル争いは、まだあきらめていない」

 逆転の望みをつなぎ、そう言い続けるためには、この超高速3連戦が正念場になりそうだ。