専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第268回 我々"マニュアル世代"のオジさんは、デートの前日となれば、枕を抱いてキスの練習をしていました......って、ホンマかいな。 たしかに昔は、デートのマニュアル本がたくさ…
専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第268回
我々"マニュアル世代"のオジさんは、デートの前日となれば、枕を抱いてキスの練習をしていました......って、ホンマかいな。
たしかに昔は、デートのマニュアル本がたくさんありました。おおよそ、そうした本にはこんなことが記されていました。何時にどこぞのレストランで食事をして、それから夜景のきれいなバーでお酒を飲んで、いい感じになったところで彼女のほっぺに軽くキスをして、ホテルのキーを見せる......って、すでに予約してあるのかよぉ~。
とまあ、突っ込みどころ満載のデートマニュアル本なのですが、昨今のゴルフ雑誌のレッスン記事もマニュアル化していて、それを見て練習して、本当にうまくなれるのだろうか? と甚だ疑問に思っています。
そもそも3次元のゴルフの立体的な運動を、文字と写真で解説されても、それを理解するのが難しいです。だって、我々多くのアマチュアゴルファーは、レッスンの先生が目の前で教えてくれても、実践できないことが多いのですから。記事を読んで、その技術を身につけるなんて、至難の業です。
以前、ゴルフ雑誌のレッスン記事の、熱心な読者に取材したことがあるのですが、みなさん、シングルクラスのオジさんばかりでした。つまり、すでに技術も知識も経験も豊富な人たちだから、雑誌のレッスン記事からでも「一を聞いて十を知ること」ができるんですな。
じゃあ、最近の若者世代は、どんな感じなのでしょうか?
先日、話題の「黄金世代」に続く、「プラチナ世代」の若手女子プロゴルファーを取材したライターさんに話を聞いたのですが、彼女たちには、オジさん世代のゴルフの表現があまり通用しないそうです。
要するに、理屈でゴルフを覚えたのではなく、感覚でゴルフを覚えてきたというのです。だから、レッスンの取材などで「ドローボールをどうやって打つの?」と聞いても、彼女たちは「こんな感じに構えて、こんな感じで打つ」という表現になってしまいがちなんだとか。
「グリップはストロングで、スクエアに構えて、テークバックはコックを使わずに......」といった、ゴルフ雑誌的な表現は出てこないそうです。
もちろん、解説者ではないのですから、自分の動きを言語化できなくても、なんら問題ないんですけどね。実際、彼女たちはちゃんとしたテクニックを持っていますから。
翻(ひるがえ)って、我々オジさんは、教わったことを一度マニュアル言語に翻訳して、頭にインプットします。
たとえば、バンカーショットは「オープンスタンスにして、フェースを開いて打つ」ということを、呪文のように唱えます。それから、自分なりに調整してモノにしていきます。
どのぐらいのオープンスタンスがいいのか。フェースの開き方はどの程度か。靴をどれぐらい砂に埋めればいいか。加えて、その時のグリップの長さはどうか、とかね。
そうして、再びコースに来て、すっかり忘れていた呪文をまた繰り返し唱える......って、ほんと覚えが悪いですなぁ~。
ところが、若くて勘がいい子は、何回か打っているうちに、本能的にベストな打ち方を習得してしまうのです。センスがあるってことです。
センスのあるなしは、非常に大事なことですが、もともとセンスがない人は、今さら「センスを磨け!」と言われても、どうしようもないですよね。カラオケで言うと、音痴はなかなか治らない、ということですから。
それでもゴルフの場合、サッカーでやっているような、クラブを使ってのリフティングをやると、感覚が研ぎ澄まされて上達する、と言われています。常にクラブとボールに馴染んでおくと、知らぬ間にセンスがよくなるみたいです。
ただ、実際のところ、そうしたことはなかなかできません。オヤジ世代からすれば、そういうことを"遊び"でできる人が羨ましい。リフティングだって、修行の一部、あるいは"拷問"にしか見えませんから......。
では、才能もないし、表現力もないオヤジゴルフファーは、これから何をすればいいのか?
実はあるんですよ、とっておきの"技"が。それは、"反復練習"というものすごく地味な練習方法です。
同じことを繰り返し練習する反復練習が、再び脚光を浴びたのは、みなさんもご存知、渋野日向子選手が全英女子オープンの優勝を決めたウイニングパットからです。
最終18番ホール。そこで優勝を決めるには、カップインがマストでした。そんな状況で、6mの難しいラインを入れにいくのは、もはや神業です。
それができたのも、渋野選手がコーチに課せられたパットの練習を毎日こなしてきたからこそ。それは、長短さまざまな距離を四方からすべて入れなければ、最初からやり直し。それが終わらなければ、家にも帰れないという、とんでもない練習をしてきた成果であり、その結果得た、超スーパーテクニックなんです。
松山英樹選手ですら、「あのパットは僕には打てません。おそらくショートするでしょう」と言っていましたからね。まさしく渋野選手は、想像するだけでも恐ろしい反復練習によって、誰にも真似のできないパターが打てるようになったのです。
それは素晴らしいことだけど、「自分には関係ない」とぼやいたり、「自分にはできない」と嘆いたりする人がたくさんいるんでしょうね。でも、心配ご無用。世のオジさんたちは、渋野選手が活躍する以前から、ずっと反復練習をやってきています。
練習場に行ったり、ゴルフ場でラウンドしたりしてきたでしょ。その積み重ねが大事。これからも、それを繰り返していくことが大切なんじゃないですか。
センスある若者に対抗するには、地道な努力を重ねるしかないと思うのですが...。illustration by Hattori Motonobu
世の中のシングルクラスの人は皆、こう言います。
「ショットはそこそこ。ミドルなら、2打でグリーン周りにボールを運べばいい。あとは、寄せとパットよ。そこで、3割"寄せワン"が取れたら、シングルになれる」
要は、寄せワンが決まらず、すべてボギーでも「90」ですよね。でもそのうち、寄せワンパーが6個あれば「84」。ハンデキャップはスコア調整しますから、平均「84」なら立派なシングルじゃないですか。
ですから、世の中の上手いオヤジたちは、ショットの練習が2割。6割がアプローチで、2割がパットといった感じです。パットは大事だけど、飽きますからね。
結局、誰でもできそうだけど、実際は誰でもできるわけではない――それが、パットの練習なんですな。
でも、日頃から少しでもやっておけば、ぜんぜん違うそうです。よく家のリビングなどに、パターマシンを置いて練習している人がいますけど、案外、ああいうのでも成長するらしいですよ。
今は亡き我が師匠、後藤修先生の赤堤(世田谷区)の自宅を訪問した時、ぺなぺなになったパター練習マットが放り出されてありました。「これ、誰が使ったんですか?」と聞くと、師匠は「尾崎(将司)も、中嶋(常幸)も、ここで打って練習したぞ」って言うじゃないですか!? そりゃもう、びっくりですよ。
そういえば、後藤先生の家の庭には、芝を打ちすぎて、単なる土になっているところや、そこでさらに打つから、窪みになっているところがたくさんありました。そこも、ベアグランドのアプローチ練習に使ったんだとか。いやはや、単なる土がいい練習場所になるって、ウエッジが傷だらけになっちゃいますよね。
というわけで、地道な反復練習こそ、オヤジゴルファーの最大の武器。それが、センスある若者に対抗する、唯一の手段です。
そう考えると、渋野選手って、センス抜群で、反復練習の鬼ですから、無敵ですわ。そりゃ、世界レベルのトーナメントでも優勝できますよ。今後も、その活躍を大いに期待しています。