ジョン・マッケンロー(アメリカ)が、インかアウトかの判定で主審ともめて「まさか本気で言ってないよな!」と叫んだのは、「ウィンブルドン」の最も有名なエピソードの一つだ。その言葉は様々な場面で使わ…

ジョン・マッケンロー(アメリカ)が、インかアウトかの判定で主審ともめて「まさか本気で言ってないよな!」と叫んだのは、「ウィンブルドン」の最も有名なエピソードの一つだ。その言葉は様々な場面で使われ、多くの人にものまねされた。後にマッケンローは著書の一冊にそのタイトルをつけた。「ウィンブルドン」や米スポーツ局ESPNのYouTubeチャンネルで、その動画は過去5年間に約150万回視聴されている。テニス選手の怒り爆発がなぜ観客に喜ばれるのか、BBCが分析している。【関連記事】ラケット破壊はエンタメ?人はなぜテニス選手の怒りを見て楽しむのか【動画】テニススター達がキレる10選

「マッケンローはショービジネス的な選手でした。彼は怒りを使って観客を試合に引き込んだのです。ニック・キリオス(オーストラリア)も、本人は否定するかもしれませんが、そういう部分を持っています。だから彼は、同じぐらいのランキングの選手に比べてずっと有名なのです」

それは数字で実証されている。キリオスは世界ランキングのトップ10入りしたことはなく、グランドスラムでベスト8より先に進んだことはないが、SNSのフォロワーは240万人にのぼる。

テニスの男女世界ランキングトップ10選手で、キリオスよりたくさんのフォロワーを持っているのは、ラファエル・ナダル(スペイン)(3980万人)、ロジャー・フェデラー(スイス)(3530万人)、セレナ(2870万人)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)(2310万人)、シモナ・ハレプ(ルーマニア)(360万人)の5人だけだ。

キリオスの2020年のエンゲージメント数(いいね、コメント、シェアの合計数)は570万個で、トップ10で彼に優るのはジョコビッチ(2450万個)、ナダル(2250万個)、セレナ(1720万個)、フェデラー(1490万個)の4人だけ。

SNSにおいてだけでなく、ウェブサイトやアプリの記事も同様だ。2019年「ウィンブルドン」の試合後にキリオスがナダルに「ボールを当てたかった」と言ったインタビューは、イギリス国内だけで約100万回視聴された。

その2ヶ月後の「ATP1000 シンシナティ」では、キリオスはラケットを2本破壊し、審判を「ポテト」と呼ぶなどしたが、その動画は他のテニス動画の約7倍の視聴数を集めた。彼が今年の「全米オープン」不参加を表明したのは、その意味でも残念なことだ。

2018年「全米オープン」決勝でセレナが主審を「嘘つき」「泥棒」などと呼んだニュース記事は、英国内だけで200万人以上の人に読まれた。その試合はアメリカ国内で310万人が視聴。これは翌日の男子の決勝より50%以上高い数字だった。

論争を呼ぶ場面はマーケティングに使われる。

マッケンローがあの有名なセリフを叫んだ4年後の1977年、ナイキ社の創設者であるフィル・ナイトはスポンサーとなるべきテニス選手を探していた。テニス界の人々は、「癇癪持ち」のマッケンローはやめておけと忠告。だがナイトはマッケンローをすっかり気に入って、翌年彼と契約した。

米経済紙Forbesのスポーツビジネスを専門とするシニアエディター、カート・バデンハウゼン氏は説明する。「ナイキはスポーツ界でも破格のスターを生み出してきた歴史があります。レブロン・ジェームズ、タイガー・ウッズ、マイケル・ジョーダンのように」

「マッケンローは世界中で人気を集めた才能とカリスマ性にあふれた選手でした。でも彼が同世代で最大のスターとなった理由の一つは、ナイキが彼をバッドボーイとしてマーケティングしたからです」

マッケンローの現代版であるキリオスは、ナイキやヨネックスなどと契約している。ある分析によれば、キリオスが2020年にそれらのブランドのために貢献した金額は31万ポンド(約4,290万円)で、それより多いのはフェデラー(34万ポンド、約4,700万円)だけだ。

バデンハウゼン氏は、「熱心なテニスファン以外には、ビッグ3とアンディ・マレー(イギリス)以外のテニス選手は見分けがつかない、という意見があります。でもキリオスのような選手は目立ちます。エッジが利いているから、ナイキが目をつける理由がある」と続けた。

「彼が才能のある選手なのは見ればわかりますが、同時に人々を呆れさせもする。もし彼のような選手がグランドスラムで優勝したら、ナイキはもっと彼をマーケティングするでしょう」

※為替レートは2020年8月5日現在

(テニスデイリー編集部)

※写真は2019年「ATP1000 シンシナティ」でのキリオス

(Photo by Rob Carr/Getty Images)