最初で最後のチャンス 「2021年には特別な思いがあります」。一年後を見据え、佐藤千夏(スポ3=埼玉栄)は笑顔でこのように話す。昨年のユニバーシアードでは銅メダルを獲得し、自身初となる国際大会の表彰台に登った。数々の大会で好成績をたたき出し…

最初で最後のチャンス

 「2021年には特別な思いがあります」。一年後を見据え、佐藤千夏(スポ3=埼玉栄)は笑顔でこのように話す。昨年のユニバーシアードでは銅メダルを獲得し、自身初となる国際大会の表彰台に登った。数々の大会で好成績をたたき出し、東京五輪は自由形での出場が期待されている佐藤。だが、その裏には、努力を積み重ねる日々があった。佐藤は自身の水泳にどのように向き合ってきたのか。そして、東京五輪出場に懸ける思いとは。

自由形を専門としている佐藤

 多くの選手が幼い頃から意識していたオリンピックという存在。そのオリンピックに対する思いを伺うと、「今までもですが、今もあまり意識していません」という意外な言葉が返ってきた。今まで、一つの大会を特別意識して練習をしてこなかったと話す佐藤。納得のいくタイムを出すという自分の信念の下で常に練習を重ねてきた。この信念は、佐藤の試合に向けた準備にもつながっている。試合前、佐藤は自分が思い描く理想的なタイム、さらに今の自分が出せる現実的なタイムを計算するようにしている。合計タイムだけではなく、ラップタイムまで予想しておくことで、より細かくレース展開をイメージしているそうだ。さらに試合後、想定していたタイムと実際のタイムを比較することで、自分の泳ぎを確実に振り返ることもできる。

 このような綿密な分析は、佐藤が得意としている自由形長距離種目において特に生きている。長距離種目は短距離種目に比べてターンの数が多く、泳いでいる時間も長い。特に1500メートル種目ではタイムが15分以上を越え、確実なペース配分が求められるのだ。最初の50メートルをどのように入るか、そこから前半の折り返しに向けてどのようなペース配分を行うか、そして後半にどうつなげ、ゴールまで泳ぎ切るか。このような一見細かすぎるような分析は、長距離種目で戦う上でとても重要なのである。実際、佐藤は2015年高校総体において400メートル自由形と同800メートルにおいて二冠を成し遂げた。大学入学後はスランプを乗り越え、2019年の日本選手権では見事400メートル自由形で3位入賞を達成。日本学生選手権でも2位入賞を果たすなど、好成績を積み上げてきた。自分の泳ぎと向き合い試行錯誤した日々が、今の佐藤を形作っているのである。

2019年日本選手権では400メートル自由形の表彰台に4年ぶりに返り咲いた

 新型コロナウイルスによる東京五輪の延期。五輪を目指している多くのアスリートがこのニュースに衝撃を受けた。佐藤自身も、五輪選考に向けてハードな練習を重ねていただけにショックもあった。だが、今まで経験したことがない長いオフの期間は、自分とゆっくり向き合う時間にもなった。試合のことは考えず、「モチベーションのスイッチはオフにしていました」と話す佐藤。毎日陸上トレーニングに励みながらも、自分の時間を持ち、ストレスを解消することで気持ちをリセットできたそうだ。また、普段はほとんど注目していなかった海外選手の泳ぎを見る機会にもなった。今まで見たことが無かった、自分の専門種目を泳ぐ海外選手を分析することで、改めて自分の泳ぎを見直すきっかけにもなったのだ。この春は五輪選考会に向け、今まで以上に張りつめた毎日を送っていた。その足が一度止まったことで、気持ち新たに練習を再開できたのである。

 大学入学前、佐藤は大学卒業で競技人生に終止符を打つことを決意していた。「大学4年間で水泳人生の集大成として結果を出すと決めていました」。タイムリミットを決めることで、常に緊張感を持って試合に臨み、結果を出すことを自分に課したのである。卒業後は大学での学びや競技経験を活かし、理学療法士を目指して勉強を続けるそうだ。そんな佐藤にとって2021年は長い競技人生のラストイヤー。つまり、東京五輪は、オリンピック出場の最後のチャンスとなる。佐藤は、自分のキャリアを語る中で「オリンピック出場は必要条件」だと話す。だからこそ、五輪出場への気持ちは誰よりも熱い。そんな佐藤は、得意の女子400メートル自由形や同800メートルはもちろん、東京五輪で新しく導入される1500メートル種目での出場を狙っている。リオ五輪の選考会では「ピリピリした空気に完全に飲まれてしまった」と振り返る佐藤。選考会の壁を越え、五輪の切符を手にすることはできるか。これからの佐藤の泳ぎに期待したい。

2019年の日本選手権レース前。来年の選考会ではどんな泳ぎを見せるか

(記事 小山亜美)