> スーパーGTシリーズは鈴鹿サーキットに舞台を移し、8月22日・23日に第3戦が行なわれた。近年の鈴鹿大会は5月開催で定着していたが、新型コロナウイルスの影響によって今年は久々に真夏のレースとなった。トヨタ・スープラとホンダNSX-GTの…

 スーパーGTシリーズは鈴鹿サーキットに舞台を移し、8月22日・23日に第3戦が行なわれた。近年の鈴鹿大会は5月開催で定着していたが、新型コロナウイルスの影響によって今年は久々に真夏のレースとなった。



トヨタ・スープラとホンダNSX-GTの前を走る日産GT-R

 この時期にかつて行なわれていたのは、「鈴鹿1000km(173周)」の名称で呼ばれたシリーズ屈指の耐久レース。2017年まで46回にわたって行なわれ、真夏のビッグイベントとして人気を博していた。ただ、今回は通常の300km(52周)でのレースである。

 300kmという距離は、今のスーパーGTではスプリント勝負と言っても過言ではない。さらに気温30度、路面温度50度を超える異常な暑さも相まって、アクシデントが多発する荒れた展開となった。

 その波乱のレースのなか、GT500クラスで速さを見せたのは、これまで不振にあえいでいた日産だった。

 なかでも際立っていたのは、予選2番手からスタートしたMOTUL AUTECH GT-R(ナンバー23)の松田次生/ロニー・クインタレッリ組だ。見事な走りでトップに出ると、後半もしっかりとポジションを死守。23号車にとっては2018年の第2戦・富士以来となる勝利を飾った。

 日産勢のエースである23号車は、毎シーズン必ず勝利を挙げるなど、その名に恥じない成績をこれまで築き上げてきた。しかし、昨年はまさかのシーズン未勝利。今年も開幕からトヨタとホンダに先行を許し、一部のファンからは「日産は遅い!」と陰口も叩かれていた。

 日産のブランドを背負う松田とクインタレッリは、我々が想像もできないほどのプレッシャーと戦っていたのだろう。レースを終えて戻ってきた松田と、それを出迎えたクインタレッリは、ともに目頭を熱くしながらパルクフェルメで2年ぶりの優勝を噛みしめあった。

 富士で行なわれた開幕2戦、たしかに日産勢はかなりの苦戦を強いられていた。だが、第3戦では見違えるような走りを披露。前回までの2戦と、何が違ったのか。松田はこのように分析する。

「当初のスケジュールだと、富士での開催は今年1回だったので、ダウンフォースを多めにするコンセプトでクルマを作っていました。その結果、富士のストレートスピードで厳しい状況になっていたのです。ただ、鈴鹿に来ればダウンフォースの多さが生きると思っていた。それが見事に当たりました」

 通常なら、富士スピードウェイは1年に2回開催。しかし、東京オリンピックの自転車競技の会場として同サーキットが使用されることになり、今年は1回のみのスケジュールが組まれていた。

 日産勢はコーナー重視のサーキットでの開催が増える傾向を読み取り、ダウンフォースを多めにするコンセプトを立ちあげた。これが、開幕2戦で裏目に出たようだ。クインタレッリはこう語る。

「シーズンの最初はいいセッティングを見つけられなくて、開幕戦の時はまだいろんなテストをしている状態でした。ただ、マシンを改善したことで徐々に速さが見えてきて、タイヤに関しても(種類の選択など)アプローチを少し変えた結果、それがいい方向に働いてくれました。今後に向けてもすごくいいデータが取れました」

 コースの相性やマシン、タイヤの改善はあったにせよ、ドライバーの実力が伴っていなければ勝利を手にすることはできない。今回のレースのターニングポイントを、23号車の鈴木豊監督はこのように語った。

「序盤に一度、ロニー(クインタレッリ)が38号車(ZENT GR Supra)に抜かれながらも、ヘアピンで抜き返してくれた。あれが、流れを大きく変えた瞬間だったと思います」

 クインタレッリは1周目からアグレッシブな走りを見せていたが、2周目のシケインで立川祐路が乗る38号車に先行を許してしまう。しかしその瞬間、クインタレッリの闘志に火がついた。

 前を走るトヨタ・スープラを執拗に攻め立て、38号車が13周目のヘアピンでGT300クラスの集団に捕まるやいなや、隙をついてアウト側から豪快にオーバーテイク。さらにその後もスピードを落とさず、GT300クラスの車両を掻き分けるようにして38号車を置き去りにしていった。

 クインタレッリの勢いは、まだ止まらない。今度はトップを快走するModulo NSX-GT(ナンバー64)に照準を当て、こちらもオーバーテイク。トヨタとホンダをぶち抜いていく走りは、実に見事だった。

「2周目に抜かれた時は悔しかった。でも、過去に(ヘアピンで)アウトからオーバーテイクしたことがあったので、今回も試したらうまくいきました。あのオーバーテイクがなかったら、レースの展開は変わっていたかもしれません」(クインタレッリ)

 開幕3戦を終え、トヨタ、ホンダ、日産が1勝ずつで並んだ。しかし、鈴木監督は「まだまだ」と語る。

「表面上は1勝ずつですけど、レースの中身をしっかり見ると、まだトヨタさんの独走状態のように感じます。これから日産勢4チームで、そこを何とかしていきたい。

 次の第4戦もてぎは、ここしばらくGT-Rが苦戦しているコース。23号車もウエイトハンデが重くなって厳しい状況です。ですが、12号車(カルソニック IMPUL GT-R)や24号車(リアライズコーポレーション ADVAN GT-R)にしっかりと優勝争いに加わってもらい、なんとかいいシリーズを皆さんにお見せできるようにしたいです」

 ようやく苦戦を抜け出した日産勢。シーズン中盤に向けて、彼らの巻き返しに注目だ。