> メンバー表を眺めた時、ずいぶんと若返った印象を抱いた。サンフレッチェ広島のことである。 GKは21歳の大迫敬介が37歳の林卓人からポジションを奪い返し、3バックの中央には23歳の荒木隼人が堂々と君臨する。左ウイングバックには、立命館…

 メンバー表を眺めた時、ずいぶんと若返った印象を抱いた。サンフレッチェ広島のことである。

 GKは21歳の大迫敬介が37歳の林卓人からポジションを奪い返し、3バックの中央には23歳の荒木隼人が堂々と君臨する。左ウイングバックには、立命館大から来季の加入が内定している特別指定の藤井智也(21歳)が初スタメン。そして2シャドーの位置には、今季より10番を背負う23歳の森島司と、昇格2年目の20歳の東俊希が入った。

 1996年生まれの荒木を除けば、いずれも東京五輪世代の俊英たちである。



攻撃でインパクトを残した2000年生まれの東俊希

 開幕2連勝と好スタートを切りながら、その後の4試合は勝利なし(前節の名古屋グランパス戦は名古屋側に新型コロナウイルス陽性判定者が複数出たため中止となっていた)。悪い流れを断ち切るべく、城福浩監督は若い力に賭けたのだ。

 不調の原因は、明らかな得点力不足。4試合で2得点では結果を得るのは難しい。そんな状況下で、ここまで4ゴールを記録している得点源のレアンドロ・ペレイラがベンチからも外れていた。

 エース不在のなかで、いかに得点を奪うのか。横浜FC戦の焦点は、まさにそこにあった。

 そんな不安をよそに、広島は立ち上がりからアグレッシブな戦いを披露した。横浜FCのビルドアップを封じるべく、絶え間なくハイプレッシャーをかけていく。攻撃ではDFの間や背後を巧みに突き、相手ゴールに迫っていった。

 そのスタイルを牽引したのは、若き2シャドーだった。鋭い動き出しと献身的なプレスを体現した森島と東の走力こそが、広島の攻勢を導いたのだ。

「前線のモビリティは、前回の試合よりもよかった」

 指揮官もふたりの機動力が大きかったと振り返る。

 先制点も、このふたりから生まれた。森島の動き出しに合わせて、東がライン裏に絶妙なフィードを供給。相手の対応を振り切った森島が、力強くゴールに蹴り込んだ。

 その後、広島は青山敏弘のピンポイントクロスをドウグラス・ヴィエイラが合わせて追加点を奪取。今度はオーバー30コンビが貫禄を示した格好だ。若手とベテランの力ががっちりとかみ合い、2−0と快勝を収めた広島が、目論見どおりに悪い流れを断ち切ることに成功している。

 際立ったのは、やはり若い力だ。すでに昨季からレギュラーの座を掴み、日本代表の経験もある森島の活躍には大きな驚きはない。とりわけ目についたのは、やはり東のパフォーマンスだ。

 組み立てに関わりチャンスを演出するだけでなく、自らもゴール前に顔を出し、決定的なシュートを放った。両チーム最多となる5本のシュートを放ちながら無得点に終わったのは反省材料ながら、危険なエリアへ侵入し、相手に脅威を与えていたのは事実だろう。

 後半の立ち上がりにはハーフウェイライン付近でボールを奪い、間髪入れずにロングシュートを放つ。前に出ていた相手GKの頭上を越すシュートはポストに嫌われたが、この大胆不敵なシュートからも、この選手のポテンシャルがうかがえた。

 東は7月28日に20歳となったばかり。日本屈指のアカデミーを持ち、コンスタントにタレントを輩出する育成クラブの広島にとっては、期待どおりの有望株の台頭と言えるだろう。

 もっとも、今季は広島以外でも、2000年生まれ以降の選手たちが次々に出場機会を得ている。

 ベガルタ仙台ではユースから昇格1年目の小畑裕馬(18歳)がGKのポジションを掴み取り、鹿島アントラーズでは高卒ルーキーの染野唯月(18歳)が出番を増やしている。横浜FCの斉藤光毅(18歳)、湘南ベルマーレの鈴木冬一(20歳)は完全にレギュラーの座をものにし、清水エスパルスでは梅田透吾(20歳)が守護神の座を確保した。

 ほかにも名古屋の成瀬竣平(19歳)、セレッソ大阪の瀬古歩夢(20歳)、サガン鳥栖では本田風智(19歳)、松岡大起(19歳)、石井快征(20歳)のトリオがチームに欠かせない存在となっている。

 リーグは異なるが、J2ではジェフユナイテッド千葉の櫻川ソロモン(18歳)がすでに2ゴールと結果を出し、レノファ山口FCではU−18に所属する16歳の河野孝汰がJ2最年少記録を更新するゴールを記録し、8月からプロ契約を勝ち取った。

 20歳以下の選手たちがこれほどまでに出場機会を得ているシーズンも珍しいだろう。その背景には、コロナ禍におけるレギュレーションの変更がある。

 交代枠が5人に増えたことに加え、過密日程においてターンオーバーを採用するチームが増えた。あるいは、降格がないことも影響しているだろう。若手がチャンスを得やすい環境が生まれているのだ。

 海の向こうで活躍する19歳の久保建英の存在が、同年代の選手に刺激を与えていることも想像に難くない。セレッソ大阪の大物ルーキー西川潤(18歳)は、開幕前に同学年の久保について、こう語っていた。

「久保選手は地元も一緒で、同じ左利きなので比較されたりしますけど、彼はすでにスペインリーグで活躍している。リスペクトしていますし、自分も負けてられないという気持ちも、もちろんあります」

 振り返れば、世界に羽ばたく選手は高卒1年目から、Jリーグの舞台で存在感を放っていた。中田英寿をはじめ、中村俊輔、本田圭佑、内田篤人、大迫勇也……。彼らは年齢にとらわれることなく、自らの力を信じてピッチに立ち、早くからその才能を開花させていたのだ。

 未曽有のパンデミックは今季のJリーグにも大きな影響を与える一方で、若い才能が育まれる状況も生んでいる。このチャンスをものにし、大きく羽ばたく選手は果たして現れるのか。新時代を担うニューヒーローが”爆誕”するかもしれない。