昨年の東京六大学リーグ戦では、試合終盤の重要な場面で起用され、圧倒的な安定感を見せチームに貢献した柴田迅(社4=東京・早大学院)。その活躍が評価され、今季は新たに早大のエースを表す背番号「11」をつけ、4年生として大学最後の年を迎える。新…

 昨年の東京六大学リーグ戦では、試合終盤の重要な場面で起用され、圧倒的な安定感を見せチームに貢献した柴田迅(社4=東京・早大学院)。その活躍が評価され、今季は新たに早大のエースを表す背番号「11」をつけ、4年生として大学最後の年を迎える。新型コロナウイルスの影響による長い活動停止期間を乗り越え、どのような投球を見せてくれるのか。今回は、背番号に対する思いや活動停止期間について、そして今季に懸ける思いを伺った。

※この取材は8月1日に行われたものです。

「自分なりの理想の11番というものを」


オンラインで質問に答える柴田

――前回、12月の対談では冬にフィジカル面の強化を意識したいとおっしゃっていましたが、冬の期間はどのような取り組みをされましたか

フィジカル面では特に下半身の強化は自分の中では意識していて、走り込みや体幹のメニューで、筋力をアップするというよりは下半身の安定性を意識したトレーニングをこの冬の間にできました。長所である上半身の柔らかさは落としたくなかったので、柔軟性を維持したまま筋力を上げるという方向で意識しながらトレーニングをしていました。

――今季から背番号が11に変わりましたが、そのことについてはどのように感じていますか

11番という背番号については、ものすごく自分の中では重く感じていて、正直自分が付けていいのかという気持ちが少しあります。でも11番を付けさせてもらうということはそれなりの意味があって自分が付けさせてもらっていると思っているので、11番のあるべき姿というものを考えながら、重荷を感じながら自分なりの理想の11番というものを考えなければならないきっかけになったと思います。

――このことについて、小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)からは何か言われたことはありましたか

監督からは特に言われたことはなかったです。佐藤孝治助監督(昭60教卒=東京・早実)からは「それだけお前は期待されているんだぞ」という言葉をもらって、正直(背番号を)もらってすぐの時は本当に自分で大丈夫なのかな、後輩にも徳山(壮磨、スポ3=大阪桐蔭)とか西垣(雅矢、スポ3=兵庫・報徳学園)とか力のある選手がいる中で、自分が果たしてその背番号をもらっていいのか、という戸惑いはあったのですが、助監督や周りから「期待しているんだぞ」という気持ちを伝えてもらった時には、その期待に応えなければいけないなと思いましたし、そういうところでは自分の中でも大きかったと思います。

――それでは、ここから活動停止期間のお話を伺いたいと思います。この期間はどのように過ごされていましたか

僕の場合は寮に住まわせてもらっていたので、グラウンドからトレーニングの器械を少し持ってきたりして空いている部屋とかで自分のできることを、なるべく体を動かすということを意識しながら過ごしていました。あと、個人的には就職活動をコロナの時期に重なってやっていたので、就職活動と寮の中でできる運動の両立というものを自分の中で意識してやっていました。

――運動というのは具体的にどのようなことを行っていましたか

大きな鏡がある所があるのでシャドーピッチングをしてみたりとか、どうしても腹筋背筋をする場所があまり無かったので、自分の部屋に重りを持ってきて部屋の中で腹筋と背筋をやったり、あとはどうしても外に出て走ったり投げたりすることがなかなか難しかったので、寮の中でラウンジとかを使いながら体幹のトレーニングをやったりと、場所を取らないようなトレーニングを中心にしていました。

――その中で特に大変だったことは何ですか

やはりピッチャーとして繊細なバランスが求められる中で、どうしても傾斜から投げられないとか長い距離ボールを投げることができないとか、野球ができないというところが自分の中では一番苦しんだ部分で、感覚的な部分もどうしても鈍ってしまうので、そういう部分は注意しながらも、苦しんだ部分だったと思います。

――活動停止中、チームメイトとは何かコミュニケーションは取られましたか

寮の中にいるチームメイトとは当たり前のようにコミュニケーションは取っていましたけど、やはりどうしても一人暮らしをしているチームメイトは人との関わりが薄れてしまっていました。特に自分の同期や就職活動とかもあって精神的に負担がかかる時期と自粛期間が重なって、すごく心細い時期が続いていたので、Zoomなどを通して1対1ではなく寮にいるメンバーとその一人暮らしをしているメンバーで何回か話しはしました。

――この期間に新しく入ってきた1年生とは何か話されましたか

熊田(任洋、スポ1=岐阜・東邦)は特に話したかなと思います。寮にいないとなかなか関わる時間が無かったので、熊田が丁度自粛期間に寮にいたというのもあって、1年生の中では熊田が一番コミュニケーションを取ったと思います。

――具体的にはどのような話をされましたか

しょうもない話とか…(笑)。あ、でも熊田の高校時代の話とか、熊田が来る前の大学野球部の様子とか「こういう時代もあったんだよ」とかそういう話をざっくばらんにしていた印象があります。

――開幕の日程がなかなか決まらない状態でしたが、どのようにモチベーションを保たれていましたか

時期がずれて遅くなってしまった、それもいつになるかわからないという状況が続いていましたが、やはり自分的にはどうしても自粛期間中に感覚が鈍るというのがあったので、そこをいかに取り戻してなるべくベストな状態でリーグ戦に臨むかを第一に考えてやっていたので、そんなにモチベーションが下がるというのは自分の中では感じていませんでした。常に維持してベストになるべく近づけるようにするというところにモチベーションがあったので、特に時期がずれてモチベーションが下がるということは無かったです。

――春季リーグ戦の日程が発表された時は、どのように思いましたか

リーグ戦方式ではなく総当たり戦で各校1回の試合で勝敗が決まって、しかも短期間に5試合やるというところで、投手野手関係なくチームとしても大変な短期決戦になるなという印象は受けました。

――活動再開後、練習など今までと様式が変わった部分があったと思うのですが、何か苦労されたことはありますか

チーム全体での練習がなかなかできなくて、グループに分かれて時間を区切って最小限の時間と人数での練習をずっとやっていたので、どうしてもチーム全体で合わせる練習ができず、チーム全体の練習である連携や意思の疎通とかは無意識に難しくなっていたのかなと思います。

――活動再開後に何か意識の面で変わったことはありますか

やはり一番に感じることは、野球ができるということは当たり前のようで当たり前ではなかったということです。本当に今まで野球を当たり前にやってきて、それが今回コロナの影響でできなかったことを通して、自粛明けにグラウンドに出て野球をした時に「こんなに素晴らしいスポーツを自分はやっていたのだ」と改めて感じたので、幸せを改めてかみしめる感覚はありました。

――監督からは何か意識の面でお話はありましたか

やはり最初の方は広い所で伸び伸びとスポーツをする、運動をする、トレーニングをするということはできない環境で何カ月かやっていたので、まずはグラウンドが開放されて練習ができるようになってからは、なるべく自粛前の状態に個々人が努力して近づけていくということをチームに対して言われていたかなという印象があります。状態が段々戻ってきて2、3週間、1カ月ぐらい経ってからは今まで通りの指導を受けています。

――それでは、自粛明けの夏季オープン戦を振り返っていただけますか

オープン戦は正直、自分の中では大学野球人生で一番苦しい時期だったかなと思っています。なかなかコロナ等の影響もあってボールをマウンドから投げるということもできない時期も長く続いて、自分なりに最大限バランスを崩さないようにという努力はしていたのですが、どうしてもやはり実践感覚が少なからず薄れている部分もありました。根本的に若干、自分が3年生の春秋と右肩上がりの状態で来ていたものが、少し4年生のこの春、コロナ(による自粛)明けてのオープン戦で崩れてしまっている部分もあって、段々リーグ戦を10日後に控えて上げることはできているのですが、やはりまだもっとこの10日間で詰めていかないといけないなという状況かなと。先程言ったように11番という背番号に対しても、11番のあるべき姿というところにまだ詰め切れていない部分があるので、そこは10日間でできるかぎり詰められるようにというのは思っています。

――それぞれの球種の状態はどうですか

基本的に今まで真っすぐの状態がずっと良くなかったのですが、最近は真っすぐがやっと自分の中でもはまってきたというか、かかるボールが多くなってきたので真っすぐについてはだいぶ戻ってきているかなという認識ですね。あと3年生の時に軸にしていたカットボールやカーブについては、カットボールは今のところ引き続き状態が良くて、カーブは自分の感覚ではもう一個ブレーキのかかるボールを求めていきたいのですが、ちょっとまだストレートとの球速差とか、勢いをどれだけ殺せるかという部分がまだ詰め切れていないかなというところで、球種の中で言うとカーブがあと一歩という感じですね。

――チームの現状をどのように見ていらっしゃいますか

リーグ戦をあと10日後に控えて、つい最近オープン戦もやり始めたばかりというのもあるのですが、少ない試合数ながらも段々自分たちの中で感覚を取り戻してきているというのは、試合の内容などを見ても言えるのではないかなと思っています。あと3試合オープン戦がリーグ戦までにあるので(8月1日時点)、この3試合でどれだけ自分たちのベストに持っていけるかというところだと思うのですが、チームの雰囲気としては今まで通りリーグ戦に向けて緊張感を持って、雰囲気を上げてこられているのではないかと思います。

「自分たちでどれだけ盛り上げられるか」


昨秋の早慶2回戦で力投する柴田

――それでは、今季はどのような投球を目指していますか

とにかく自分が出る場面というのは絶対に点をやってはいけないと思っています。試合の最後を決めなければならない場面、あとは流れを変えなければならない場面、チームの勝敗を左右する重要な局面というのを任されるポジションでマウンドに送られると思うので、そういう部分では絶対に点をやらないということを第一に考えながら、自分のピッチングでチームにどれだけ勢いをつけさせることができるかというところは意識しながらやりたいなと思っています。

――今季は応援部がいないことが予想されますが、このことに関してはどのように思いますか

応援部がいない試合ということに関しては、自分の場合はフレッシュリーグが同じような状況なのではないかと思っていて、どれだけベンチの声やチームメイトの声というのが出るか、盛り上げられるかに懸かっているかなと思っています。やはり応援部の応援や観客の応援があるのが一番プレイヤーとしてはありがたくて、気持ちが高まるのですが、今回残念ながらそのような機会は設けられていないので、自分たちでどれだけ盛り上がれるかというところがポイントになるのではないかと思います。

――今回、一番警戒している打者はどなたですか

個人的には、瀬戸西(純主将、慶大)ですかね。瀬戸西は自分の中ではチャンスに強いイメージがあって、自分がマウンドに立った時にピンチで瀬戸西を迎えたら要注意バッターだなという印象があるので、そういう意味では瀬戸西が要注意人物かなと思います。

――早慶戦が最後のカードではありませんが、何か意識の面で違う点はありますか

試合の最後のカードではないから違和感がある、感覚的に違うというのは自分の中では特に無くて、あくまで絶対に落としてはいけないカードの5つの内の一つという捉え方でいます。それでもやはり早慶戦というのは絶対に譲れない試合だとは思っているので、そういう部分での気持ちの入れようは他の4試合と比べても強い気持ちがあると思うので、とにかく早慶戦という絶対に負けられない試合に対する思いというのは順番が変わっても変わらずに強いと思います。

――現段階でご自身の今後の進路についてはどのように考えていらっしゃいますか

現在考えているのは…公にするのは初めてなのですが、結局自分の中では就職活動を通して、野球を継続するか否か、就職をするのか、自分の人生について考える重要な時期でもあり逆に苦しんだ時期でもあったのですが、就職活動も無事に終了してあとは野球でリーグ戦を迎えるだけとなっています。今のところの進路としては就職をするか社会人チームとかで野球を継続するか、自分の中ではまだ確定はできていないような状況ですね。

――その確定の時期というのは具体的に決めていらっしゃいますか

本来だったら春のリーグ戦が4月からあって、6月までというので就職活動も6月には落ち着くという予定だったので、自分の中では春のリーグ戦が終わって決断するということを自分の中では決めていたのですが、残念ながらリーグ戦が延びてしまって8月になってしまったので、タイミングとしてはこのリーグ戦が終わったタイミングで自分の中で最終的に決断しようとは思っています。

――ちなみにプロ野球という選択肢は考えていらっしゃいますか

プロというのは結論から言うと、考えていないです。

――それはなぜでしょうか

早稲田大学野球部というレベルの高いチームで野球をやらせてもらって、周りに早川(隆久主将、スポ4=千葉、木更津総合)などプロを目指して努力している選手を見ていて、やはり野球で生きていく覚悟というものを彼らから感じる部分があって、それを自分に当てはめた時にどうだろうかと考えた時、自分の中ではちょっと野球で生きていくということに対する覚悟が彼らと比べて弱いのではないかと思って、プロ野球という世界でやっていくにはそれなりの覚悟が絶対に必要だと思いますし、野球で生きていくんだという強い覚悟がないと生き残っていけない世界だと思うので、そういう意味ではその覚悟が自分の中ではまだ足りないなというところで、プロを進路としては考えていないという状況です。

――それでは、最後にリーグ戦に向けて意気込みをお願いします

とにかく背番号11番ということで、歴代の偉大な先輩方が着けてきた背番号というものを自分が背負うことになって初めてのリーグ戦になるので、とにかく第一にやることはチームの勝利に向けて自分が全力で相手チームを抑えて点を取られずに、チームに勢いを持たせるというところは考えています。それに加えて、11番という背番号をもらったからには11番らしい、チームメイトからも「11番は柴田で正解だ」というように思ってもらえるような、信頼を得ることができるようなピッチングをリーグ戦ではやりたいと思っています。

――ありがとうございました!

 

(取材・編集 石黒暖乃)

◆柴田迅(しばた・じん)
1998(平10)年6月2日生まれ。177センチ、77キロ。東京・早大学院出身。社会科学部4年。投手。右打ち。1試合総当たり制のため一戦一戦が重要となる今季。チームに勢いをもたらす柴田選手は今まで以上に欠かせない存在となっています。集大成となる今年はどのような活躍をしてくれるか、非常に楽しみです!