「世界の美女サッカー選手8人」はこちら>>ボランチで攻守のバランスを取る柏レイソルのキャプテン、大谷秀和 8月8日、日産スタジアム。横浜F・マリノスは、昨季王者の実力を示している。そのプレースピードと連続性は、柏レイソルを完全に凌駕していた…

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ボランチで攻守のバランスを取る柏レイソルのキャプテン、大谷秀和

 8月8日、日産スタジアム。横浜F・マリノスは、昨季王者の実力を示している。そのプレースピードと連続性は、柏レイソルを完全に凌駕していた。マルコス・ジュニオール、天野純など、ボール技術の高い選手をそろえているだけでなく、コンビネーションが綿密に鍛えられ、前にボールが入った時の迫力は満点だった。

「自分たちがボールをしっかり握って、たくさんのチャンスも作り出せていた。いい試合ができたと思う」(横浜FM/アンジェ・ポステコグルー監督)

 しかしながら王者は、本拠地で1-1と引き分けに持ち込むのが限界だった。昇格組である柏は、いかにして敵地で勝ち点を拾ったのか?

 2020シーズン、柏はJ1でしぶとい戦いを見せている。開幕戦に勝利した後、再開後は3連敗したが、怒涛の4連勝で巻き返した。その勝負強さは、いかにもネルシーニョ監督らしい。

 チームの旗印になっているのは、10ゴールで得点王争いのトップに立つケニア代表FWオルンガだ。

 横浜FM戦も、オルンガは持ち味の身体能力の高さによって、ゴールを強奪している。アバウトに蹴られたロングボールに反応。相手DFがバックパスをしようと空振りをした瞬間だった。背後から猛然と詰め寄り、強さと速さで奪い去る。立ちふさがったディフェンスを大きなストライドでかわし、シュートコースを作ると、右足で叩き込んだ。

<どれだけパンチを打ち込まれて、ダウンしそうになっても、オルンガというカウンター一発で相手をマットに沈み込ませる>

 それが柏の戦いの形と言えるか。

 しかし、それを成立させているのは、MFでキャプテンの大谷秀和(35歳)である。

 再開後、連敗していた時の柏のプレーは壊滅的だったが、大谷が先発に復帰することで、一転して連勝街道に入った。オルンガも3試合無得点だったが、5試合連続得点を記録している。劇的にプレーの質が上がったわけではない。大谷が適切なポジションを取ることによって、守備の乱れが減ったことが、攻撃につながっている。

 オルンガの爆発がクローズアップされるが、鶏が先か卵が先か。

 大谷はまず、守備のフィルターとなれる。相手の攻撃に対し、インサイドに侵入する敵を丹念に潰し、コースを限定。色気を出さず、堅実に持ち場を守ることで、守備を安定させられる。

 なにより、常にいいポジションを取れるため、周りの選手のポジションもよくなる。チーム全体を、正しい流れに矯正できると言ったらいいだろうか。選手同士の補完関係を作り出し、それは必然的に攻撃にもつながるのだ。

 横浜FM戦も、大谷は正しい場所に、正しいタイミングでいることによって、相手ボールを何度も無理なくパスカットし、迅速に攻撃につなげていた。

「ダイレクトを使えるか、だと思います」

 大谷は、ボランチの資質についてそう語っている。

「ダイレクトで(ボールを)弾けるということは、周りが見えていないといけないし、そのスキルもないといけない。視野を確保し、身体の体勢を作っておく必要もあります。予測し、準備することが欠かせないですね」

 横浜FM戦、大谷は密集地帯でも多くのボールをダイレクトでつなげ、何度もカウンターを発動させていた。視野の広さ、イメージの豊富さは、JリーグのMFで屈指。プレーを決して複雑化しない。日本では、ボランチのがむしゃらさや泥臭さを賛美する傾向が強いが、準備の時点で大半が決まっているポジションと言えるだろう。

 もっとも、大谷はダイレクトに固執しているわけでもなかった。終盤、無理なバックパスを受けて喜田拓也に詰め寄られた時には、くるりと鮮やかなターンでかわし、オルンガに縦パスをつけ、カウンターにつなげている。高い確率で、正しい判断を下せるのだ。

「ボランチは真ん中にいる以上、みんなをサポートできる距離にいないといけません」

 大谷は、端的にその作法を説明している。

「動きすぎるべきではないんです。動きすぎると、ボランチ同士の距離が広がったり、近づきすぎてしまったり、相手にスペースを与えることになる。そうなると、全体でポジションを修正しないといけなくなってしまう。それは無駄な動きになるんです。その効率の部分は大事になりますよね」

 良質なボランチは論理的に、効率よくチームを機能させる。

 横浜FM戦、後半の大谷はシステム変更でアンカー的になり、左右にMFを従え、巧みに守備ラインを保った。一瞬の隙を突かれる形で、オナイウ阿道に同点弾を叩き込まれたが、被害を最小限にしたと言える。少しでも色気を出していたら、守備は崩壊していただろう。両チームの間にはそれだけの力の差があった。

 オルンガの得点量産は守備の安定によるもので、守備が破綻したらオルンガのゴールもしぼむ――。大谷のプレーが柏のバロメータだ。