> キックオフから何分もしないうちに、両者の間には大きな実力差が横たわっていることが理解できた。7連勝中と4連敗中。その勢いの差だけではない。チームとしての完成度が、あまりにも違いすぎた。川崎の攻撃を牽引するレアンドロ・ダミアン(写真右) …

 キックオフから何分もしないうちに、両者の間には大きな実力差が横たわっていることが理解できた。7連勝中と4連敗中。その勢いの差だけではない。チームとしての完成度が、あまりにも違いすぎた。



川崎の攻撃を牽引するレアンドロ・ダミアン(写真右)

 ホームの等々力に大分トリニータを迎えた一戦。川崎フロンターレは開始5分に大卒ルーキーの三笘薫のゴールであっさりと先制すると、24分には相手のミスを誘い、レアンドロ・ダミアンが追加点をマーク。被シュートわずか1本と危なげない展開で、2−0と快勝を収めている。

 今季の川崎は、開幕戦こそサガン鳥栖と引き分けたものの、リーグ再開後の第2節から怒涛の7連勝を達成。前節は2位のガンバ大阪との首位攻防戦も制している。

 その強さが本物であることは疑いようがないものの、果たして彼らに"落とし穴"はないのか。そんなテーマを掲げてこの試合に赴いたものの、「ない」と結びつけるほかない試合だった。

 まず、攻撃面に目を向ければ、正確かつスピーディなパスが縦方向へと向かって行く。お互いが絶妙な距離感を保ち、まるでテレビゲームのように、よどみなくボールが動いていった。横か後ろが大半を占めた大分のそれとの対比もあって、川崎のパスワークがより際立って見えた。

 本来、縦パスはカウンターのリスクが備わるものだが、川崎の場合はそうは感じられない。たとえカットされても、すぐさま奪い返しに行く。その間に後方のポジションを立て直し、カウンターを食らわない陣形を整えているのだ。

 前線からのプレスもきいていた。大分のビルドアップを封じるべく、高い位置から圧力をかけていく。そのスタイルを主導したのは、アンカーの位置に入った田中碧だ。

 インサイドハーフのふたりを追い越し、相手の出しどころを仕留めていく。パス方向を限定させられた大分は、バックパスに逃げざるを得なかった。レアドロ・ダミアンの追加点も、このハイプレスが導いたものだった。

 30分過ぎあたりにややボールを持たれる時間帯もあったが、しっかりとブロックを築いて相手に隙を与えない。ここでも際立つのは、ポジショニングのよさだ。素早くスライドして常に詰められる状況を生み出す。ボールを回すだけで必死の大分がむしろ、追い詰められているように見えたほどだった。

 川崎に隙が生まれると思っていたのは、後半立ち上がりの15分。過去8試合で、この時間帯にもっとも失点しているからだ(と言っても3失点のみだが)。

 しかし、この日の川崎はこの"魔の時間帯"を無難にやり過ごすと、その後はほとんどハーフコートマッチのような展開で、敵陣で試合を進めた。攻め込みながら追加点こそ奪えなかったものの、「落とし穴」の「お」の字も見えないほどのパーフェクトゲームで、破竹の8連勝を達成した。

「連戦のなかでしっかりと選手が結果を出してくれたこと。スタートからいい形で得点を重ねていったこと。最後まで失点をゼロに抑えたこと。これは評価できると思うし、次につながると思っている」

 鬼木達監督は非の打ちどころのない完勝劇を、そう振り返った。ただし、こうも付け加える。

「欲を言えば、3点目。選手にも言いましたが、そこまで行ければよかった」

 たしかに指揮官が言うように、内容的には2点では物足りない。一方的だった後半に1点も奪えなかったのは課題だろう。決定力不足に泣き、3連覇を逃した昨季を踏まえれば、今後に向けての不安材料と言えるかもしれない。

 もっとも、これもすでにリードしている状況なのだから、「落とし穴」というよりも、ちょっとした「段差」にすぎないか。

 むしろ驚きなのは、選手層の厚さだろう。この日は快進撃の立役者だった家長昭博と山根視来を欠きながら、クオリティは大きく変わらなかった。代わって入ったジオゴ・マテウスは及第点のパフォーマンスを示し、三笘は先制ゴールを奪う活躍を見せた。

 ほぼ勝負の行方が決した後半途中からは、旗手怜央、宮代大聖と若手を次々に投入。余裕があるから選手を試せるし、経験を積ませることもできる。ハードスケジュールの今季は総力戦が求められるが、川崎は結果を出しながら、チームの底上げにも取り組めているのだ。

 ほかにも守田英正、車屋紳太郎、齋藤学と日本代表経験がある実力者がベンチに控え、大黒柱の中村憲剛、今季3得点の長谷川竜也も、ケガからの復帰に向けてコンディションを整えている。

「全員が考えを理解したなかでサッカーをやってくれていると思っている」

 鬼木監督が言うように、誰が出ても変わらないサッカーを実現できる基盤が、今の川崎には備わっているのだ。すでに圧倒的な強さを見せながら、さらに伸びしろが残されているとは、恐ろしいかぎりである。

 唯一、不安要素を上げるとすれば、過去のデータだろうか。

 昨年のFC東京は12試合負けなし、2018年のサンフレッチェ広島も9試合負けなしだったが、ともに最終順位は2位に終わっている。2015年の浦和レッズは19試合負けなしの記録を作ったが、こちらは年間順位で3位だった(この年は2ステージ制)。川崎にとっては看過できないデータだろう。

 もっとも、「落とし穴を見つける」と息巻きながら、結局データ頼みとは。穴があったら入りたい......。