渋野日向子選手がディフェンディングチャンピオンとして臨む今季初の海外メジャー、AIG全英女子オープン(8月20日〜23日)が、今年はスコットランドのロイヤルトゥルーンGCで開催されます。 日本的なコースとも言える、イングランドのウォーバー…

 渋野日向子選手がディフェンディングチャンピオンとして臨む今季初の海外メジャー、AIG全英女子オープン(8月20日〜23日)が、今年はスコットランドのロイヤルトゥルーンGCで開催されます。

 日本的なコースとも言える、イングランドのウォーバーンGCで開催された昨年の大会は、ほとんど風がなく、雨が降ることもなく、4日間を通して温かい日が続いて、まさに"ゴルフ日和"でした。海外トーナメント初出場だった渋野選手にとって、そういった点が幸いしたことは少なからずあったと思いますし、優勝の後押しになったことは間違いないでしょう。



全英女子オープン連覇を狙う渋野日向子。今年もその笑顔が弾けるか

 しかしそれは、いつもの全英女子オープンの風景ではありません。ナイスショットをしても、チャンスにつけられるとは限らないのが、本来の全英女子オープンであり、その舞台となるリンクスコースです。つまり、リンクスコースのロイヤルトゥルーンGCで開催される今年こそ、本当の意味での全英女子オープンと言えるかもしれません。

 何年か前から、私も全英女子オープンの現地取材に行かせていただいていますが、選手たちが予想もしないアクシンデントに見舞われている姿を幾度となく見てきました。風の影響や芝の状態によっては、完璧なショットを打ったとしても、ボールが予期せぬ方向にバウンドしたり、思った以上に転がったりしてしまうのが、リンクスコース。あの宮里藍さんが、同じポットバンカーに何度も入れたり、ブッシュからのショットで空振りしたり、といったシーンも見てきました。

 また、申ジエ選手が優勝した2012年大会(ロイヤルリバプールGC)では、彼女だけ曲がらないゴルフをしていました。でも、そんな彼女でさえ、OBを打ったわけでもないのに、トリプルボギーを叩いてしまうなど、日本のコースでは起こりえないことが起きてしまうのが、全英女子オープンであり、リンクスコースなんです。

 さらに、「一日に四季がある」と言われるように、リンクスコースでは移り気な天候にも対峙していかなければいけません。2016年にロイヤルトゥルーンGCで開催された男子の全英オープンを映像で確認しましたが、長袖の選手がいたり、合羽を着た選手がいたりしますから、今回もその準備は必要でしょう。

 加えて、強風が吹き荒れ、雨まで降るようなことになると、かなり過酷なゴルフを強いられることになります。ボギーで収まらず、トリプルボギーになることも普通に起こり得ます。そこで、どう気持ちを切り替えていくのか。そういったことを含めて、リンクスコースの戦いで何より求められるのは、"我慢強さ"です。

 昨年の渋野選手は、慣れない海外の大会で「早く日本に帰りたい」と語るなど、無欲で臨んだ大会でした。しかしそのわずか4日間で、彼女を取り巻く環境は、大きく変わりましたよね。

 以降、彼女の一挙一動が注目され、そのまま多忙なオフを過ごすことになりました。その結果、今年の大会に向けては、渡英前の意気込みからして、昨年とはまったく異なります。周囲からの期待も大きく、連覇を狙えるのは自分だけ、といった思いも自らの気持ちの中にはあるでしょう。

 だからこそ、新型コロナウイルスの感染拡大によって、長い充電期間となったこのオフには、アプローチのバリエーションを増やし、スイングの改造も行なってきました。そして、全英女子オープンの前週には、スコットランド女子オープン(8月13日~16日)にも出場。準備や調整においても余念がありません。

 そうした状況にあって、すなわち、昨年とはまったく違った立場や気構えにあって、彼女がどんなプレーを見せるのか、どれだけのプレーができるのか、非常に興味があります。

 昨年は4日間、ニコニコと笑顔を振りまいてプレーしていただけれども、今年はどうなのか。怖いもの知らずで、果敢にピンを狙っていって、強気のパッティングが光っていたけれども、今年も同じようにできるのか。

 自然との戦いであることを改めて痛感させられる舞台にあって、彼女がどういう表情でプレーをし、何を考え、どうやって気持ちをコントロールしていくのか。そのプレーぶりが、とても楽しみでなりません。

 昨年とは違った状況ですから、確かに不安もありますが、昨季も異常なほどの"フィーバー"にさらされながら、渋野選手はその重圧に屈することがありませんでした。自らのゴルフを崩すことなく、最後まで賞金女王争いを演じました。メンタルの強さは折り紙付きで、周囲の期待も力に変えられる選手です。そんな彼女に対しては、期待のほうが大きいです。

 ただ、昨年はピンを積極的に攻めていったことで、流れに乗ることができましたが、今年のコースでは、別の方法も考えておくべきでしょう。ピン脇に深いポットバンカーがあれば、大ケガをしないためにも、グリーン中央を狙って、セーフティーに迂回するマネジメントも必要になると思います。

 さらに風のことを考えれば、それに合わせたクラブ選択や、その影響を受けない低い球を打つなど、これまで以上に、頭を使ったゴルフが求められます。

 常に前向きに取り組む姿勢こそ、彼女の強みですが、舞台経験が少なく、コロナ禍で実戦経験も少ない状況にあって、今回の全英女子オープンでは、手堅く、慎重なプレーの追求も必要でしょう。自らの直感を信用し、目の前の一打に集中して、ひたすらパーセーブを心がける――そうしたゴルフに専念する場面が増えてもいいと思っています。

 あと、ひとつ気になるのは、ショートゲームでしょうか。先にも触れたとおり、このオフにアプローチのバリエーションを増やしてきた彼女ですが、今季初戦のアース・モンダミンカップを見る限りでは、自分の武器になっている、というところまでには至っていない印象を受けました。

 パターを使ってもよさそうなところでも、ウェッジを手にして、オフにやってきた練習の成果を、せっかくだから"出したい""試したい"という気持ちのほうが強かったように思います。結果として、それがいいほうに出たかというと、少し疑問があります。

 そうしたなかで、全英女子オープンでは、どういう選択をするのか。できれば、オフにやってきた成果を発揮したいのはわかりますが、その思いにとらわれすぎないでほしいと思っています。全英オープンや全英女子オープンでは、50ヤード手前からでもパターを使っているシーンが見られるように、リンクスコースでは転がしこそ重要とされています。迷ったら無理することなく、得意のパターを選択してほしいですね。

 リンクスコースでは、パッティングでも風の影響を受けます。その辺りは、スコットランド女子オープンで経験してきてほしいですね。その4日間で、いろいろなことを学んで、本番の全英女子オープンに生かしてもらいたいです。

 2016年の男子の全英オープンでは、グリーンの速さは10フィートほどでした。今回も同様に速くない設定であれば、微妙なラインを強気で打っていく渋野選手にとっては、プラスとなるでしょう。

 まずは、初日の前半の9ホール。そこで躓くことなく、流れをつかんでほしい。そんなことを言っていると、連覇を期待してしまいますが......、期待しすぎるのは、彼女にとって酷なこと。どんな結果であろうと、ここでの経験は今後に必ず生きるはずですから、彼女には自分らしいプレーを心がけてほしい。

 とにかく、結果への期待はあるにしても、リンクスコースで、渋野選手がどんなプレーを見せてくれるのか。私の最大の楽しみはそこ。ファンのみなさんにも、そんな彼女のプレーぶりを存分に堪能してほしいと思っています。