今特集の最終回には早川隆久主将(スポ4=千葉・木更津総合)が登場する。新型コロナウイルスの影響によって、例年とは大きく異なる状況で東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)を迎えることとなった。それでも、主将として、エースとして、狙うところは…

 今特集の最終回には早川隆久主将(スポ4=千葉・木更津総合)が登場する。新型コロナウイルスの影響によって、例年とは大きく異なる状況で東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)を迎えることとなった。それでも、主将として、エースとして、狙うところはただ1つ。チームの命運を握る男に、今の思いを伺った。

※この取材は8月4日に行われたものです。

「野球ができている環境ってすごい」


オンラインで取材に答える早川

――今日もオープン戦がありましたが、いかがでしたか

 少しまだ、暑さ対策ができていないなというのは感じました。

――チームで何か対策をとっていますか

 一応、ベンチの中でアイシングをしたり、首を冷やしたりと、体温を下げるようにしています。体温が上がってぼーっとしないようにということで。水分補給をこまめにとったりというのを徹底したりもしています。

――暑くて最も困るのはどんなところですか

 ユニフォームが結構汗を吸ってしまうところですかね。ユニフォームで指先を拭こうと思っても、汗で濡れてしまうので、触っても意味がないという状況でした。汗がついた手をどこで乾かそうかという、そういう対策を今後していかないといけないなというのは感じました。

――今日の試合も含め、ここまでの夏季オープン戦の戦いを振り返ってみていかがですか

 まだまだ詰めるところはたくさんあるなと感じていますし、起きてはいけないようなミスもあります。練習の中でやっていれば起きていないようなミスなので、そういうところをまたもう一回、練習の時から見直していかなければいけないなと思います。

――具体的に『起きてはいけないようなミス』とは

 例えば、外野フライを打たれて、ちょっと回転が無回転だったので、無回転の打球に反応できなかったことが挙げられるのですが、バッティング練習の守備の時からそういう打球を捕っていれば対応できるはずなので…。やっていれば捕れていたので、それが詰めるところかなと思います。

――現段階のチームの仕上がりに点数をつけるとなると

 50点くらいですかね。半分くらいの力しか出せていないのかなというように感じています。練習の中での緊張感というのがなかなか足りていない分、50点になってしまうのかなと。

――ご自身はこれまでに3試合に登板していますが、 調子はいかがですか

 状態としては悪くもなく、良くもなくという感じです。このままの状態を維持してリーグ戦に臨めたらいいかなという状態で投げています。そういう面では特に課題というのもないですね。チームとしての課題というのをどんどん自分で見つけていって、潰していければなという感じです。

――これからは自粛期間中の生活についてお伺いします。まずは、春季リーグ戦が延期ということを聞いて、何か思うところはありましたか

 自分たちの代になってこのような状況になってしまって、特に「野球ができている環境ってすごいな」と思いました。普通が普通じゃなくなるという中で、春(季リーグ戦)も秋(季リーグ戦)もないのではないかというのは率直に感じましたし、自分たちはこのまま引退してしまうのではないかという気持ちにもなりました。

――チームは解散にならなかったのですか

 寮生の20数名は(寮に)残ってはいるのですが、他の選手たちは実家に帰省する人はしてというかたちをとっていたので、寮生の自分たちは(解散せずに)寮に残っていましたね。

――調整は個人個人でしていく、というようなかたちだったのでしょうか

 人によってですけど、選手とコミュニケーションをとってやる人もいましたし、自分なりに考えて練習するという人もいたので、それぞれですね。複数人でやったり、個人でやったりというかたちでした。

――早川選手自身はどのように過ごされましたか

 体づくりというか。追い込み期間、冬の期間にもう一回立ち戻って、自分の体を作り上げて、というように段階を踏むということを最初に考えました。体づくりを行ってからは、徐々にボールに触ったり、野球の動作に近づけていく、というかたちで自粛期間を過ごしていました。

――具体的にはどのような練習を行っていたのでしょうか

 体づくりはランニングであったり、ウエイトトレーニングであったりっていうようなことを行って。徐々にシャドーピッチングを行って、キャッチボールの距離を広げていって、今度逆に距離を縮めて、18.44の距離を投げてというように調整を行ってきました。

――トレーニングを経て、体に変化などは起こりましたか

 ウエイトを両方、上半身・下半身を満遍なく鍛えた分、遠投とかをしていても、低い弾道で50~60メートルは投げられるようになったので、出力というのが変わってきたなというのは感じました。

――いくつか記事を読んでいると、体重が去年の秋の75キロから80キロまで増えていましたが、意識的に増やしたのでしょうか

 そうですね。好意的に増やしたというかたちです。自分の中で、今の時期(夏場)に体重が減るというのを毎年感じていたので、自粛期間中から体重を増やして、80キロの体重を維持できるようにしていました。増やし方も、余分なものをつけるのではなく、ウエイトトレーニングとかで(増やしました)。必要なものをつけて、体重を減らさないようにすることを心掛けました。

――増量は自粛期間前から行っていたのですか

 冬の期間から、最終学年に入る期間にかけて行ってはいたのですが、なかなかうまく増量することができなかったので、自粛期間は(体重を増やす)いいきっかけになったのかなと思います。

――以前、アンケートに自らの『弱み』として『継続力のなさ』を上げていらっしゃいましたが、どのような部分でそのように感じているのでしょうか

 何て言うんですかね。『継続力のなさ』というのは、読みたい本がたくさんあって、好奇心は出てくるのですが、なかなかその本を1冊読み切れるかとなってくると(難しい)。どうしてもたまに飽きてしまうタイミングがあるんですよね。そういう面では継続力が足りないな、というのは感じています。

――逆にアンケートの『強み』の欄には『好奇心旺盛』と書かれていましたが、強みと弱みは表裏一体ということですね

 まあ、注意散漫というか(笑)。自分、いろいろな方向に気が散ってしまうんですよね。気が散ってしまうというか、興味を持ってしまうんです。その分、あっちがおろそかになって、こっちもおろそかになってという…。浅く広くという感じの知識になってしまう、深くまではいけないタイプの人間なのかなと思います。

――野球の練習でも『継続力がないな』と自分で感じる部分はあるのですか

 それはないですね。野球をやっていると、どうしてもウエイトトレーニングとか、ランニングとかのキツイ練習はありますが、それを乗り越えていかないと自分自身の成長につながっていかないので。継続というか、やって当たり前という感覚ですかね。

――本と言えば、早川選手は読書が趣味だそうですが、最近読んだオススメの本などはありますか

 『夢をかなえるゾウ』はやっぱり面白いですね。いろいろな偉大な方の教えというか、自分もそうしたらいい方向につながるんじゃないかと。特に自分はそういう、いいことを取り入れたい、ルーティーン化したいタイプの人間なので。

――読んでみます

 はい。ぜひぜひ。

『起死回生』


昨秋の早慶3回戦で力投する早川

――自粛期間が明けてからはどのような方針で練習を行ってきましたか

 最初、自粛期間でみんながどれほど動いているかというのを把握できていなかったので…。寮生の投手陣は動いている人はいたんですけど。他の選手(の動き)が把握できていなかったので、1週間くらいはメニューを自分たちで考えて、6月の中旬までに体を戻してくださいということだけを伝えられて、そこまでに戻していくかたちでした。で、6月からメニュー自体がどんどん上がっていって、今から2週間前くらいまで追いこみ期間でした。今はもう、ゲームキーの人はゲームの調整を行って、他のメンバーは秋に向けてレベルアップを行っている感じです。

――前回の対談では「投手陣は体力がない」とおっしゃっていましたが、その部分に変化はありましたか

 チームの方針で、特に打者陣が、なかなか生きたボール(を打つ機会がなく)、打撃投手の球を打っていてもあまり練習にならないということで、希望制ではあるのですが、真ん中のバッティングをピッチャーが投げています。結構な球数を投げるので、体力面は少しは強化されているのかなと思います。追い込み期間ではランニングをした後にピッチングをする選手もいたので、いいアピールの場を設けられました。体力面は少しは改善されたのかなと思います。

――その制度は今年から新たに新設されたのですか

 だいぶ前から行ったりはしていたのですが、自分たちの代になってからはそれをまだ行ってはいなかったので、それを実際に取り入れてみるということで。

――同じく前回の対談では「自分達(スポーツ推薦組)を奮い立たせるような存在が少ない」とおっしゃっていましたが、その部分に変化はありましたか

 新入生が入ってきて、新戦力という部分では色々な選手が出てきたという感じなので、奮い立たせてくれます。自粛期間が明けてから、能力が落ちている人は落ちていますし、逆に上がっている人では「こんなにも上がったんだ」というような変化が見られる選手が数名いたので、そういう面では奮い立たせてくれる選手は増えましたね。冬に比べて。

――上がってきた選手とは

 外野手だと、福本(翔、社3=東京・早実)ですね。打撃面に関しても力強くなってきたりもしていましたし、投手陣だと山下(拓馬、法3=埼玉・早大本庄)、原(功征、スポ2=滋賀・彦根東)がすごく状態がよくて、佐竹(商2=東京・早大学院)もだいぶ状態が上がってきていますね。ストレートの質が上がってきた分、試合でも三振や空振りが取れているので、良くなっていると思います。

――今季から新たにフォークの習得に取り組んでいるそうですが、どのようなきっかけで取り入れようと思ったのでしょうか

 チェンジアップだと、打者の手元で奥行きを使うような三振の取り方なのですが、フォークの場合だとそのスピードのまま下に落ちるので、上下の動きというのを取り入れるためですね。真っすぐのスピードのまま落とすというイメージで投げていくことができれば、もっと三振も増えるのではないかと思っています。

――実戦で投げていますか

 はい。何球か。ツーシームが若干スプリット気味になったりすることもあるので、(打者の)反応的には「あ、ツーシームなのかな?」という反応なので、もう少しその区別ができればより一層変わってくるかなと思います。

――ご自身的にはフォークの仕上がりというのはどれくらいですか

 正直言って、まだ60%くらいかなと思います。決まったり決まらなかったりという状況なので。ここから仕上げていくしかないなという感じです。

――「決まったり決まらなかったり」というのは、コントロールの部分でしょうか。それとも質的な部分でしょうか

 うーん。落差がなかなか一定にならないところですかね。急に落ちる時もあるし、落ちが甘くてちょっと抜け球のようななフォークになってしまう時があるので、そこがちょっと甘いかなと。

――他の球種の仕上がりに関してはいかがですか

 実戦では、カーブ、スライダー、チェンジアップ、真っすぐの4球種を主に使って緩急をつけています。配球の難しさを引き出す感じで。ツーシームやカットボールは真っすぐの軌道のまま動く分、バッターも真っすぐの反応で振ってくれるので、打ち取りやすいんですよね。どちらかというと配球で見逃した三振を取るという感じで、リリーフの時はやっていました。

――ボールの精度というよりかは、配球面を意識していると

 キャッチャーの岩本(久重、スポ3=大阪桐蔭)だったり尾崎(拓海、社3=宮城・仙台育英)だったりと組んでみて、「こういう時はこういう球を投げよう」という話し合いをしているのですが、やっぱり決まれば楽しいです。決まらなかった時は、「追い込むまでの何が悪かったんだろうね」という話をして、反省をするようにしていますね。ある意味楽しく野球ができているかなと思います。

――少しさかのぼりますが、春には読売ジャイアンツ2軍との練習試合もありました。実際にプロの打者と対戦をしてみていかがですか

 全然力強さも違いますし、『野球勘』も全然違ったので、プロのレベルの高さを痛感できたなと思います。他の選手にもいい刺激になったかなと。

――具体的に、『野球勘』が違うと思った場面は

 自分が打者の時に、無死一、二塁の状況だったんですよね。自分は遊撃手にハーフライナーのような打球を打ってしまって。セカンドでフォースアウトになって、セカンドランナーもランナーが詰まっていて(三塁に)進まないといけないという状況でした。ただ、ハーフライナーだったので、(セカンドランナーは)1回(二塁に)帰塁してから走っている状態で。打者走者が(投手の)自分だったので、(6-4-3の併殺打を取るという選択をせずに)自分を塁に残して三塁に投げて、二塁と三塁でアウトにしたというプレーがありました。大学野球ではあまりない『野球勘』で、プロは違うなと見せつけられた場面でしたね。(大学野球では)2死三塁でもオッケーというような状況だったのですが、全然違うなと感じました。

――ドラフト会議まであと3カ月弱となりましたが、プロへの思いは出てきましたか

 ジャイアンツの選手と戦ってみて、これだけレベルの高い選手と今後もまた対戦できる、という風に思うと、自分の中ではいい刺激になりました。またもう一回プレーしたいというか、一緒に戦っていければなと実感できました。(巨人戦は)そういう面では、自分の中でプロに行きたいという欲を大きく持たせてくれた試合だったなと思います。

――プロでは甲子園や高校日本代表(U18)を共に戦い抜いた同級生が活躍していますが、彼らから刺激をもらうことはありますか

 高校日本代表では自分以外の全員がプロに入団するというかたちでした。自分も4年前にドラフト会議を観ていて、プロ志望届を(自分自身が)出していない中でみんな出して、「おめでとう」という気持ちの反面、やっぱり「悔しい」という気持ちもあったので。この4年間、特に同級生の活躍は自分の刺激にもなりましたし、あの舞台でみんなと戦いたいという気持ちは持っていました。

――プロといえば、大学日本代表でも親交のあった森下選手が活躍していますが、ご覧になっていますか

 テレビでは見れてはいないのですが、ニュースだったり速報だったりを見て、やっぱりすごいなと感じていますね。

――最後にリーグ戦のお話をお伺いしていきます。まずは目標からお聞きします

 もちろん優勝というのはあるのですが、個人的には勝つことによって、秋のリーグ戦がもし開催することがあれば、それに向けて嫌なイメージをつけることができると思うので、いい機会かなと思います。

――嫌なイメージをつける勝ち方とは

 例えば、4点差があってもそこからひっくり返されて負けるだったりとか、そういう『想定外のこと』を起こして勝てればいいなと思います。

――1試合総当たりの変則的な日程かつ、どの学校も主力選手が抜けたシーズンとなりますが、どのように戦っていきましょう

 相手のオープン戦があまり公開されていない中で、どうやって戦ってくるのかというのもわからないですし、1発勝負というのもあるので、やってきたことを信じて戦っていくしかないと思っています。

――警戒しているチームはどこでしょうか

 もちろん慶応はいい選手が揃っているというか、去年は4年生に柳町さん(達、現福岡ソフトバンクホークス)とか、郡司さん(裕也前主将、現中日ドラゴンズ)、中村さん(健人、現トヨタ自動車)、小原さん(和樹氏)がいた中で、あの4人がいなくなっても台頭してくる選手がいるので、嫌なチームだなという風には感じますね。

――警戒している選手はいらっしゃいますか

自分の中では瀬戸西(純主将、慶大)ですね。やっぱり主将でもあり、足が速い選手なので。瀬戸西が得点に絡んでくると慶応のリズムも良くなってくるので、そういう面では警戒したい選手ですね。

――逆に、早稲田で注目している選手はどなたですか

 岩本(久重、スポ3=大阪桐蔭)がすごく重要になってくるのかなと思います。3年生であり、4番であり、捕手であり、ということですが、あまり責任を負いすぎずに、溌剌(はつらつ)とプレーをしてくれればいいですね。いつも通りの力を発揮してくれれば、自然と結果は出ると思うので。自分は岩本に期待しています。

――いつも写真撮影用に書いている色紙が今回はオンライン取材のためありません。もし書くとしたらどのような言葉を書きますか

 『起死回生』ですかね。

――その心は

 こういう状況の中、いかに追い込まれた中で力を発揮できるかということで。ピンチをチャンスに変えるという意味でも『起死回生』かなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 山田流之介)

◆早川隆久(はやかわ・たかひさ)

1998(平10)年7月6日生まれ。180センチ、80キロ。千葉・木更津総合高出身。スポーツ科学部4年。投手。左投左打。早大野球部が練習やオープン戦に使用している安部球場では、昨年12月から改修工事が行われていました。リニューアル後の同球場は、フェンスや芝生、砂の色までが神宮球場と瓜二つ。これは「神宮により一層近づける」という小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)の発案によって行われたそうです。早川選手も「これだけ大学側にバックアップして頂いたので、それに見合う結果を」と気合十分でした!