未曽有のコロナ危機に見舞われている今年の日本社会。大学野球への影響も大きく、各地で予定されていた大会は軒並み中止となった。そんな中東京六大学は、時期や開催方式を調整し、8月10日の東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)開幕にこぎつけた。小…

 未曽有のコロナ危機に見舞われている今年の日本社会。大学野球への影響も大きく、各地で予定されていた大会は軒並み中止となった。そんな中東京六大学は、時期や開催方式を調整し、8月10日の東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)開幕にこぎつけた。小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)はこの期間に何を感じ、どのような思いで春季リーグ戦に臨むのだろうか。

※この取材は8月5日に行われたものです。

「(4年生は)強い結束力で結ばれた」


オンラインで取材に答える小宮山監督

――新型コロナウイルス感染拡大により春季リーグ戦開幕が危ぶまれた時期もあった中でしたが、開幕を控えた現在の心境をお聞かせください

 世の中がこの状況の中、野球をさせてもらっているということに感謝をしないといけないということで毎日練習に打ち込んでいました。連盟からの連絡等でとにかく最善を尽くして、(東京六大学は)天皇杯を下賜されているので、六大学としては開催の方向で全力を傾けると言われていました。なので、行うということを前提に練習等をしていました。8月の中旬に(春季リーグ戦を)行おうという話になったのは実は5月の頭くらいです。その時期を目指して、国内のコロナの感染状況を含めていろいろと考慮して最終的には1週間前の8月3日に決定をしようということでしたので、その日を迎えて正式に連絡をいただいたときには、ほっとしている部分と過去に例を見ない1年ですからその中で早稲田大学の野球部としてどういうことを示せるかということで、学生たちにはとにかく「感謝の気持ちを忘れずに普通に野球ができることを幸せだと思ってプレーをしろ」ということで、彼らにきちんとおかれている状況の説明も丁寧にしたつもりです。なので、準備がどうこうとか言い訳を口にすることはないと信じています。

――開幕が延期になったことによってモチベーションが下がることはなく8月の開幕を目指していたのでしょうか

 やるのかやらないのかどっちかなということは全くなかったです。やるという前提で動いていました。世の中が野球なんかやっている場合じゃないだろという空気の中でもそれぞれがリーグ戦が行われるつもりで練習や自主トレに励んでいたので、グラウンドを解放していただいて人数の制限が撤廃になって普通の日常が戻ってきたタイミングで全員がそれ相応の覚悟を持ってグラウンドに立っていると思っています。そういう点でいうと田中総長(田中愛治早稲田大学総長)の体育会の連中のためにという思いは学生一人一人が理解しているんだろうなとは思っています。

――例年にない日程となっていますが、自粛期間があったからこそできたことはありますか

 世の中がこういう世の中なので、何が正解というのはないと思います。何年か経った時にあの年こうだったという話にはなりますけど、目に見えない敵と戦いながら日常生活を送っているというところでは、野球なんかやっている場合じゃないだろという人が世の中には恐らく相当の数います。なので、そういう人たちに対しても我々は万全を期して、感染拡大防止に努めて何をどうすれば良いのか理解した上で活動しているだと。そこまで選手一人一人がいろいろなことを理解した上でグラウンドで練習していると思っています。過去にない年なので、今の連中、特に最終学年でこういう状況になる4年生というのは悲劇的な部分があるのだけど、結果がどうなろうと強い結束力で結ばれただろうとは思っています。

――全体練習が行うことができず、さらには実家に帰省する選手もいる中、どのようにコミュニケーションを取っていましたか

 監督として全部員にどうということは一切しなかったです。状況が状況だったので自分一人で何ができるかを考えるいい時間になったと思っていました。なおかつそのまま終わるとは思っていなく、必ずこの厳しい状況がいい方向に向かって全員でそろって練習できる時が来ると信じていましたので、その時に今までと違った素晴らしい選手に生まれ変わったというのを見せてくれるだろうなという期待を持ってロックダウンのアナウンスがある時に全員に「自分で自分を磨いてこい」と(言いました)。最初で最後の指示として、早稲田大学の野球部員として次こうしてみんなで集まる時までにしっかり練習を積んでこい、頑張ってこいということでエールは送りました。

――全体練習再開後に選手の目つきに変化はありましたか

 同じタイミングで全員がそろうということはなく、グラウンドが解放されても県境をまたいで帰省するなということで地方に帰っていた連中が東京に帰ってこられないということがありました。全員がそろうというのはなかなか難しかったのですが、いる人間だけで、全体で練習を再開するほどに体調が元に戻るまでどのくらいの日数が必要なのかアンケートをとったら、今すぐでも大丈夫だという心強い奴もいれば、2週間必要だという連中もいたので、2週間はそれぞれがグラウンドで全体練習ができる状態に戻すための練習をしろということで我慢をしていました。2週間後に全員そろえるのかというとまだ帰省先から戻れない連中も何人かいたので全員がそろうまでにはその数日後までかかりました。グラウンドの中で自らを高めるために自らを律してしっかりとした練習をするということで始めて、思っていたよりもそれぞれのところでやっていてくれたなというのが個人的な感想です。もうちょっとにっちもさっちもいかないバタバタした感じになるのかなと思っていましたけど、そこまでひどくはなっていなかったので、競技スポーツセンターから運動部全員に対していろいろなメッセージや自宅でできるトレーニング動画がありましたが、そうしたものをきちんと利用してトレーニングに励んでいたんだろうなということはうかがえました。

――特に自粛期間を通じて生まれ変わった選手はいますか

 オープン戦でまさかの骨折をして春のリーグ戦は無理だろうなと思っていた吉澤(一翔副将、スポ4=大阪桐蔭)が、リーグ戦が後ろにずれたことによって骨折箇所が癒えてそこから強度を増した練習もできるようになっていいかたちで練習に入ってこられたのでこれはありがたかったなと。おそらく通常のかたちでリーグ戦が行われていた場合、吉澤は春は無理でしたので、最上級生になって最後に一花というところで、骨折で離脱は相当苦しかったと思うんですよ。その苦しかった状況が世の中がこういうふうになったことで彼にとっては好転しているはずなので、そういう気持ちがこちらに伝わるくらいグラウンドの中では頼もしい選手になっています。

――対外試合も再開されましたが、ここまでのオープン戦を振り返っていかがですか

 いい試合と悪い試合がはっきりしすぎています。オープン戦はもう残っていないので、10日の明治戦に向けてどうテコ入れしようかなというところでいます。

――最終的には春のオープン戦時とほぼ同じオーダーとなりました。3月終盤はけが人が多かったですが、けがの状況は好転したと見て良いでしょうか

 どうかな。最後の年に一花二花という気持ちでいただろうライトの眞子(晃拓、教4=早稲田佐賀)が間際で離脱してしまったので、戻ってこられるのはリーグ戦が始まるくらいの時かなという感じなんですけど、試合で試す機会がないので使いにくくなってしまったというのはあります。ベストのメンバーを組めているのかどうかでいうと微妙なところはありますけど、眞子の穴を他の選手で補うということで見劣りしない感じにはなったかなという感じです。

――3月の対談で鈴木萌斗選手(スポ3=栃木・作新学院)は課題が多いとおっしゃっていましたが、改善されましたか

 改善を完璧にできたかというと無理です。ただ眞子の代わりになんとかということでかたちとして収まりつつある状況ではあります。こちらの要求が高いといえば高いのでそこにはまだ到達できていないのですが、今日も左ピッチャーからヒットを打ったりしていますので、それを考えるとあの脚力を生かさない手はないだろうという感じにはなっています。


ベンチ前で選手に指示を出す小宮山監督

――今季は相手校のデータが少ない中での戦いになると思いますが、どのようなリーグ戦になると考えていますか

 情報でいうとゼロということではなく、ある程度は手にできています。後は分析でいうと絶対数が足りていなくて、通常のリーグ戦では1週目、2週目と色々なデータが週を追うごとに蓄積されていくのですが、そういったものが8日間で、各校と1試合しか試合をしないというところでゼロに近い状況ではあるんですね。ところがオープン戦の情報などはなんだかんだで手にできているので、それを全員で見て特徴的なものをスコアラーが説明したり、相手のラインナップの予想をしたりということを進めています。全てを完璧に把握することはできないけれど、ある程度のものは用意しているということですね。ただデータで頭でっかちになってもいけないので、基本的にはデータをいかに有効活用するかということです。そのためにこうするああするということをできる能力を持っていないといけないわけなので、その能力をしっかりと持てるように日々練習をして、何とか対応できる力をつけようということが重要ですかね。

――普段のリーグ戦と違って短期決戦ですが、短期決戦ならではの重要なポイントはありますか

 簡単にいえば点を取られないようにすることですかね。いかに最少失点でしのいで、少ないチャンスをものにするかということです。普段の勝ち点制のリーグ戦とは違ってイレギュラーなかたちでの戦いになりますから、そこを目指してどうこうというのをあまりしたくないというのが本音です。通常の六大学野球の試合形式で戦って勝つというのが本来の姿だと思っているので、このイレギュラーなかたちというのがどういうふうに影響するかわかりませんが、我々としては点をやらない、少ないチャンスをいかにものにするか、その点だけを追い求めてやると。秋の通常開催されるであろうリーグ戦に向けてしっかりと結果を残すということが、やらなければならないことだという認識でいます。

――奇抜な作戦などを行うのではなく、基本に忠実にプレーしていくということでしょうか

 奇抜な作戦、奇襲というのは「自分たちの力が劣っています」という証なので、できればそういうことはしたくないですよね。我々はしっかりとした野球をするんだという位置づけで練習を日々行っているので、奇襲というようなことはやりたくないのが本音です。

――今回は8月中旬という非常に暑い時期に連戦となりますが、暑さや疲労への対策はありますか

 これは試合終わりに選手に伝えたのですが、本来であれば固定のメンバーで戦うのが理想です。ところが、酷暑の中での戦いになるので、体調不良が起こりうる状況であると。そうなったときに固定メンバーで戦うよりは入れ代わり立ち代わり選手を使いながら、7日間で5試合を最も効果的に戦う方法を取りたいと考えています。元気であればレギュラーとされる選手が出ますが、思うように体が動かないということが出てくると思うんです。そうなったときにバックアップのメンバーが「俺はバックアップだから」というつもりで試合に出ているのでは困るわけです。チームの主力選手の一人として早稲田のユニフォームを着て神宮のグラウンドに立っているという思いで試合に臨んでもらいたいというのが本音なので、もちろんレギュラーとされる連中、周りも認めている連中が出ずっぱりで試合に出続けることが理想ではありますが、おそらく体力的にそういうわけにはいかないだろうと思っていますので、その辺は上手に選手のやりくりをしたいなと思っています。

――先ほど「点を取られないようにする」ことが重要という話がありましたが、その中で軸となるのはエースの早川隆久主将(スポ4=千葉・木更津総合)だと思います。どのような活躍を期待されますか

 まあ普通に投げてくれれば普通に結果が出ると思っているので、後は真夏のデーゲームでどれだけ体力を維持できるかかな。どうしてもやっぱり線が細いので、1試合投げてどれくらいバテるのか想像がつかないですから、そのあたりのがちょっと心配ではあります。

――今年は早川選手の打順が8番ですが、その狙いは何でしょうか

 後ろを打つ予定が熊田(任洋、スポ1=愛知・東邦)なのですが、もしこれが8番熊田9番早川となってしまうと、一塁が空いているときに熊田が歩かされてしまうんですね。熊田は1年生なので、できれば普通に打つ経験をさせたい選手なんですよ。神宮球場のグラウンドで普通に試合に参加させるかたちを取るには、ピッチャーの後ろを打たせた方がいいだろうという判断です。

――今年はエースナンバーの『11』を柴田迅選手(社4=東京・早大学院)がつけていますが、どのような期待を込めてそれを決められましたか

 11に関しては、早川がキャプテンじゃなければ早川につけさせました。右のエースとか左のエースとかいろいろ言っていますが、右も左も関係なく11番が早稲田のエースなので。とにかく11を最上級生の柱になる奴に背負わせると。で、早川が10番を背負ってしまったので、4年生で誰かとなったときに、柴田にしっかりやれということでつけさせました。

――3月の対談で山下拓馬投手がキーマンになるのではないかというお話がありましたが、この短期決戦においても山下投手の役割は重要になりますか

 元気であれば5連投させたいくらいです。全ての試合に登板させて、秋に飛躍するための大事な5試合にしたいなと思っていますね。

――かなり期待をされているということでしょうか

 はい。投手陣の中でキャリアがない選手なので、最も期待しています。神宮投げたことのないピッチャーにこれだけ過度の期待をするのはどうかと思いますが、それだけ期待してもいいと思わせるものを彼は持っているので、個人的に相当期待しています。

――打線のキーマンは誰になりますか

 これは誰が何と言おうと4番の岩本(久重、スポ3=大阪桐蔭)。早稲田の4番がどれだけ仕事ができるかということだと思うんですよ。春も言ったと思いますが、マスクを被って守りのことも考えながら、打線の中心でチームを引っ張っていくのは相当大変な作業になります。ところがライバルである慶応に4番キャッチャーでキャプテンまでやっていた男(郡司裕也前主将、現中日ドラゴンズ)がいたのを目の当たりにしているので、やればできるという思いになってもらわないと困りますし、「俺もやってやろうじゃねえか」と、難しいことを乗り越えてやろうという意気込みがこちらにもひしひしと伝わるくらい練習中から張り切っていますので、かなり期待しています。

――それでは最後に春季リーグ戦に向けた意気込みをお願いします

 さっきも言いましたがイレギュラーなかたちでの戦いなので、この戦いに勝ったからどうというようなことではないなとに個人的に思っています。ただイレギュラーなかたちだからこそ、早稲田大学の野球部として優勝という結果を残すことが使命なのだろうとは思っています。なのでとにかく勝つに越したことはないというつもりで、一試合一試合、一イニング一イニング、一球一球とにかく集中して大事にして戦っていきたいと思っています。考えている通りに事が進めば負けることはないと思っていますので、選手が自信をもってグラウンドで勝負できるような環境をつくってあげたいなと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 池田有輝、望月清香)

◆小宮山悟(こみやま・さとる)

1965(昭40)年9月15日生まれ。千葉・芝浦工大柏高出身。90(平2)年教育学部卒業。早大野球部第20代監督