昨秋のラグビーワールドカップイングランド大会で4強入りしたアルゼンチン代表に、20-54と大敗。悔しかろう。ところが日本代表は、誰しもが前向きに試合を振り返っていた。 選出の期待されたメンバーが揃わぬなか、本格始動から約1週間で実戦を迎え…

 昨秋のラグビーワールドカップイングランド大会で4強入りしたアルゼンチン代表に、20-54と大敗。悔しかろう。ところが日本代表は、誰しもが前向きに試合を振り返っていた。

 選出の期待されたメンバーが揃わぬなか、本格始動から約1週間で実戦を迎えていたことも関係しているのか。9月に就任したてのジェイミー・ジョセフ新ヘッドコーチ(HC)も、威厳を保ちながらも大らかな人柄をにじませる。「選手を誇りに思う」と繰り返していた。11月5日、東京・秩父宮ラグビー場。選手の通るミックスゾーンに、通夜の雰囲気は皆無だった。
 
「非常にいいスタートが切れたと思います」

 こう語るのは、WTBとして先発の山田章仁だ。ジャパンが歴史的3勝を挙げたワールドカップ以来のテストマッチに挑んだ、31歳。「皆、1人ひとり、やれて(戦えて)いましたし」と、さっぱりしたものだった。相手との差を問われれば、即答する。

「組織力、です。アルゼンチン代表はまとまっていましたし」

 確かにアルゼンチン代表は直近まで、南半球の対抗戦であるラグビーチャンピオンシップを経験。オールブラックスことニュージーランド代表など強豪国との実戦で、チームを練ってきた。別の場所で、山田はこうも続けていた。

「1対1では、皆、負けてなかったと思います。ボールを回せたり、試合に向けて自分たちで(チームを)作っていけたところはよかったかな、と思います」

 自身は、失点直後のキックオフで猛チャージを重ねた。味方の蹴った球の落下地点を予測し、捕球役を見定める。

「毎回、追っているのですが、(ボールを)見失っちゃうことも多々あります。打率は、悪くなかったかと思います」

 その論旨で言うところの「ヒット」は、3-8とビハインドを背負って迎えた前半18分の1本か。グラウンド左中間をしなやかに駆け上がり、ボールを迎えたばかりのファクンド・イサの足元へ刺さる。ノックオンを誘い、歓声を浴びた。

「あれも、ボールがちょっと(視線から)消えましたけど…。タイミングが合って、よかったです」

 敵陣深い位置で、スクラムを獲得。その後、日本代表は何とかフェーズを重ねる。接点からボールを受け取ったSOの田村優が、左タッチライン際へパスを放つ。

 それを受け取った山田は、一気に中央へ切れ込む。身長194センチのLO、ギド・ペティ・バガディサバルと衝突。かねて「触られなければ、(衝撃を受けないという意味では)相手がオールブラックスでも小学生でも同じ」と相手をかわす走りを磨いてきた人だ。

 大男のタックルを浴びる際も、素直には倒れない。ぶつかる瞬間、身長182センチの身体をかすかにかがめる。バガディサバルの腕は肩より上の位置にかかる。ハイタックルの反則。山田は半ば計画通りに、大男のペナルティを誘った。

「相手(の姿勢)が、高い。ボールをキープして、立っていればいいかなと思っていました」
 
 ジョセフHC率いるチームは、新たな守備システムを採用。大外から接点方向へ飛び出し、相手を抑え込む。もっとも、わずかな準備期間で迎えたこの日は、連携のもつれから接点の周辺を破られた。

 これについても山田は、「比較的、トップリーグ(国内のチーム)のなかでは新鮮なシステムなので(完成には時間が必要)」。危機感があるかと聞かれても、「ないです」とのみ返答する。

「コミュニケーションを途切れさせないようにしたい。このチームは、アタックのストラクチャーも人間関係もフリースタイル。それはプラスとマイナスがありますけど(どちらにも働きうるが)、プラスに持っていきたいなと思います」

 規律と自主性のバランスを踏まえてか。大らかな関係性がにじむチームにあって、こんな見取り図を描いていた。チームは6日にトビリシへの移動を開始し、12日のジョージア代表戦に臨む。(文:向 風見也)