スポットライトのまばゆさばかりに目を奪われていると、時として「本質」を見過ごしてしまうことがある。Jリーグ最年少デビューを果たした中学3年生、FW久保建英(くぼ たけふさ)をめぐるフィーバーは、その典型的なケースとなるだろう。15歳5カ月1…

スポットライトのまばゆさばかりに目を奪われていると、時として「本質」を見過ごしてしまうことがある。Jリーグ最年少デビューを果たした中学3年生、FW久保建英(くぼ たけふさ)をめぐるフィーバーは、その典型的なケースとなるだろう。

15歳5カ月1日の久保はFC東京U‐23の一員として、11月5日に駒沢オリンピック公園陸上競技場で行われたAC長野パルセイロとのJ3第28節で、2点を追う後半開始と同時にピッチへ投入された。

久保建英 参考画像(c) Getty Images
この瞬間に、チームメートのMF平川怜が6日前のSC相模原戦で樹立した、16歳6カ月10日のJ3最年少出場記録を大幅に更新。2001年以降、つまり21世紀生まれの選手で初めてJリーグの公式戦の舞台に立った。

同時にすべてのカテゴリーを含めても、2004シーズンのJ1でFW森本貴幸(当時東京ヴェルディ、現川崎フロンターレ)が樹立した15歳10カ月6日のJリーグ最年少出場記録を12年ぶりに塗り替えた。

■天才少年を見るために7653人が集まる

事前に報じられていたこともあり、スタジアムにはFC東京U‐23の平均の約3倍となる7653人もの観客が集結。噂の天才少年の一挙手一投足に熱い視線を送ったが、久保本人は驚くほど冷静だった。

「順調と言えば、自分的には順調なんですけど…(J3でのデビューは)ちょっと早かったかなと。レベル的にはまだ難しいところがあるんですけど、チャンスをいただいた以上は、たとえ追いつかなくても自分がやれることはやりたいと思っているので。次の機会があれば、また頑張りたいと思います」

後半の45分間プレーして、放ったシュートはゼロ。33分のMFユ・インスへのスルーパスと、その4分後に縦パスを軽やかにトラップしてから左サイドを突破してスタンドを沸かせたが、忘れてはいけないことがふたつある。

久保の所属チームはあくまでも、18歳以下の選手で構成されるFC東京U‐18であること。そして、FC東京が今シーズンからJ3に参戦させているFC東京U‐23は、長年温められてきた育成策のなかでも悲願のそれだったことだ。

トップチームへの予備軍にあたるユース年代のU‐18所属選手が、なぜJ3の舞台でプレーできるのか。そこには若い世代の成長を促すために、Jリーグが長く採用してきた「第2種登録選手制度」がはたらいている。

日本サッカー協会に登録されているすべてのサッカーチームは、年齢無制限の「第1種」から「女子」、40歳以上の「シニア」まで6つのカテゴリーに分けられる。このうち男子の高校生年代が「第2種」となる。

そして、所定の手続きを済ませれば、第2種チームに登録されている選手でもJリーグの公式戦に出場できる。久保はU‐16日本代表のチームメートでもある平川とともに、9月16日にトップチームに登録された。

これがトップチームへの「昇格」と一部で誤って報じられたことで、図らずも大きな注目を集めることになった。チーム側に問い合わせが殺到したことに、FC東京の立石敬之ゼネラルマネージャー(GM)も苦笑いを隠せなかったほどだ。

「いつJ1でデビューさせるのか、といった感じで。ウチとしてはあくまでもJリーグに登録しただけなんですけど、マスコミの方はちょっと加熱しているところがあるので。ただ、そういうタレントをもってはいますよね。日本サッカーの将来を背負って立つというね」

■FC東京の若手育成計画

FC東京に限らず、Jクラブのユース所属選手は夏場を過ぎると高校卒業後の進路が決まる。FC東京でも大学への進学が決まった4人の選手を、トップチームへ登録された選手のなかから外している。

代わりに、来シーズン以降で期待される高校2年生以下の選手6人を追加で登録。そのひとりが中学3年生にして今シーズンからU‐18に「飛び級」で昇格し、高校生のなかに混じってプレーしてきた久保だったわけだ。

Jリーグに登録してさえおけば、トップチームはもちろんのこと、プロ野球の二軍にあたるサテライトチームの公式戦でもプレーできる。ここでクローズアップされるのが、FC東京が今シーズンからJ3へ参戦させているU‐23チームだ。

立石GMは強化部長時代から、ユースとの中間にあたるセカンドチームをもつことを熱望してきた。昨秋にJリーグがセカンドチームをJ3へ参加させることを解禁すると、FC東京は真っ先に手をあげている。

もっとも、同じくJ3へU‐23チームを参加させているガンバ大阪、セレッソ大阪が実質的に2チームを編成し、練習時間なども分けているのとは異なり、FC東京は別々のチームとしては活動させていない。

全員が同じ練習メニューを消化し、週末の公式戦を前にしてJ1でベンチ入りする18人とJ3に回る選手とに分かれる。優先されるのはもちろんJ1で、ケガ人などの関係で、J3へ臨むメンバーはどうしても不足がちになる。

そうした状況を嘆くのではなく、U‐18に所属する有望株を「第2種登録選手」としてU‐23に帯同させて、生活がかかっているプロの選手を相手にした真剣勝負の舞台で戦わせる。

年齢制限のある育成年代の戦いでは気づくことのなかった課題を、翌週のU‐18の練習に持ち帰って克服に努めさせる。53を数えるJクラブのなかでFC東京だけが可能となる育成策が、J3が開幕した3月13日から継続されてきた。

久保建英 参考画像(c) Getty Images
現時点でFC東京U‐18に所属する選手は40人。そのうち実に17人がトップチームに登録され、高校2年生のゴールキーパー高瀬和楠を除く16人の「金の卵」たちがJ3のピッチでのプレーを経験している。

久保のデビュー戦として注目されたパルセイロ戦は、高校2年生のDF坂口祥尉、1年生の平川が初先発にしてフル出場。ベンチで試合終了を迎えた高瀬とMF品田愛斗を含めて、U‐18所属選手が7人を数えている。

そのひとり、センターバックの岡崎慎は累積警告で出場停止となった1試合を除いて、開幕から27試合で先発。2410分間を数える総プレー時間は、FC東京U‐23の先輩選手たちを抜いて最も多い。

SC相模原のホームに乗り込んだ開幕戦前は、期待よりも不安のほうが大きかった。FC東京U‐23を率いた安間貴義監督(現FC東京トップチームコーチ)は、苦笑いしながらこんな言葉を残してもいる。

「前日に初めて練習したときはディフェンスラインを上げるのも、ポジションを修正するのも遅かった。慌ててラインコントロールの練習をさせましたが、今後の彼に可能性を見つけられたことは、FC東京の将来にとってもすごく大切だと思っている。今日のプレーを見れば次の試合も出場させたいし、スタンドで見ていた(FC東京の強化関係者の)方々も可能性を感じたんじゃないかと思います」

J3は原則日曜日に開催されるため、第2種登録選手は学校が休みとなる前日の土曜日にU-23チームの練習に参加。極めて限られた時間のなかで、自らのスタイルや特徴を伝えていく作業を強いられることも成長への糧になる。

もっとも、いわゆる「ぶっつけ本番」でのプレーに対して高校生たちが怯まないように、試合が重複しないなど、状況が許す限りはFC東京U‐18の佐藤一樹監督がコーチとしてJ3のベンチに入り、2種登録選手たちの情報を首脳陣に伝えるとともに、温かい視線を送りながら教え子たちを見守ってきた。

そうした状況で課題をクリアし続け、心技体のすべてで急成長を遂げた岡崎は、来シーズンからトップチームへ昇格することが決定。同じくJ3で23試合、1704分間プレーしているMF鈴木喜丈、出場こそ2試合にとどまっているものの、196センチというサイズに無限のポテンシャルを秘めるGK波多野豪とともに憧れのプロになる。

「FC東京は育成を非常に大事にしてきたクラブなので、その意味ではどうしてもU-23チームが必要でした。実際、今年に入って、実質的には(J3が開幕して)8カ月ですけど、(U‐18の)若い選手たちがものすごく伸びましたからね」

立石GMが笑顔で振り返る育成システムのなかに、2016年11月5日をもって久保も組み込まれた。全体練習に加わったのは試合前日の4日の一度だけ。当然ながら戸惑いがあったことを、試合後に打ち明けている。

「相手チームだけでなく(FC東京)U‐23の選手も、パスのスピードや展開が、自分がいままでプレーしてきたところとはまったく違うくらいに速かった。最初は全然ついていなかったし、自分が思っているよりも速いパスが来てアタフタしたこともありましたけど、だんだん慣れてきて、何もしないで終わるわけにはいかないと思うようにもなった。

今日は高いレベルを経験できたし、ここからどのくらい差があるのかもわかった。ドリブルやパスといった一つひとつのプレーのスピードを上げることで、みんなの速さについていけると自分のなかでは思っているので。反省点や今後へ向けた改善点に気づいたし、そうした差を詰めていくチャンスになるというか、いい機会になると思っています」

ちょっぴり早口で、それでいて的を射たコメントがポンポンと飛び出してくるのは、頭の回転が極めて速いことを物語っている。情報処理能力が高い思考回路は、パルセイロ戦で感じた課題を埋めるための方策を弾き出しているはずだ。

久保建英 参考画像(c) Getty Images
スピード以外でいえばコンタクトプレー。成長期にある167センチ、60キロの久保に対して、パルセイロの選手たちは意図的に体を密着させて、体格やフィジカルの優位性を生かしてその自由を奪おうとした。

長くガンバ大阪でプレーし、日本代表にも名前を連ねたことがあるパルセイロのボランチ、37歳の橋本英郎によれば、そのたびに久保は「ファウルを(主審に)主張するような状態になっていた」という。

それでも相手のファウルを告げるホイッスルは鳴らない。大人になるとともに体が成長しても、世界と対峙するときには必ずフィジカルや体格の差と直面する。どのような工夫をほどこせば、日本人特有の課題を乗り越えて、自らのストロングポイントを発揮できるのか。15歳で味わった悔しさは、未来へ羽ばたくためのヒントになる。

橋本をして「ふたつ先、3つ先を考えてプレーしていた」と脱帽させたセンスを味方に伝え切れなかった点を含めて、緊張と興奮とが交錯したピッチで、久保は自分自身を見失うことなくデビュー戦を総括している。

「パスがほしいな、というのは何回かありましたけど、逆に他の選手がほしいタイミングで自分が出せなかったこともあるし、ボールを取られちゃダメなところで自分が取られたこともあったので。今日はシュートも打てていないし、あまり攻撃にも絡めない時間が多かったので、(自己採点は)15点から20点くらいだと思います。

自分が成長し続けるために大切なのは、やっぱり気持ち。それは貪欲さというか、上にはさらに上がいるという感じなので。自分はまだまだ下なので、どんどん追い越せていけるように。自分は一応アタッカーだと思っているので、相手を抜くとか、ゴールに絡むプレーを意識して、ひとりで局面を打開できるような選手になりたい」

日本国内で開催されたFCバルセロナのスクールで、川崎フロンターレの下部組織に所属していた久保の才能が見いだされたのは10歳のとき。以来、4年間にわたってスペインの地で、名門の下部組織による英才教育を受けてきた。

しかし、18歳未満の国際間移籍を原則禁止とする国際サッカー連盟のルールに、バルセロナが抵触していることが2014年春に発覚。自分のあずかり知らぬところでトラブルに巻き込まれた久保は、突如として公式戦に出場できなくなった。

状況が改善されそうもないなかで、久保は昨春に退団・帰国の道を決断した。このときに移籍先を古巣フロンターレではなくFC東京U‐15むさしとしたのも、立石GMがセカンドチームの保有構想を鮮明に打ち出すなど、成長していくためのレールがしっかりと敷かれていたからに他ならない。

久保建英 参考画像(c) Getty Images
実は久保はFC東京U‐18でも、レギュラーを完全には獲得していない。今夏の日本クラブユースサッカー選手権を制し、得点王も獲得したが、すべて途中出場からのゴールだった。非凡な能力に期待を抱くとともに、立石GMは久保の現状と今後の課題をこう説明してくれたことがある。

「U‐18ではゲームが間延びした状態になると、『違い』というものをすごく出せる。大人のサッカーをしていくためには、それを90分間、U‐18の試合の頭からちゃんと出せるかどうか。森本貴幸の場合は体が先にできあがっていて、そこに技術が追いついてきた形ですけど、久保の場合は技術的な部分で突出している点でちょっと違いますよね。

この1年間で身長も伸びているし、体幹も強くなってきたけど、体重はまだ軽い。筋トレなどをするにもまだ早い段階なので、いまは身長をもう少し伸ばしていきたいという感じですね。性格的には非常にポジティブで明るい。すぐにみんなと打ち解けあって、輪の中心にいる。コミュニケーションスキルは非常に高いですよ」

パルセイロ戦が行われた5日は、FC東京U‐18が勝ち進んでいるJリーグユース選手権の準々決勝も行われていた。しかし、久保や平川を含めた7人をJ3に帯同させても勝てる、という判断のもとで、今シーズンにおける最初で最後の出場チャンスになるかもしれないパルセイロ戦が優先された。

果たして、FC東京U‐18はガンバ大阪ユースに4‐1で快勝。今後は日本クラブユースサッカー選手権との二冠を目指してFC東京U‐18に専念し、もちろん高校へ進学する来シーズン以降も主戦場とする。おそらくは第2種登録は継続され、体の成長度合いを勘案しながら、スポット的にJ3の舞台でもプレーしていくだろう。

焦らず、かつ確実に成長を遂げていくために。華やかなスポットライトを浴びながらプレーしたJ3での45分間は、来シーズン以降に積み重ねられる経験と合わせて、4年後の東京五輪を含めて、ごく近い将来の日本代表を背負うことが期待される久保の成長を加速させていくはずだ。

久保建英 参考画像(2015年7月23日)(c) Getty Images

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